性的な描写が含まれます。苦手な方、16歳未満のお客様は以下はご覧頂けません。


















「いい匂いがする……」








 吹き込まれる声は、息遣いと一緒になって耳を熱くした。

「君の香り、好きだよ」

 まるで僕を、好きだと言われているような気分だ。心臓を掴まれた気分になる。その言葉は痛みを伴うほどの快感で、本当は、僕の心はもうずっと長いこと彼に捕らえられているのに。

 首筋に香水をつけるのは、ここ数年の習慣だ。自分を存在付けるために、嗅覚に訴える手段は有効だ。嗅覚でも僕をお前に伝えたかった、伝わっているのだろうか?


 耳に吹き込まれる声は、直に能に伝わり、僕の感覚を鈍化させる。彼の息は耳から僕の頭に侵入し、柔らかく脳を覆い込んで、麻痺させる。僕の脳は圧縮され、半分以上は彼の声で埋まる。



「ひっ……あ、」


「ここ。気持ちいい?」

 声と一緒に耳にキスをされる。自分で触れてもそこはただの皮膚なのに。

 力が入らない。



 膝の力が抜けて、僕はその場に座り込んだ。ポッターに掴まれていた腕だけが、高い位置にある。

 僕達は、その体勢のまま、見つめ合った。動けなかった。ポッターの緑色が僕を見ている、僕だけが映っている。


 恍惚と。ぼんやりと、僕はただじっとそれを見つめる。



 僕は、それが宝石のようだと。エメラルドは、僕のものだと。


 だんだんと、ゆっくりと、近づいてきて。


 僕に覆い被さるように。
 僕は床に背をついて。


 高い位置からの視線に恐怖すら覚える。

 彼の背の方が少しだけ高いから、見下ろすのはいつも彼なのだけれど。

 こんな体勢で。逃げることを封じられたこの体勢は、ぞくぞくと、恐怖と……同等に愉悦を覚える。

 怖い。助けてくれ。と………。
 僕はどうにかなってしまいそうだった。恐慌している。逃げ出してしまいたい。どうしていいのかわからない。僕は今これから、どういう反応をすれば僕らしいのだろう。
 せめて、怖がっている姿だけは見せたくない。


 何をされるのか解っていた。僕はそれを望んでいた。彼のモノになりたかった。彼に束縛されたかった。僕が壊れてしまうほどの想いをぶつけて欲しかった。僕が望んでいたことだろう?

 注がれる視線の質量は僕が潰れてしまいそうなほどの重量を伴い、刺殺されそうなほどの鋭角で、僕を拘束した。


 怖くて。
 だから、

 声も出せず……

 見つめ合っていた永遠的なものに思える動きのない瞬間の後、彼が動いた、と………。



 食べられてしまいそうなキスが降る。互いの歯がぶつかって、痛いほどの硬質な音が頭に響く。
 僕は、ただポッターの舌の動きに翻弄されるだけで、動くことすらできない。

 苦しくて、息がつまって、心臓が痛くて……。


 唇を放した彼は、僕に馬乗りになり、体重で僕を押さえつけるようにして僕を拘束し、苛立った手付きでボタンを外す。一つ一つ……それがカウントダウンかのように怖くて、目を瞑る。僕がどうにかなってしまうような気がして、意識を逸らせようとしても、その余地すらない。

 肌に触れた彼の手は熱かった。
 熱い手、が僕の肌に直に触れる。滑るように、余すところなく、触れる。触れられたそこが皮膚と言う僕達の境界で、僕達はそこで別のものになっている。


 肌に、キスが降る。
 唇の感触と、濡れた舌の感触が僕の身体の上を滑る。僕が、溶けていく。
 そうやって僕の身体はだんだんと僕の意思を離れて液体になっていく。

 溶け合って、混ざり合いたい。

「あぁ………、んっ」

 胸の突起した部分を彼が執拗に口に含み、舌で転がす。じん、と身体の末端まで伝わる熱に、僕は浮かされるように喉から声を含んだ息を吐き出した。

 こうやって僕に触れているのが、誰でもないポッターだというだけで、僕の頭と其処は弾けそうだ。

「………っあ!」


 スボンの上から軽く触れられる。

 それだけで、身体が跳ねた。



「へえ………感度良いね」


「や………」

 ポッターの笑顔が今はとても怖かった。僕に笑顔を向けるようになればいいと、そう思っていたのに……向けられた笑顔は、背筋が凍るような気がした。


「直に触ったらどうなるんだろうね」


 僕が暴かれてしまう恐怖。

 僕が望んでいたことだ。僕は彼の欲望の対象になりたかった。動物的な、衝動的な、直情的な、本能的な欲求を僕に向けて欲しかった。僕を求めて欲しかった。だから、僕が望んでいたことなのに。

 僕が、曝されてしまう。


 彼にだけは知られたくない浅ましい僕を曝してしまう。

 ベルトの金具を外す音。僕の腰に座る彼の体重で、僕は逃げられない。

 スボンのジッパーが下げられる、音が生々しく。


「………や……」


 下着から取り出されて、外気に触れた。
 幾分か冷たい空気に触れて熱くなった僕は、それでも彼の視線を感じてますます熱くなって、痛いくらいに感覚が集中している。

 彼の視線さえ、感じてしまうほどに。



「……やっ…だ…」


「ねえ、自分のだよ? ちゃんと見て」


 ポッターの声に、僕は少しだけ、目蓋を持ち上げた。

 上から、見下ろして、その視線だけで僕を拘束している。

 視線が合うだけで僕の身体が熱くて言うことを効かない。



 このままぐちゃぐちゃにされてしまいたい。


「あっ!」

 彼の指先が先端を撫でた。ぬるぬると、……僕が出した先走りの透明な体液を、広げている。

 もどかしい感触に腰が揺れた。

「こんなに糸ひいちゃってる。いやらしいね」

 その先端から指を離したり、押し付けたりして、僕の体液を使って遊んでいる彼の顔は、無邪気な笑顔だったけれど………。


 怖かった。


「ちゃんと見ていて、自分がイくとこ」

 握られて、僕が彼の手の中に包まれる。
 ぞくぞくと背骨を伝い脳に駆け上がる。


「目を閉じないで、マルフォイ」
 ポッターの声に逆らえない。

 聞こえるのが、自分の息遣いと、くちゃくちゃと濡れた音と、優しい声音の命令。

 ポッターの手に追いたてられている僕は、手が上下する度に、先端が覗いた。


 駄目だ。



「ちゃんと見ててよ」

 逆らえない。




 ポッターに触れられている場所、そこだけになってしまうような。
 怖い、僕がどこにもいなくなる。
 その熱が身体中を支配する。


 恐い。






 何も考えられない、熱い、世界が押し寄せてくる、ぐるぐる回る、上なのか下なのか、天井が落ちてくる、ぶつかる、ぶつかって弾ける、………!



「んっ………!」






 熱が一ヶ所に集束され、弾き出された。


 頭の中さえ弾けてしまいそうな強い快感が、身体を痙攣させた。
















100930
硬質な音→皇室直人 誰だ!