06














 腕の中のドラコは、抱き心地が、思い出とは違った。

 なんか、小さくなった気がした。勿論そんな事はないんだけど。僕達は、お互いの知らない所で成長だってしたんだし。

 僕もあれから成長したし。
 一応スポーツの選手だし、それなりに鍛えてるし。

 昔はあんまり体格は変わらなかった。僕だってがりがりだったし。ドラコは相変わらず痩せている。僕達の視界はそれほど変わらなかった。同じ高さで世界を見ていた。

 それなのに……なんだか、ドラ子が小さくなった気がした。



 ドラコはおとなしかった。
 僕がこんな風に抱き締めたって、抵抗もしない。

 あのさ、もしかして期待、してもいい?
 好きでもない人にこんなことされないよね、普通。嫌がるでしょう? 



「僕はドラコが謝って来てくれると思ってたんだけど……」

 あの時、ドラコが、謝ってくれると思ってた。

「謝ろうと思ったけどな」
「けど、なにさ」
「自分のしたことを思い出せ、馬鹿」
「僕は何もしてないよ!」
「しただろうが! お前、僕と付き合っている間に女の子と何回キスしたんだ!」



 ……………。



「………二回」


 すいません。
 ドラコと付き合っている時に、一瞬だけ同時平行してました。

 でも、お付き合いってほどじゃなくて、僕の中ではお友達の延長でキスするまでの仲だったんだけど……。だから、僕にとって、それほど後ろめたい気持ちはなかったと言うか。
 それで結局、やっぱりドラコが一番だなあとか……。結局僕はドラコが一番好きなんだなあとか、そんな事を確認するためにも時々……いや、僕から手を出したわけじゃないし、何となくその場のノリって言うか、女の子に恥かかせるわけにはいかないし……。


 バレたのは二回だけだけど。


 だってなかなかドラコに会えなかったし、会っても時間がなかったりとか。それ以上に、僕を見てくれてなかった。
 お年頃の僕はそれなりに寂しかったんですけど。

 バレたらやっぱり嫉妬してくれたりとか、そう言うのも嬉しかったりとか……ごめんなさい。
 悪いことをしたと思って反省しております。


「でも、それは謝ったし、許してくれたじゃん」
「僕と喧嘩している間は数に入らないと?」
「……なに、それ?」


 何のことだ?

 そりゃ、ドラコが謝ってこないならいいやとか思ったけど、学生時代は謝ってきたってもう知らないからねって怒りながら、次の女の子とお付き合いを始めたのは……ドラコと最後の喧嘩してからだいぶ経ってからだったし……。

 どの時の事だ?

 ずっと僕がドラコが謝ってくるの待ってたんだけど……かなり長い間待ってたんだけど、でも来ないから、やっぱりこのまま別れるつもりなのかなあとか……思って……そのまま。




「ああ!」

 もしかして、あの事かな?

「ああじゃない、馬鹿。いい加減放せ」
「だってアレは違うよ!」

 確かに喧嘩してから直ぐに謝ってこないドラコに腹を立ててたけどさ。その間の悪さで好きだと言ってくれた子がいたけど、それなりに可愛い子でだったけどさ、それでもちゃんときっぱりと誠意を込めてお断りをしたんだ。
 そしたらキスしてくれたら諦めますって言うから…後腐れなくこの場から逃げられるなら、キスは嫌いじゃないし、まあいいやー、とか………は、やっぱり言わない方が僕の保身には有効だろうか。

 あれもバレてたんだ……。



「どれだか知らないが、別に怒ってないからもういい」
「じゃあ、ドラコも謝ってくれるわけ?」

「お前の気が済んでもう金輪際お前と関わり合わずに済むならいくらでも謝ってやる」

「なにそれ?」
「あんな大昔の話をいちいち蒸し返すことでもないだろうと言いたいんだ」

 もう終わった事なんだし、って。


 ………そっか。




「もう終わった事なんだ」


 そっか。終わったんだ………。

 区切りがないから、なんか、引きずっちゃったけど……終わってたんだ………。




 ドラコの中ではもう区切りをつけているんだ。
 終わってないのは僕だけだったんだ。ずるずるドラコの思い出引きずってたのは僕だけだったんだ。

 そっか。


 そうだよな。


 ドラコは、学生時代から、僕なんかよりも影で女の子に人気あったし……。性格がキツイし綺麗だけど隣に並んだ女の子を霞ませてしまうくらい綺麗で、だから高嶺の花すぎてあんまり寄ってくる子はいなかったけど、実際は僕なんかよりもはるかにフェミニストで女の子の扱い方心得ていたし。
 ドラコだって、僕がいようといまいと女の子にはとても優しかったし。


 そっか……。


 失恋か。














090310
今回の話のハリさんはこういう人です。