自分のロッカー(下駄箱)に手紙が入っている (前)













 白い封筒が……ロッカーに入ってた。
 クィディッチの練習の後、ロッカーの中に、白い封筒が無造作に置かれていた。


「何だ、コレ」




 裏を見ると差出人はハリーポッター。




 ……って、


 一体………。

 周囲に気付かれないように、僕はこっそり読む。何か悪口を書かれていたら、気分が悪い。そうなった場合は当然誰の目にも触れないうちに、破り捨てなくてはならない。

 にしても手紙まで使って……アイツが僕に何か言いたいことがあるなんて思い付かない。今日も昼過ぎに一悶着あったばかりだ。
 手紙だって、僕がポッターに出す手紙は……授業中に回す悪口だけど……ノートの切れ端で十分だ。こんな上品なレターセットは使わない。

 だが、とにかく中身だ。


 アイツが手紙を使ってまで、一体僕に何の用だろう。







『ずっと、君の事が好きでした。
言うつもり無かったけど、どうしても君に僕の気持ちを知ってもらいたかったから、手紙を書きました。

もし、返事をくれるなら、今夜中庭で待ってます』





 ……………………。



 ポッターは、馬鹿なんじゃないだろうか。


 馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、最高に馬鹿だ!

 なんだコレは、ラブレターじゃないのか?

 こんな大事な手紙を、よりによって、この僕が使うロッカーと間違えるなどとは……!




 ポッターが昼食をとっていると、盛大にこぼしたのを見たので、だらしない、とか、これだから育ちが悪い奴は、とか、言いたいことを気持ちよくスッキリ言えたと思う。言ったから、ポッターが何か反撃してくるのかと思ったら、僕の顔をじっと見詰めて、小さく溜息をついて、ナプキンでこぼしたテーブルを拭き始めた……。
 最近、ちょっと調子が狂うことが多い。
 最近少しポッターの様子がおかしい。
 そう、思って気になって居はいたが、そうか、恋わずらいか。
 恋わずらいならば仕方が無い。同じ寮の奴も、好きな女の子が出来た途端、いつもソツなく何でもこなす奴だったのに、無駄に柱にぶつかったり、躓いたり、溜息が増えたり、そんな様子を見たことがあった。本当に病気かと心配してみたが、恋わずらいとはそんなモノらしい。


 恋わずらい……ポッターが! そう思うと、込み上げる笑いを抑えられない。







 ラブレター、間違えたんだろう。入れる場所。

 それにしても……僕のロッカーと間違えて入れたとなると……僕の隣……?




 そもそもここのロッカーは全選手が使えるほどに数がない。
 だから上級生は気に入った場所を使い続ける人もいるけど、たいていは毎回同じ場所を使うわけじゃない。

 別に更衣室にも個人用のロッカーはあるが、あまり大きくはないから、放課後の練習とかある場合は、教科書などを入れておくが……。まあ、たいていはみんな使ってる。

 しかも、今日はスリザリンとレイブンクローの練習試合だったから………。

 使う人数多いのに、更衣室のロッカーに入れた方が良かったんじゃないか、個人用のロッカーがあるし……って思ったけど。

 そりゃ、入れないな。女性の更衣室に入ったら、ある意味で英雄だ。


 それにしても、ポッターには好きな相手が居たのか。 気付かなかった。
 僕はポッターをいじめる為に、ポッターの観察は欠かさない。かなりポッターを見ていたのに、気付けなかった。
 確かに、最近様子がおかしいと思っていたけれど……どの女性を見ていたのだろう。ポッターが気になる女の子が居れば、きっと四六時中ずっと見ているだろうから、僕だって気付くはずだと思うけど……思い当たらない。
 気付かなかった。


 ………。

 何だろう………。
 別に、年頃なんだし、僕の回りだって誰が可愛いとか、そんな話題で持ちきりだし、好きな人の一人や二人居てもおかしくないが………。

 ………なんだか………。


 心臓の裏辺りを引っ掛かれるような気分がする。
 嫌な、気分だ。




 きっとポッターのくせに幸せになりたがってるからに違いない!
 いいチャンスじゃないか! ポッターをからかうためのいい材料が手に入って喜ばしいことじゃないかっ!

 しかも、間違えて僕のロッカーに入っていた。
 と言うことは……伝わってない。


 しかも、それを知っているのは、僕だけ!





 ああ、きっとポッターは今夜中庭で、来ない相手をずっと待っているんだろう。

 相手に気持ちが伝わってない事も知らずに……夜、就寝時間になるまで、中庭で一人で待っているんだろう……。









 ざまあみろだっ!




 だったら、是非その現場を目撃しなければ。

 相手が来て、振られる様も見てみたいが、振られなければ、ポッターに幸せが訪れるのは僕としても不本意だから、意外とポッターのクセに、『英雄』とかの肩書きのせいか女の子にはそれなりに人気があるから。
 まあ、相手の女の子には、このラブレターが渡ったわけじゃない。だから、ポッターは来ない。

 ポッターが待ってて、諦めて帰ろうとした頃に、僕、登場というシナリオがいい。
 そして、このラブレターを見せつけて盛大に馬鹿にしてやるという寸法だ。


 愉しくて、思わず笑いが込み上げてしまう。僕は嫌なことには指一本すら動かしたくないが、楽しい事には全力で取り組むタイプだ。


 隠れてなければならない。長期戦になる可能性もある、少し暖かい服を着ていこう。





 にしても……相手は誰だ?



 あの英雄気取りのポッターに好かれた相手って一体……どんな女の子なんだろう。

 あんなに髪の毛ボサボサで身嗜みも気にしないで、成績も家柄も悪いくせに、英雄って肩書きのせいか、意外にも女の子に人気はあるからな。


 どん、と肩がぶつかった。


「あ、ごめん」


 そう言って、僕の隣のロッカーを彼女は開いた。

 この、人、か?

 隣のロッカーを無造作に開いた女性は………僕よりも頭一つ分高く、僕の腕より一回りも太く、筋骨隆々とした………。


 僕は………ポッターの趣味が理解出来ない。




















 来た。



 僕は、樹の上から、ポッターの様子を伺う。隠れられる場所、それでいて中庭を見渡せる場所。
 ベストポジションだ。少し枝が邪魔だけど。

 ポッターは、僕の登った樹の近くのベンチに座った。
 意外と近い場所だ。
 もし、僕が物音を立てたなら、気付かれてしまうかもしれない。
 あまり居心地の良くない樹の上で身動きが取れないのは、なかなか苦しいが、仕方ない。

 ポッターが、上を見ないことを祈るばかりだ。

 それにしても……。
 ポッターの動きが面白い。
 そわそわと、足を組み直したり、キョロキョロ周囲を伺ったり、何か物音がすると、瞬時に振り返ったり……して。


 面白いけど……。




 彼女を、想ってなんだろうか……。
 頭に浮かんだ彼女は、僕の隣のロッカーを使っていた、あの逞しい女の子だけど……僕はあまり好みではないが、優しくて、笑うと可愛かったりするのかもしれない。試合中のプレイを思い出す限りでは、見た目と同様に剛腕でガサツだったけれど。

 でも、他の人かもしれないが……ポッターには、好きな相手が居て、今はその人の事で頭を一杯にしているんだろう。

 昼間さんざん嫌がらせしてやった僕の事なんか、少しも覚えて居ないんだ。




 でも、僕は、今こうしてポッターを見ている……。

 これって、なんか、不公平じゃないか?


 何だか、釈然としない。

 ポッターだって、もっと僕の事を気にすればいいのに……。


 そう、思ったら、ここに居ることが馬鹿らしくなった。


 さっさと出ていって、誰も来ないって、お前の手紙は僕に届いたから伝わってない事を教えてやって、早く帰ろう。


 と、思うけど……



 ……今更、出ていきにくい。


 でも、せっかくポッターを馬鹿にできる機会に恵まれたんだ。
 そうしなきゃ、勉強する時間を裂いて、本を読む時間を削ってわざわざ樹に登って、こんな場所でこんな事をやってる割りに合わない。

 から……


 降りよう。

 って思うけど、タイミングが掴めない。

 だいぶ、待ってて……ポッターは、下を向いて項垂れてる。

 寂しそうな背中。

 だって、誰も来やしないんだ。
 ポッターが出した手紙を読んだのは僕なんだから。




 その時にポッターが立ち上がった。
 そして、ふと




 上を見たポッターは………僕と、目が合った。











090513