07










 今更だけど。あれから何年も経つんだけど。
 長い間。その間に僕達の間には大きな溝が出来た。僕の知らないドラコが出来上がった。

 環境も変わった。なんか色々世界も変わった。僕だって昔のままじゃいられなくなった。



「卒業してから、どうしてたの?」

 なんか、ぽっかりと胸が空洞になった気分だ。

 寒くもないのに指が悴む。寒いんだ、きっと。だからまだこうやって抱き締めていても良いよね。


「あの事で、マルフォイの家が取り潰しになって、このノーフォーク家に世話になっている」

 僕の耳元でドラコがはっきりとした口調で言う。
 もう少しこうしていていい?

 力は緩めたから、嫌だったら僕の腕から抜け出したっていいんだからね。

「あのおじいさんとどういう繋がりなの?」

 マルフォイが今でも良い意味でこの魔法界の人々の口の端にのぼることはない。
 忌まれている。

 そのくらいは僕だって知ってる。
 マルフォイを引き取ろうだなんて、よっぽど何か理由があるのだろうと思った。




 本当は、あの時、少しは期待したんだ。


 マルフォイが取り潰しになったらしくて……そのことぐらいの情報は耳にした。もしかしたら、行く場所を無くしたドラコが僕の所に来てくれないかと、そんなことを思ったけど。

 もし来たらどうしようかとか……来なかったけどさ。もし、僕を頼ってくれたら、僕は、きっと、何を棄ててでも君を迎え入れたと思う。



 来なかったけど。





 僕とドラコはあのまま赤の他人になってしまったんだ。

 僕の所になんか来るはずなんかなかったんだ。それでもこうなったらいいなあ、とか……何度も思い描いた。もう一度、会いたかった。



「おじい様は、祖父の末の弟なんだ。昔から、僕に良くして下さっていた」



「そっか」

 昔はよく笑ったとか、そう言ってたんだ。確かに学生の頃のドラコはコロコロとよく表情を変えていたけど、あんまり可愛く笑ったりしなかったよな。
 その前から知ってたんだろうな。会った頃から子どものくせにシニカルな笑顔ばっかしてたから。僕の知らないドラコをしってるんだ、じいさんは。

 なんか、羨ましい。



「おじいさん、ドラコに子供になって欲しいって言ってたよ」
「……知っている」
「なってあげないの?」


 だって、こんなこと言いたくないけど、マルフォイってなくなったんでしょ? ずっと、君は、誰よりもマルフォイだった。ドラコよりも、ドラコはマルフォイとして生きていた。僕はそれが嫌だった。







「マルフォイの復興のためだ」




「マルフォイってなくなったんじゃなかったの?」
「失礼な奴だな。まだここに居るだろう!」

 ああ、はい。


 昔っから君は根っからマルフォイのお貴族様気質だったからね。僕だけにはマルフォイじゃなくてドラコを見せてくれていた事が、僕は本当に嬉しかったんだよ。


「マルフォイのあるべき姿を取り戻す為には、金とコネが必要なんだ。お祖父様の政治、経済的手腕とを学ぶためにここにいる」
「……へえ」


 なんだかよくわからないけどさ。
 大変そうだよね。

 僕は難しいことなんか嫌いだから。



「ねえ………ドラコ」




「………」



 何で、逃げないの?



 僕が君を抱き締めていても、大丈夫なの?



 本当に好きだった。
 会えて嬉しかった。

 変わらずに、綺麗なままの君に会えた事が嬉しかった。

 また、好きになっていい?
 君にまた好きだと伝えていい?

「ハリー………」




 僕達は変わってしまったけど。
 君は身長が伸びて髪が伸びて一段と綺麗になった。僕も背が高くなって、筋肉もついて声だって変わったし。


 会ってわかったんだ。

 やっぱり君が……僕は。











「僕の邪魔をしないでくれないか?」


「…………」


「僕にはマルフォイの復興という大望がある。生粋の純血の一族が少なくなり、未だにマルフォイの名前はこの世界では有効だとはいえ、やはり一度は地に落ちたんだ。それなりに時間も努力も必要なんだ」


「へえ。僕がいると邪魔なんだ」


「…………」




 君のやりたいことの障害になるんだ、僕が。


 何で?


 やりたいならやりたいことをすればいい。僕がいたって居なくたって。

 こうやって大人しく抱き締められているドラコ。



 もしかして君も……
 まだ、終わってなかったりする?

 僕のことなんか取るに足らない存在ってほど、忘れられたわけじゃないんだ。

 僕との思い出は、ドラコの中では昇華し終わった過去じゃなくて、まだ僕を思い出して苛々したりしてくれてたってことだよね?





「用がないなら、もう来ないでくれ」
「僕はノーフォーク氏に招待されたんだよ」




 だから、君に会いに来たわけじゃない。
 だから、君が僕を拒否したって、僕の来訪は君に是非の決定権がない。


 そう言うことだから。





 君を諦めるつもりなんかないんだ。せっかく会えたんだ。きっと何かの運命だよね。

























090311