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「ポッター! ポッターじゃないか!?」

 まさかの満面の笑顔で、まさかの相手に声をかけられたのは、まさかのマグルで。















 その時の僕は、久しぶりに取れた連休を満喫すべく、静かな場所を求めてマグルへ旅行に来ていた。

 卒業し、クィディッチの選手なんかで、やっぱりそれなのに良い成績だったりすると、それなりに有名人で、そうすると人目が気になるから、僕を知ってる人が居ない場所に、旅行に来ていた。

 昔住んでいた場所は、あまり良い思い出はないけど、でもやっぱり懐かしいから。この辺りもだいぶ変わってしまったけれど、嫌な思い出ばかりだけど、でも思い出には違いない。
 昔住んでいたおばさんちの近くのホテルに、数日前から泊まっている。あと3日はこっちでのんびりできるはずだ。変装しなくても買い物できるし、誰かにサインを求められるわけでもないし、なかなか気儘な休暇が過ごせているので、満足している。






 で、映画でも見ようかと、隣駅へ行こうと……した時に。





 人混みに、一際明るい金髪が目に入った。




 その色は、学生の頃、喧嘩ばかりしていた相手の髪の色と同じだった。見事なブロンド。

 ライバルで、気に入らない奴で、本当に嫌な奴だったけど。




 僕は、好きだった。
 嫌われてたの知ってるから、告白なんか出来なかったけど。
 嫌われてたし、その時の状況からも、告白なんてできる余裕無かったけど。
 でも、好きだったんだ。

 同じ寮の友人には、楽しそうな笑顔見せるくせに、僕には嫌味な態度しか取らなくて、彼の友人に嫉妬してた。それに気付いた時に、僕は彼が好きなんだと思った。
 僕にも、笑って欲しかったんだけど……。

 男同士だし。
 告白なんかしたら、よけい嫌われるだろうし。

 だから、卒業と同時に、僕の彼への恋愛は終止符を打たざるを得なかった。


 多少引きずってて、こんな風に、彼と似た髪の色を見るだけでも思い出すんだけど。


 その人が、近づいてくるのを、僕は何となく見ていた。



 その人物が顔が認識出来るくらいに近づいてきて、その人の顔を見て、足が動かなくなった。




 えっと…… 本人?



 足を、止めた。
 いや、彼のマグル嫌いは学校でも有名だった。
 生粋の魔法使いで、純血を鼻にかけていて、実際純血の魔法使いの方が優れている事が多いんだけど。血統証付きのお高く止まった貴族様だから、雑種は嫌いだし、そもそもマグルを本当に毛嫌いしていたから……

 だから、こんな場所に居るはずなくて、ドッペルゲンガーか、良く似た別人だと思うけど。


 でも……彼みたいな綺麗な人が、そうそう居るだろうか………。


 僕が、足を止めて、彼が近づいてくるのを、見ていた。
 動かなかった。



 本人?
 やっぱり、本人?

 僕が知っている、彼の姿に、瓜二つというか、本当にそのままで……
 美貌も、周囲から浮いているほどで。

 雑踏の中で、紛れもせずに、その存在感を出しているのは、昔から同じ。
 学生の頃、どんなにたくさんの学生が居ても、彼の存在感は一際だった。
 身長は大して高くも無くて、僕よりも低いくらいで、痩せていて、小さかったのに、それでもたくさんの生徒の中にいても、一目で彼がどこに居るのか解るほどに、その存在感は圧倒的だった。
 僕が、彼を好きだったから、すぐに目に入っていたところもあるんだろうけど、それでも彼の美貌も合わせて、一際目を引いたんだ。



 だから……本人? 僕じゃなくても、彼を振り返って見ていく人がいる。




 でも、本人だからと言って、どうやって声をかけるんだろう。

 気安く声をかけるような仲じゃ無かった。
 僕は、好きだったけど。



 いや、でも、一応本人かどうかぐらい確認ぐらい………もう、あの頃の事なんて、時効だよな?





 そう、意気込んだ時に、彼の方が僕の視線に気付いて、少し遠い距離から、大きく手を振った。


「ポッター! ポッターじゃないか!?」


 周囲が、その声に驚いて、彼に視線を投げた。そして、その先に居る僕に周囲の視線が集まった。
 僕は、一瞬冷や汗をかいたけど……そうか。



 ここはマグルだ。


 魔法界じゃ、大声出して気付かれてもみくちゃにされた事あった。

 そりゃさ、選手になって、人気があるって事は、僕のプレイ気に入ってくれてる人がたくさん居るってわけだから、嬉しいけど。僕は昔から、一人の時間は大事なんだ。



 彼は、僕に向かって手を振りながら小走りで駆け寄ってくる……本人、なんだ?



「ポッター、どうしたんだ? こんな場所で!」

「マルフォイ?」

 やっぱり本人だったのか。そうだよね、こんなに綺麗な人がそうそう居てたまるか。
 としても……なんだ、この態度は?

 にこやかに、僕に笑顔を向ける……マルフォイなんて、学生の頃だったら、ホグワーツ中が驚くぐらいの驚天動地の事態だ。

「久しぶりだなあ。卒業してからだから、何年ぶりか?」
「……5年、ぶり?」
「そうか。そんなになるのか」


 マルフォイは、本当ににこにこと笑顔で僕に右手を差し出すから……僕が、ずっと僕に向けて欲しかった笑顔で僕に微笑むから……。



 僕は差し出された右手を、握った。



「久しぶり、だね」

 本当に、マルフォイ? いや、本人なのは解るけどさ。それにしたって……。
 久しぶりだったから……五年も僕たちは離れていたんだ。僕だって大人になったと思うし、マルフォイだって、そうなのかもしれない。すれ違ったからって、嫌悪感丸出しに無視するような事もなくなったわけだし……。
 僕たちには、もう何の接点も無いんだから、別に、久しぶりに顔を会わせたんだから、挨拶ぐらいって、マルフォイは思ってるのかもしれない。



「ああ。本当に久しぶりだな。ただ新聞でお前の活躍を見ているから、そんなに離れていた気がしないが」
「ああ、読んでくれたりしてるんだ。ありがとう」

 それは、ちょっと意外な気がした。マルフォイだってクィディッチが好きなのは知ってるけど、忙しいのに、僕の事気にかけてくれてるって事だよね? どうせ、社交辞令だろうけど。

 それに……君だってさ。




 社交界での花形、ドラコ・マルフォイを知らない人なんか、魔法使いには居ないよ。

 一度は地に落ちたマルフォイを、数年でその威光を復旧させ、会社なんか立ち上げて、その美貌もあって、マルフォイの王子様としての人気はうなぎ登りだ。
 新聞や雑誌でマルフォイを見ない事なんか無いくらいだ。


 おかげで、忘れたくても忘れられない………。


「いや、僕が勝手にお前のファンをやっているだけさ。僕だって昔から、クィディッチは好きなんだ」
「ありがとう。嬉しいよ」

 やっぱり………本人、なのか?


 いや、本人だって解ったけど……僕の知ってる彼は、僕の事が大嫌いで、僕の顔見ると、しかめるか、嘲笑うか、そんな表情しかしたことなかったんだ。

 でも、このマルフォイは……。



「ところでポッター、せっかくの再会だ。少し時間はあるか?」
「ああ、うん。今は休暇中なんだ」

「それは好都合だ! 僕も今日は全面的にオフだ。再会を祝して食事に行こう」

「いいね」



 マルフォイは、僕の握った手を掴んだまま、歩き出した。
 もちろん断る理由なんてないし、僕だって大歓迎だけど。



 だけど。


 どうしたんだ?

 僕の思い出のマルフォイはこんな奴じゃなかった。
 気障ったらしく、芝居がかった口調で僕の人生にケチをつけるのが趣味だった奴だ。こんな人物じゃない。

 ……そのマルフォイに惚れてた僕は、大概変人の烙印を押されて然るべきなのだろうけど。


 いや、だって可愛かったからさ。
 嫌われてるの解ってて好きになるって、僕は相当の変態なのかと思ったけどさ。だって、可愛かったんだ。性格悪くても、美人だったし。笑うと可愛いし。
 ……って、少しだけ友人に言ったら、額に手をあてて、熱を計られ、その日は食事も取らずに薬を飲まされて寝かされた。


 好きだったけど……マルフォイって、こんな人だった?

 僕は戸惑ってしまう。














090719

この告白ランキングでは、一番長いと思う。気合入れよう。