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 じいさんにはとりあえず、視線で挨拶をすることができた。この分なら、じいさんとお話しする時間なんかは無さそうだ。じいさんもわかってるから、その視線だったと思うし。

 とりあえず、宴もタケナワ、段々と人も落ち着いてきて………ドラコの周りにいた人数も減ってきていた。


 監督はそろそろ帰るらしい。さっき隙を見てじいさんに挨拶出来たらしい。僕はもしかしたら、じいさんに辿り着くチャンスがあるかもしれないから、もう少しだけ……とか、思ってる。せっかく来たんだから、おめでとうくらいは言いたいし。この前試合見に来てくれたのに、結局会えなかったし。

 監督が帰るって言うから。

 やることもなかったし。可愛い女の子を見つけてお喋りもしたけど、雲の上に住んでいるような、花と蝶を愛でることがお仕事のお嬢様にはやっぱり、汚いモノに触れたことがないような王子様が最適なようで、血生臭い英雄やら汗臭いクィディッチの選手なんかには話を合わすのがやっとだった。


 監督とばっかり話をして、滅多に飲めない高級ワインを煽って……いるうちに、少し酔って来たようで、外の風に当たりたくなったから。

 監督を外まで送ったついでに僕は庭をふらふらしていた。

 本当に大きい家だから。僕は何度か招待されていたけど、こんなふうに庭を散歩するのははじめてだった。敷地はどのくらいあるのか検討もつかない。
 じいさんの家でこれだから、マルフォイさんちはどのくらい大きかったんだろう。マルフォイの家は比べ物にならないほどだって、じいさんは言ってたから。
 こういう家でドラコは育ったんだ。

 本当、僕達は色々と正反対だった。僕の階段下とは次元が違う話だってよくわかる。よく、お付き合いなんかできたな。こんなに違うのに。




 ………でも、似ていたんだ。
 僕達は似ているところがあって、だから反発したし、惹かれ合った。

 お互い本当には、誰もいなかったから、寂しかったんだ。

 きっと、僕達は本当はそんな理由だった。
 僕に両親が居て幸せな子供だったら僕はマルフォイと接点を持たなかっただろうし、ドラコだって普通の家で育ってたら僕に関心なんてなかったんだろう。





 僕達だったから、特別だったんだ。











 風に当たりながら歩いていた。火照った肌には心地の良い夜風。



 金色の……。
 一際明るい髪色の人影が見えた。




 ドラコ


 ………と、あれは誰だろう。

 ゴージャスな巻き毛のブロンドで、胸元を大きく開いた扇情的な真っ赤なホルターネックのドレスを着ている女性だった。僕達よりも少し歳上のようだった。



 あの人………知っている。





 ドラコは優しく女性の肩に自分の着ていたジャケットをかけて、その肩を抱き寄せていた。
 ここからじゃ何を話しているのかは聞き取れなかったけど、でも、女性がドラコの顔に顔を近づけるようにしていたから、きっと甘い台詞でも吐き合っているんだろう………。表情までは見えなかったけど、それでも胸焼けがするような気がした。



 ドラコは、本当に本物の王子様なんだろうな、と思わず見とれてしまうほどに、完璧に優雅なエスコート。







 ………なんか……途方もなく……。



 泣きたいような、泣き出したいような、声をあげて泣いてしまいたいような、そんな気分になった。



 ドラコは……だって僕のだったんだ。


 僕が……ドラコにそれをしたいのに。
 君は他の人に?


 僕は女の子じゃないし。
 僕は女の子が好きな男だし。
 ドラコだってそうなんだろうけど……。

 でも、僕はドラコが好きなんだ。

 やっぱりドラコが好きなんだ。




 二人は、顔を近づけ合って………



 見たくもないのに、身体が動かない。



 きっと心臓は止まっているのか、早く動きすぎているのか……。


 やめてよ。



 ドラコ。は、僕のだったんだ。

 僕が幸せにしてあげるから、他の人に優しくしないでよ。

 今は、ドラコは僕のじゃないから、僕はそれを止める権利すらない。


 キスをしている二人を見ながら、僕はできることならば、落ちている小石を二人に向かって投げつけたかった。当たっても知らない。だけど僕は動けない。





 キスをしながら、ドラコは一緒だけ視線を上げた。



 僕と目が合った。








 ………。












090409