04 「おまえが何でこんな所にいるんだ!」 再会は喜びでも感動でもなかった。襲ってきたのは、怒鳴り声。 まあ、勿論抱き合って喜び合うような相手でもないことはこの僕が一番心得ている………再会シーンを思い描いたことは勿論ある。何度もある。一度や二度じゃなくて、お付き合いしていた彼女に振られて寂しい思いをしている度に何度も。 勿論、どんな運命的な出会い方を頭の中に思い描いても、「会いたかった」「ずっと僕も君の事を忘れたことがなかった」「僕もだよ」みたいな、甘い展開はありえなかった。僕が自由に出来るはずの妄想の中ですら、彼は冷たかった。 けど、いきなり怒鳴ることないだろ! 「それはこっちの台詞だよ。何でドラコがここにいるのさ!」 いきなり怒鳴られた腹立ちと驚きのあまり声が裏返ってしまったけれど、そんなことにすら気付かず、僕は目を見開いて彼を凝視してしまった。 ドラコもドラコで、なんだか二の句が次げないようで、らしくもなく口を開いて僕を見ている。 なんか………いや、どうしよう。 会わなくなってから、何年ぶりだろう。 僕達が別れてしまってから、どのくらい経つのだろう………。 相変わらず、美人だった。 ドラコ……だよね? 間違いない。こんな美人は僕の人生で彼だけだ。これ以上の美人に僕はまだ巡り合った事がないから、間違いない。こんな美人がその辺にころころ転がっててもらってたまるか。僕はその度に目移りをしなければならなくなる。 相変わらずの透き通るような白い肌で、少し目元が大人びた。 さらさらと絹糸のような明るい金髪はだいぶ長くなって、肩口で茶色いリボンで止めてあった。 ………また一段と綺麗になった。 なんか、どうしよう。目頭が、熱くなってきてしまった。 だって僕はもう二度と会えないと思っていたんだ。僕の世界の中には想い出の中だけに彼が存在していた。どこで何をしているのかとか、そんな情報は一切知らない。入ってくる伝もない。だから、もう……。 ……好きだった。 本当に好きだった。 実際どんな人とお付き合いしたって、比べるのはいつもドラコとだった。 だって、あんなに喧嘩したんだ。たくさん喧嘩した。 でも、それでも好きだった。どうしようもなく、好きだったんだ。 「何でって、僕は今この家に住んでいるんだ! お前の方こそ何でここに?」 「僕は招待されただけだよ」 「ああ、だから似合いもしないそんなローブなんか着ているんだな。服に着られているぞ」 毒舌は相変わらず。 「似合わないって、仕方ないだろう。僕はもともとこういう服あんまり着ないんだ。それに行ってこいって監督命令だったんだし」 着たくて着たわけでも、来たくて来たわけでもないんだ。僕はそういってドラコを睨みつけた。ドラコはドラコで、僕の視線を、冷たい目で見返した。 なんか、相変わらずで。 ドラコを探す手段すらなかったから、こんな不意に会えたこととか……相変わらずの毒舌は相変わらず僕にはぐさりと痛いこととか。 どうして良いのかわからなくて。僕が今どんな状況なのか良くわからなくて。 「なんだ、二人とも知り合いだったか」 僕達が見つめあってから、長いような、短いような時間の句切りは、朗らかに笑うじいさんの声だった。 それで、ここがどこで、僕が何をしていたのか、ようやく思い出した。 ドラコもそうみたいで、ようやく僕からわざと視線を逸らした。 視線を逸らして、踵を返した。 それは素早い動作で、僕の錯乱した頭ではドラコの動きに追い付くことができなかった。 「ちょっと、待ってよ!」 あっと言う間に、僕の声なんかに耳を貸そうともせず、ドラコは部屋から僕とじいさんのいたテラスからいなくなってしまった。 「ドラコ!」 追いかけようかと思ったけれど、テラスに繋がる部屋にはもう影すら見えない。 どうしよう、 だってせっかく会えたんだ。 こうやってせっかくまた会えたんだ! 探す手段すらなかったのに……会えたのに……ここで見逃したくなんかない。 「まあ、落ち着きなさい」 じいさんが、僕の背中を手でさすってくれた。 「……申し訳ありません」 ここがどこで、誰の前かなんて理解してた。 今、すごくみっともない姿を、じいさんに晒してる。こんな失礼なことあってたまるかって醜態をしてる。みっともなく取り乱して、大きな声を上げて。 でも、ここでドラコに会えたんだ! せっかく会えたんだ! どうしよう。 今ここで僕がドラコを追いかけても良いのだろうかいや良くない! だってじいさんがイイ人だって、やっぱりこの家の主であるわけだし、ここで機嫌を損ねるわけにもいかないし、そんなことしたら監督に何て言われるか。 ああ、でもドラコが行ってしまうよ。 「二階の端が彼の部屋だ」 じいさんは、にこにこしていた………すごく、暖かい笑顔だった。 追いかけて良いって言ってくれてるのだろうか、じいさんは。 僕のこと、僕とドラコのこと、知ってたのかと思ったけど……だってそんなはずないし。僕達の関係を、誰にも言ったことはない。僕達以外は僕たちが、ライバルで犬猿の仲で、天と地がひっくり返っても仲良くならない。そういう間柄だとしか認識はなかったはずだ。僕だってそうそう他人に悟られるような真似はしなかった。誰にも気付かれないんだから。 でも 「ありがとうございます!」 僕はなんとか、それだけをじいさんに言って…… ドラコを探しに向かった。足は駆け出していた。 → 090307 |