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 僕は、どうしようもなく、ドラコに会いたくなった。ドラコに会って気持ちを知りたかった。

 僕のこと、どう思ってる?



 ドラコは本当にいつもいつも冷たい言葉ばっかりで、昔からそうだった。ずけずけとものを言うのは、ドラコの性格で、別に嫌われてるわけじゃないんだって解ってからも、けっこう傷つけられましたし。それでもあの頃はドラコの気持ちがちゃんと僕にあることが分かっていたから、大抵の言葉には耐えられたけどさ。

 嫌われてるなら、本当に凹む。

 でも、もしドラコがまだ僕に何らかの拘りを持ってくれていたなら……。





「ドラコ……」



「何だ、お前はまた勝手に人の部屋に無断で」

 溜息が聞こえた。聞こえるように、わざとなんだろうけど。

「………ごめん」


 ドラコは、僕が来るとすぐに部屋に戻ってしまうんだ。確かに僕はじいさんにお呼ばれされて、じいさんに会いに来たのだから、表面上はドラコが部屋に戻ったっておかしくないし。


 僕に会いたくないんだ………。

 そう思うと切ない。


 僕はまだ……やっぱり君の事が……。

「何の用だ?」




 声は、冷たくて。
 もう、やっぱり僕たちの間には何もなくなっちゃったのかな。って……そう思っても仕方が無いような、鉄面皮。

 じいさんはあんなこと言ってくれたけど……でも僕がもしかして、特別に嫌いなだけなんじゃ……とか。そう思ってしまうくらいに、ドラコの声は冷たい。


「ドラコ……もし……」

 だって、君の事が知りたいんだ。
 冷たい声。


 でも、僕が近寄って行っても、ドラコは逃げないんだ。
 僕がドラコの座っているソファの隣に座っても、ドラコは逃げないし、拒否もしないんだ。


 そのまま抱き締めても………。



 ドラコの身体に腕を回した。

 ドラコはそれでも逃げないんだ。嫌がることもなく、僕を拒絶することもなく、でも何の反応もしてくれない。


 でも、僕から逃げようとしないって?


「もし君がまだ僕を少しでも……ドラコは僕の事を……まだ、少しは好きでいてくれたなら……」


 好きでいてくれたなら、どうなんだろう。

 僕が君に今更何ができるんだろう。

 でも、また、君の隣にいる事のできる存在になりたいんだ。僕は君の特別がいいんだ。


「やめてくれ」

 やめてって。ドラコの声は静かで冷たかった。
 言いながら、それでもドラコは僕から逃げようともしなかったし、僕を突き放そうともしなかった。


 ねえ……ドラコ?
 何で君は。

「ドラコ、僕は君がやっぱり……」

「やめろ」

「君が好きだ」


 やっぱりドラコが好きなんだ。普段は冷たい表情が得意で、プライドばっかり高くて、でもそのドラコが二人っきりの時に見せてくれた笑顔とか、キスをしたあとのうっとりとした表情とか思い出して切なくなるんだよ。


 君と別れてから、いろんな人とお付き合いしたけど、また会いたいって、また会って抱き締めたいって、そう思ったの君だけだ。

 別れてしまってから、未練が残ったのって、結局君だけだ。
 ドラコだけがずっと僕の中に居た。


「…………」

 君に必要とされたい。

 誰も心の内側に入れないようにしていた事を、僕は知っているから。


 僕が君の支えになれたらって。
 そう、思っていたんだ。ずっと。君に必要とされるのは嬉しいんだよ? 僕はだって誰にも必要とされていなかったんだ。僕にはずっと誰も居なかった。
 ドラコは、誰かを必要としちゃいけないって思って育ってきていた。ドラコは一人で立って一人で前を見てなきゃいけない育ち方をしてた。
 僕も寂しかったけど、君だって寂しかったでしょ?


 それでも僕だけには寄りかかってくれたんだ。
 僕は、それが嬉しかった。



 君の支えには、僕以外は、だって不適切だよ。



 抱き締めて、そうすることでドラコが僕のモノになればいいと思う。ドラコが、もう一度僕に気持ちを向けてくれればいいと思っている。触れてる今だけは、君の表面だけでも僕が独占していたい。空気にも触れさせないように、できる限りの部分を、僕が占めていたい。





「僕にはやらなくてはならないことがある」


 声音は冷たくて、強いものだった。ドラコの意思がはっきりと伝わる。



「好きだよ」

「僕は、マルフォイを再興するんだ」

 ドラコがどれほどマルフォイとして育って、マルフォイに執着していたかを僕は知っているんだ。

「ドラコが好きだ」

「やめろ」

「ドラコ………」








「……ぐらつく」



 ………ドラコ。


「お前の気持ちは、僕の妨げになる」

「………どうして?」

 ……僕を、まだ少しでも君の心の中にはまだ僕がほんの少しでも残っていて、僕が、君にとって……



「ドラコ……」

「ハリー………」


 ドラコが、僕の名前を呼んだ。ファーストネームで、僕の名前を呼んだ。
 ドラコが、僕の胸を押した。軽い力だけど、引き離そうとした。

 僕とドラコの間に隙間ができる。

 ドラコが僕を突き放した。

「………」



 嫌いだって。
 顔も見たくないって。


 もしかしたら、そう言われた方が良かったんじゃないかな。
 そう言われたら、君のためにならないなら、僕は君の前から姿を消そうと思うけど………って、思ってるだけで、できないかも知れないけど。


 僕に望みは無いんだ?


 でも、君は君で僕をまだ……。それは僕の自意識過剰なわけでは無いんだよね?


 ドラコがドラコであるために、マルフォイが必要なのは、僕にはわかっているよ。

 僕にそれを止める権利なんか無いし。


 辞めちゃいなよ。


 じいさんだって君を愛してくれているよ?

 要らないじゃん。

 君はドラコだけでいいじゃん。
 そのかわりに僕も君を愛してあげるよ。棄てちゃいなよ、マルフォイなんかさ。









 ………そんなこと言ったら会ってもくれなくなるんだろうな。














090402
誤字→顔揉みたくない