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 マルフォイなんかやめちゃいなよ。
 僕がそばにいるよ。
 君がドラコでありさえすれば、僕が君を愛してあげるのに。
 君が全部棄てて、ただのドラコになって、本当に何もなくなっても……そうなった時に、僕は本当に君を愛せるんだと思う。


 もし、再び君を手に入れることができたら、今度こそ僕は君の笑顔だけを願うよ。
 昔は、僕だって寂しかったんだ。ドラコが好きな僕と、僕よりマルフォイを大切にするドラコと。
 僕の浮気は浮気だった。ドラコはマルフォイに本気だった。そんな言い訳、今更どうでもいいけどさ。


 マルフォイなんか、やめちゃいなよ。そうすれば、僕は君しか見ない。たぶん見えなくなるからさ。




 でも、君が君であるために、マルフォイって名前は必要なんだって、知ってる。
 君が、マルフォイを棄てられないのを知っている。




















 最近、じいさんからのお呼びがかからない。
 じいさんが多忙なのはわかっているし、僕だってあんまり暇なわけじゃないけど……だんだんと疎遠になってしまうのだろうか。それは寂しい。

 ドラコに、会えなくなってしまう。
 勿論それだけじゃないけど。じいさんだって僕は好きだったし、じいさんと話をしていると楽しかったし。


 でも、もう僕とドラコの接点はじいさんだけなんだから……。僕が気に障る何かしただろうか。

 こっちから手紙を送っても、返事は来るけど、デートまで漕ぎ着けられない。最近あまり試合も観戦しにきてくれていない。


 飽きられたんだろうか、僕は。



 手紙の内容からは、未だにクィディッチファンの熱意が切々と伝わって来るし、僕の事もすごく応援してくれているようだけど……。

 最近、ドラコにも会えない。
 どんなに寂しくても、それでも日常は勝手に来襲する。







 半年。










「ハリー!」



 驚きのあまりに、僕は握っていた箒を落としてしまった。



 練習中だった。
 まあいつも通りのトレーニング………の合間に仲間と無駄話してる時だったんだけど。






 ざわめきと、どよめきと一緒に僕の前にやってきたのは、ドラコだった。久しぶりにドラコに会えて、それが、何故かこんな場所。



 その美貌は相変わらずだったし、汗臭い選手達の中であからさまに場違いだったけど、僕が驚いたのは、そんな事じゃなかった。

 いつも肩口で、綺麗に纏められていた長く伸びた髪を束ねもしないで、いつもかっちりと着ている服も、なんだか慌ただしげだった。ボタンが第二ボタンまで外れていたからだろうか。ジャケットは必ず着ていたのに、ジャケットも羽織らずにそのままロングコートを羽織って、前も止めずに………。




「ど、どうしたの」
 ドラコの目の下に隈ができていた。ドラコの肌は真っ白だから、よくわかるんだ。


 ドラコは、ナルシストてほどでもないけど、身嗜みにはいつも気を使っている人だったから。そういう育ちだから。
 だから今の彼の装いで、異常事態だってすぐにわかった。



 髪を振り乱すように僕のそばまで練習場を走ってきて、周りへの挨拶も何もなく………。
 どんなことがあっても、どんなに悲しい事があっても、僕と喧嘩した時以外は、余裕を持ったドラコの態度だけは崩れなかったのに。喧嘩した直後ですら、僕以外への対応の温度差も無かったのに。




 僕が声をかけると間もなく、ドラコは僕の胸に飛び込んで来た。

 ……ええっ!


「ちょっ、ドラコ、どうしたの?」


 いや、有り得ない。
 お付き合いしている頃は、勿論誰にも秘密で、人前で殴り合うことはあっても、手を繋いだことすらないし、いやまあそれは仕方ないとしても。二人きりになったってドラコから僕に触ってくれることなんか無かったから。抱き締めるのもキスをするのも、いつだって僕からだったし。それが寂しいから喧嘩したんだけど。


 なんだ?
 僕は夢でも見ているのか?

 だって、ドラコが?




 いくら異常事態だって、何、これは?
 僕がドラコに会いたいって思ってたから、ドラコとまたお付き合いしたいとか思ってたから、願望が強すぎて無意識で幻覚を見ているのか?

 それにしたって……!


「ドラコ、ほら、みんな見てるし………」

「ハリーっ! ハリー……!」


 ドラコは、僕の胸にしがみついたまま。








 声に……、嗚咽が混じっていて……。




 泣いている?


 ドラコが、泣くなんて………。


 泣いたことなんか、見たことなかった。
 泣かせたんだろうって時はあったけど。
 学生の頃、お付き合いしている時、喧嘩した次の日とか、目蓋が腫れてたから。泣かせたことはあると思うけど……それでも、僕がドラコが泣いているその現場に立ち会ったのは……二回目だろうか。授業中に同情を引くために泣き真似してた事はあったけど。
 ドラコが取り乱して泣いてるのなんか、僕は……。



「ドラコ、ドラコどうしたの?」

 落ち着いて、って言うように僕は、僕にしがみついたドラコの背中に手を回す。何か、とんでもない事態だってのはわかった。





「お祖父様がっ!」



 ドラコは僕の服を掴んで、僕の顔を見上げて。
 瞳が溶け出したように、潤んでいた。

 ………ドラコが、泣いてる。

 だけど、言われた内容は僕には思いも寄らなくて。


「おじいさんが、どうしたの?」

 だけど、ドラコの取り乱し方から、何か良くない事をさすがに、感じた。

「おじいさん、どうしたの!?」

「ハリー、ハリーお祖父様がっ! 僕は……っ!」

















090415