近く公園のベンチに座って。夜風は、気持ちよかった。
 ここからなら、僕の今いるホテルもすぐそばだ。


「なあ。お前が好きな相手はどんな人なんだ?」


 マルフォイは、少し饒舌になっている。顔色も、少し赤い。酔っているのかもしれない。
 僕だってさ。
 僕を知ってる人が誰も居ない。その状況は、なかなか無いから。
 好きな人の前で、好きな人の話だってできる。

「んー、プライド高くてさ。思い出と言えば、喧嘩しか無いけど……。美人でさ。嫌われてたけど、笑うと、可愛かったんだ。いつか僕に笑って欲しかった」

「なるほど」

「いいよね、思い出だけでも君は両想いなんだね」

 僕なんか……好きだなんて言うことすら出来なかった相手なんだ。好きだって気付いて貰うことすら出来なかった。
 せめて、伝えて玉砕していれば、まだ気持ちに整理がついた人生を送れていたのかもしれないけれど……口にすることだって、今日が初めてなんだ。


「……まあ、両想いだったって思って居たかった所もあるけど……」

「へえ」

「でも、確信した。僕達は両想いだったんだ」
「それって、自分の都合が良いように考えてるってこと?」
「………いや、確信だ」



 そう言って、マルフォイは………僕の手を、握った……。





「……マルフォイ?」


 僕より、いくぶん、冷たい手だった。


 でも……。


 こんな……こと。

 マルフォイが、僕の手、を?


「お前の手は、暖かいな」
「君は冷たいね。寒い?」


「ポッター……」

 少し、マルフォイの手に力が入る。


 僕の手を握っている。


 昔、僕が振り払ってしまってから、二度と繋がれる事は無いって思っていたのに……今、何故かこんな場所で、二人で、手を繋いでいる。

 接触はそこだけだったのに……身体中が熱くなった。

 どうしたんだろう、マルフォイは。何で僕と手なんか繋ぐんだろう。










「ポッター……僕は、ずっとお前が好きだった」



「え?」


「聞こえなかったのか? 僕にもう一度言わせる気か?」



「………いや、ちょっと待ってよ」



 マルフォイは、今何て言った?


 言語は理解できるけど、僕の頭が悪いのか、理解できない。


 僕は、僕がずっと好きだったマルフォイが僕を好きだって言っているように聞こえたんだけど……。


「マルフォイ……」


 マルフォイは、僕の手を、強く握った……。
 少し、震えていた。



「マルフォイ、こっち向いて」

 顔、見せてよ。
 君が、今、どんな顔しているのか見たいんだ。


 僕は、繋いだ手をそのままに、マルフォイに向き直った。

 マルフォイは、俯いて、真っ赤になっていたんだ……。


 こんな顔も、僕は見たことがない。


 僕は、もっとマルフォイの顔が見たくなって、彼の頬に手を添えた。



 君が、僕はずっと好きだったんだ。


 さらりと鳴るように、彼の髪が流れた。



 上目遣いに、僕を、見た。


 マルフォイの目が、僕を見ていた。


 ぞくぞくする。


 君が僕を見てくれるなら、僕を気にしてくれているなら、嫌いだって思われていても構わないだなんて、そんな事を思っていたくらい、僕は君を好きだったんだ。



「気付かれてたんだ……」


 君を想う気持ちを、君に気付かれていたんだ?



「解りやすかったからな」
「必死で隠してたのに」


 誰にも気付かれて居ないと思っていたんだ。まさか本人にバレてたなんて思いもよらなかった。

「僕達、両想いだったんだ……?」


 気付かなかった。
 君が僕を見る視線に、そんな意味が込められていただなんて、僕は気付けなかった。


「何で、教えてくれなかったの?」
「僕が、言えたと想うか?」

「………まあ」


 無理だろうな。僕だって、言えなかった。言えるような関係じゃなかった。
 君を好きだなんて、きっと誰も認めて貰えなかった。僕はずっと自分の気持ちを否定していた。


 もし回りに認めて貰っても、僕は言えなかった。
 君が好きだなんて……僕が負けたようで悔しかった。


 大敗していたんだけどさ。

 でも、好きな相手よりも、まず僕はライバルとして君に認めて貰いたかった。それで君と対等な立場に立てているような気がしていたんだ。

 だから、君を好きだって認めるのは、悔しかった。言えるはずなかった。
 マルフォイなんか、僕よりプライドが高いんだ。もっと言えなかったよね。


「卒業して、会うことが無くなれば、僕の気持ちはいずれ褪めるだろうって思っていたら、新聞でよく会うようになるし…」
「それは、こっちの台詞だよ」

 もう会わなくなればって、そう思っていた。そうすれば、いつか忘れられるって……思ったのに、見事な手腕を発揮して、純血を代表する生粋の魔法使いとして、無駄に有名人だしさ。


「お前に負けたくなかったからな」
「………そうなの?」

「ポッターに、僕を忘れてもらいたくなかった」



「………………マルフォイ」



 僕は………。

 僕は、自分で気付かなかっただけで、僕は幸せ者だったのか……。



「マルフォイ……キス、していい?」


「駄目だ」
「へ?」

「まだ、お前の気持ちを聞いていないからな」
「………知ってるんだろ? 学生の頃から」


「直接聞きたい」
「……我が儘だよ」
「知ってるだろ?」

「知ってるけどさ」

 君がずっと、我が儘なお坊っちゃんだって事、知ってたよ。欲しいものは、何でも手に入れて、それが許されちゃう存在だったんだから。


「好きだよ」

「……ポッター…」
「大好きだ、マルフォイ」

「もう一度」
「……もう、キスさせてよ」

 顔を近づけて、僕達の唇が触れあいそうなほどの近い距離で……。


 甘い声で囁くように。

「まだ足りない」

 拗ねた顔のマルフォイが、可愛いと思った。
 綺麗な顔が、溶けたような微笑みが……僕は初めて見た。

 綺麗な君が……。


 僕の、物なんだ。君の心は僕の物なんだ。

 止まらないよ。止める気にもならない。だって、僕はずっと君が好きだったんだ。


 そっと、唇を寄せた。


 ふんわりと。

 柔らかい。



 本当は、ライバルなんかじゃなくて、隣にいて欲しかった。
 君に負けたくないから、僕は頑張るんだ。
 じゃあ、ライバルで良いのかな?

 ライバルって言ってもさ、学生の頃のように、喧嘩して、罵り合ったりする仲じゃなくて、君となら僕達をより高める関係になれると想うんだ。

 マルフォイの唇は、柔らかくて、僕はその感触をもっと味わいたくて、何度も、角度を少しずつ変えて、何度も口付けた。




 一瞬、近くて物音が聞こえたけど。
 それすら、僕は気付かずにマルフォイとキスを繰り返していた。








「マルフォイ、提案があるんだけど。僕の泊まっているホテルが近いんだ」
「ポッター……すまないが」



 マルフォイが、少し顔を伏せた。
 あ、断られた。そりゃ、マルフォイだって、忙しい身分なんだし、帰る予定だってあるだろうし……。
 帰したくないんだけど……このまま、誘拐してしまうのはどうだろう。



「すまないが、もともとそのつもりだ」


 マルフォイは、笑った。












090730
この次、微エロシーンに続きますが、さすがにトップから張りたくないので、収納時にアップします。上手く切る場所があったんだ。
頭がまだぼーっとします。頭に文章が入ってこないから、どうやって直して良いのかわかんなかった。携帯で書いてほぼ無修正のままアップする。無理。



091009
微エロシーンアップしました。2ヶ月以上お待たせして申し訳ありません