「……僕を嫌いにならないで」





 身体中に彼の歯形がついた僕の身体を、僕はぼんやりと眺める。部屋に戻り、シャワーで汗とこびりついた体液を流しながら、僕はシャワールームの鏡に写った自分の身体を見る。

 身体中に、彼の痕がついている。そんな僕の肌はみすぼらしいけれど、それでもとても愛しかった。僕の肌に付けられた肩口の赤い痕に、僕は唇を乗せた。間接的にでも僕は気持ちを込めて彼の唇の後を追う。


 僕はポッターに抱かれた。

 僕の中に無理矢理押し入って突き上げて、苦しくて、僕は助けて欲しくて、彼にすがり付いた。

 何度もキスをしながら、僕を求めてくれた。僕を欲しがってくれた。

 弾けた時に僕の意識も飛んだ。

 気が付いた時に、彼は僕を抱き締めてくれていた。

 とても、幸せだ、などと僕は分不相応にも思った。

 幸福の概念など知らない。不幸でも幸福でもどちらでも同じだと思っていた。今ある事象がただ目の前を通り過ぎていくだけだった。


 僕は、ポッターに抱きしめられて、泣いてしまいそうなほどに嬉しかった。




 僕の身体は言う事を聞いてくれずに、動けなくて、ぼんやりと彼の瞳を見つめていた。
 今にもこぼれそうなほどに目に涙を溜めて、ポッターは何度も僕に謝って許しを得ようとしていた。

「ごめん……マルフォイ、ごめん」

「………」

 僕はその瞳によってもたらされた自分の罪悪感に耐え切れず、横を向いた。

 もう、これは何度目なのだろうと頭の中で指を折る。無理矢理に僕を扱って、それで許して欲しいなどと……。

 許してやるはずがない。元々怒っているわけでもない。


 僕が、望んだ事なんだ。












 誰にも、渡さない。
 ポッターは、僕のものだ。

 それでも僕を彼に与えることができない。好きだと伝えることは、してはいけない。



 僕だって、お前のモノになりたいんだ。

 そう、思うことは何度もある。今も、そう願っている。気持ちを共通化できることをただ、頭の中だけで思い描く。それはどれほどに甘美な空想なのだろう。








 僕は、待っていた。




 今日も来なかった。
 もうそろそろ就寝時間になってしまう。戻らなければ。


 昨日も、来なかった。

 一昨日も。


 ここの所、ずっとポッターはこの部屋に来ていない。



 僕の身体に残った彼の痕も、もうすっかり消えてしまった。


 日常は相変わらずに僕のすぐそばをただ通過する。唯一、ポッターとの視線が交わった時だけ、僕は時間の流れを認識できる。




 ここで、彼に抱かれた。




 ここで、ポッターは僕を抱き締めてキスをして、僕の肌に触れて、僕の中に入って達した。

 ポッターは、僕が好きだって言った。嘘じゃない。嘘なんかじゃない。







 凍ってしまいそうだ。
 ホグワーツ全体が温度管理されているはずなのに、この部屋の空気だけ異質な重量があって、僕は今までだからこそこの部屋が好きだった。


 来ない。

 僕の身体に、彼の熱を残したまま。

 足りない。
 ここにポッターが足りない。

 身体中が彼を求めていた。
 全身で叫びたいほど、僕は彼を求めていた。







 早く僕の所に来ないか。
 何でもしてやるから。

 お前が望むことを何でも与えてやる。



 






 ……僕を嫌いにならないで。












20101119