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 豪華絢爛壮美。とか、そんな言葉がよく似合う。
 僕は目眩がしそうになった。

 選手として活躍するようになってから、パーティーとかにはよく参加するようになったけど……僕が経験したどんなパーティーよりも華やかだった。

 広間は魔法でもっと広くなっていて、天井のシャンデリアはキラキラしていて、そこかしこに大輪の花が生けられていて……来ているお客さんたちの着ている服の高そうな事と言ったら……あのおばさんのネックレスのでっかいダイヤは本物なんだろうか。

 じいさんの70歳のお誕生パーティー。もう70歳なんだ。じいさんは見た目よりも確実に若い。

 僕はじいさんに個人的に招待されて、監督も来ているらしいけど、まだ見当たらない。こんな場所は僕には場違いだよ……なんか居たたまれない。それなりに僕だってお金持ちの部類には属しますが、あからさまに世界が違う。昔からこういう世界で育った人たちばかりで、雲の上の言葉を話してるような気がする。
 せめて知ってる人に会いたいです。

 こんな場所で知ってるのはじいさんとドラコと監督くらいだ。
 じいさんはこのパーティの主役だから、お客さんにてんやわんやにされていて近づけないし……。
 ドラコは……。


 こんなにごちゃごちゃ人がいても、何でドラコはあんなに目立つんだろう。

 華やいでキラキラして、とても可愛らしかったり美人だったりするお姉さん達に囲まれて……みんな華やかな色とりどりのドレスで高そうな宝石を身につけて、本当に綺麗な人達で……ドラコは美女ばかりのハーレムを作っていた。

 僕だってそれなりに人気あるけどさ。今日だって何人か僕の回りに可愛い女の子が集まってくれたけどさ。

 昔からそうだった……。

 昔からドラコは女の子に人気があった。
 かなり性格悪いくせにフェミニストだったりしてさ。

 いつもドラコには女の子が近づいてこようとしててさ。


 女の子は宝石とか、綺麗なモノが大好きなんだもんね。

 そりゃドラコが人気あるのわかるよ。

 僕と付き合っていた頃だって、ドラコは綺麗だから、性格悪いの知ってても女の子はドラコに寄ってきて、性格悪いくせにドラコは女の子に優しくてさ。そうやってますます女の子を回りに集めてさ。

 それで、よく喧嘩した。


 ドラコだって、ドラコの性格からして仕方がない事だとは思うんだけど……それだってさ……時々は僕に好きだって言って欲しかったし。

 僕はドラコが大好きだったからよく見てたから、ドラコが僕のこと好きでいてくれていることぐらいはわかっていたけどさ。
 それでも僕ばっかりがドラコの事を好きだって言うばっかりで……。
 僕は、マルフォイじゃなくて、ドラコが好きなのに、マルフォイって名前にしか自信持ってなくて、ドラコとして僕と接してくれないから。僕は、君の名前じゃなくて君自身が好きなんだって。
 理解してくれなくてさ。
 最後の喧嘩もそれだった。


 僕だって女の子とキスしたりして、悪かったけどさ。僕だってむしゃくしゃしてたし、女の子に泣かれると弱いし。


 女の子も女の子だよね。自分を引き立てる為に綺麗なモノを身につけるのは良いけど、ドラコを隣に置いたら、負けちゃうのに。
 ドラコがどんなに綺麗なのか、ドラコの引き立て役になるだけなのにさ。








「ハリー。楽しんでるか?」

 いきなり肩を叩かれて、僕は大袈裟に驚いてしまった。

「ああ、監督。監督はどう?」
「すごいな」
「僕、場違いな気がする」

 監督は苦笑いするだけだった。
 監督も僕と同じように肩身の狭い思いをしているならお揃いだ。

「魔法省の元副大臣も来てるぜ」
「へえ」
「あれはロウッツ家の跡取り」
「へえ」
「ブルーイーグルのチームのオーナー様だ」
「へえ」
「アソコの貴婦人はバレンス社の女社長さん」
「へー」

 ………場違いだ。

 僕でも知っている名前がいくつも上がる。

 じいさんの手が空いたら、早く挨拶だけ済ませてさっさと帰ろうと思った。
 なんか、僕にはこの空気は馴染まない。もっと大衆的で雑多な煩いくらいの飲み屋でみんなで馬鹿騒ぎしている方が好きだ。

「ハリー、あの王子、誰だかわかるか?」


 監督が顎を釈って、ドラコに向けた。

 このパーティでは、やっぱりドラコが一番目を引いた。
 群がっている女性の量が半端じゃないし……。

 その群がっている女性よりも綺麗なドラコ。


 確かに王子様みたいだった。

 別に華やいだ服を着ていたわけではないけど、ドラコは黒のスーツにシルクの緑のスカーフを巻いて、緑のベロアのリボンで長く伸びた髪を結わいているだけだったけれど……それでも誰よりも華があった。

 誰よりも、この場所に似合っていた。

「マルフォイだよ」

「……へえ。あのマルフォイか」

 あの、って、どのマルフォイかは知らないけどさ。マルフォイは元々魔法使いでは有数の純血の由緒正しい古くからの名家らしいから、知らない人なんかいないくらいだったけど、闇に下った事でその知名度をますます上げた。
 知らない人なんかいないんじゃないだろうか。

 でもその最後の一人がドラコだって、有名だけど、もう今の世界ではどうでも良いことなんだ。


「あんな王子がねえ。ハリーは良く知ってたな」
「マルフォイはここの血縁で、ノーフォート伯が引き取ったらしいよ」

 マルフォイは僕と同窓生だしさ。そう付け加えたら、監督は目を丸くしていた。


「お前の人生は本当に難儀だなあ」

 しみじみと感慨深く同情されてしまった。

 そんなにマルフォイが良くないのかな。



 だってドラコはドラコなのに。















090407