10 なんだ、聞こえなかったのかって思った。せっかく褒めてやったのに。よっぽど本に集中していたんだろう。 偉そうに当然のごとく受け入れるんだと思って、それはそれでむかつくけど、まあ僕に対しての攻撃力が弱まるならいいかなとか……思ったんだけど、聞こえてなかったらいいや。別に、言いたいから言ったわけでもない。 そう思って………。 もう一度マルフォイを見たら、耳たぶが真っ赤になっていた。 よく見たら、ページを捲る手付きがぎこちない。二ページまとめてめくってしばらく読んでから前のページに戻ったりとか……。 あれ? 『マルフォイ?』 『邪魔するくらいならどこかに行ってくれ!』 いきなり、怒鳴られた。 『聞こえてたの?』 もしかして、今の聞こえてたのかな。 『……………』 あからさまに無視。こっちを見ようともしなかったけど。 でも、その態度から、聞こえてたことは解った。 なんか、可愛いとか……思っちゃったんだよね。 だって僕の言葉に照れてるんでしょ? 怒鳴ったのはもしかして照れ隠しだったのかな? 可愛いとか……。 『言われ慣れてるかと思った』 だって、マルフォイの取り巻きはいつもマルフォイにちやほやしていて。マルフォイを誉める所なんてほとんど見た目ぐらいだし、いや頭だって嫌な方に優れているけどさ。 そりゃ勉強も出来て、家柄も良くて、褒めるところなんていくらでもあるんだろうけど、僕には顔ぐらいしか思いつかなかっただけだから。 『だってお前が言うなんて、思わないだろ』 尖らせた口元が、少し幼く見えた。 別に、否定して無いって事は言われなれてるんだって、それでも。 何か、可愛いとか………。 もっと、見たいって。 マルフォイの可愛い所をもっと見たいんだ、って。 僕がドラコを好きになったのはきっとその時。 それから仲良くなるために、僕の猛アプローチだった。始めのうちは戸惑っていたドラコも、だんだんと僕に笑顔を向けてくれるようになって。 すごく、嬉しかった。 僕から好きだって思ったのは初めてだったから。 だから、今みたいにあからさまに嫌悪感向けられて、腹の立つ事ばかり言われて、正直凹む。 昔は良かったけどさ。僕だってドラコのこと好きじゃなかったからさ。今は僕ばっかりドラコが好きで、ドラコは僕を好きじゃないんだ。 「なんか、完全にドラコに嫌われてるよね、僕………」 じいさんは、本当はドラコが笑ってくれるようになればいいって、そう思って僕を呼んだんだ。そりゃ、今でこそ仲良いけどさ。でも、じいさんはドラコの事心配して、僕と知り合いだったってわかったから、それで僕を呼んだんだ。 だって、忙しいのに。 それなのにごめんなさい、僕じゃ役不足だったみたいだ。 ドラコは相変わらず僕に冷たい言葉を投げて、僕を見るとさっさと自分の部屋に戻ってしまった。 何か嫌味とか辛辣な言葉を言われるならまだしも、完全に、僕を無視して一言だって喋ってくれない時もある。 ……本格的に、嫌われてるんでしょうか、やっぱ。 じいさんはそれを見てにこにこしているけど、僕じゃドラコを笑わせることなんかできないよ。もう、お別れして以降僕はドラコの笑顔に会えたことがない。あの氷の刃の言葉に僕の心はズタズタだ。 あのドラコに、血液が通ってるのかどうかすら危ういよ。昔もそうだったけど、今はもっと酷い。 昔から冷たい表情ばっかりだったけど、学生の頃はそれでも、ドラコは表情をころころ変えてた。 今は、僕は、ドラコの無表情しか見てない。 僕が初めてじいさんの屋敷に呼ばれて、ドラコと再会した時に表情を崩したけど……怒鳴られた時。 でも、それ以外でドラコが表情を変えたことなんか無い。 冷たい顔してさ。 「あんな風に感情を出すのは君にぐらいなものだよ。私は怒ったドラコを見たのは君に対してだけなのだからな」 ………。 「そうなの?」 「あんな風に感情の起伏を表に出すようになったのは君が来てくれてからだ」 だって、僕はどうやら嫌われてるみたいなんだけど。 「私の仕事相手に愛想笑いすることはあっても、喜んだり怒ったり、そんなドラコは私がドラコをこの家に引き取ってから初めてだ」 えっと。 それって、僕はドラコにとって特別な存在なんだって、そう思っても良いのかな。 ドラコはまだ心の中のどこかに僕を置いてくれているのかな。 自信、持ってもいい? → 090401 |