鋼鉄プラスチック01














 ………久しぶりに夢精をしてしまった。



 いい年して情けない。
 ここ最近ずっと女の子を切らしている僕が溜まりに溜まっていることは自分でもよくわかっている。
 数ヵ月前にその時にお付き合いをしていたそれなりに美人で気立てのいい女性と大喧嘩をして別れてそれっきりだ。

 ホグワーツを卒業して以後、魔法使いの英雄的存在としてだけじゃなく、スーパールーキーとしてクィディッチ界に君臨する僕とお付き合いしたい女の子は途切れることなく、僕の自慢の一つに女の子を切らしたことのない事が入るくらいだったのに。
 この前の別れかたは酷かったから、なんか暫くは面倒に思っていて……実際、ちゃんとしたお付き合いをしたいだなんて今でもあんまり思ってないけど、身体は正直だ。

 女の子の柔らかい肉が不足しているからだ、絶対。




 夢はここ数日に渡って頻度を増している。大好きな女の子と一緒に布団でまどろんでいる時ですら、その夢は見たことはあったけど、ここ最近は酷い。
 昨日も一昨日の夢もそれだった。

 早く大好きになれる女の子を見付けちゃわないと…………。



 夢は、学生時代に僕がお付き合いしていた人のものだった。




 お互いにそれなりに真剣だったつもりだし、あっちだってそれなりに僕に対して真剣だったと思うし、僕はとても大好きだったけど些細な事が原因となって僕達は大喧嘩をして別れた。

 些細なことだ。
 もともと性格上、喧嘩することなんかほとんど日常的なことだった。
 喧嘩しても、どちらからとなく謝るか、謝らないでもやっぱり好きだから、なんかまあいいやーって気分になって知らないうちに元通りななっていたから。
 いや、謝るのは僕の方が多かったかな。なんか一緒にいれないなら、こっちから折れる程度のことはプライドには引っ掛からないことが多かったし。でもあっちからだって良く謝ってきてた。それだけよく喧嘩した。

 あの時だっていつも通りの喧嘩だったんだけど、なんか、僕は悪くないって絶対謝らないって意固地になって、まあその内にあっちから謝ってくるだろうとか、そんな風に思ったまま。


 そのまま。





 お付き合いしているだなんて誰にも秘密だったから誰にも相談なんかできなかったし、喧嘩なんかしなくても時代の潮流とか、なんかそんな無駄な圧力で結局別れちゃったんだろうけど……。
 初めて付き合った人だったし、一緒にいて一番楽しかったし、今までのお付き合いした人達の中では一番の飛び抜けての美人だったし、まあ、その……一番あっちの相性は良かったし、ぶっちゃけその人とのえっちが一番気持ち良かった。

 忘れられない。
 って感傷に浸るような話でもないけど。今更もう会うこともないだろうし、会いたくてもどこにいるのかなんか知らないし、どうしようもないし。
 思い出して、懐かしさに顔が綻ぶ程度のことなんだけど………。


 本気でたまってるんだ………。

 まずい、本気で。




 僕はベッドの上で途方にくれた。




 そんな夢のせいで、今日は朝から気分がよくない。
 ただでさえ今日は面倒な仕事があるっていうのに。


 卒業してから、僕はクィディッチの選手として活躍した。

 自分で言うのもなんだけど、それなりに好成績で、初めの頃はスーパールーキーとして脚光を浴びて、今では僕のチームはほとんど負け知らずだ。けっこうチームには貢献している方だと思う。


 そんな僕なんだから、モテて当たり前。

 ………僕の所属するチームのオーナー様にも熱烈に求愛されるほどだ。
 オーナー様には直接お会いしたことはないけど、好好爺として名高いクィディッチ狂いの人らしい。あんまりお貴族様の事情には詳しくないけどどうやら立派な血統の立派なお家柄らしい。事業も起こし、仕事の面でもなかなかのやり手らしい。


 名前はセルシオ・ノーフォークとか言ったと思う。


 そのノーフォーク様にデートのお誘いを受けた。

 監督命令だから、仕方がない。その監督命令には続きがあって、決して失礼のないように笑顔を崩すなと言うことだ。

 行かなくちゃ。ああ、どんな愛想笑いの地獄が待っているんだろう……。まあ僕の活躍を全部スクラップしてくれているほどだと聞いたから、僕を好きでいてくれるのは有り難いけど……今日の会瀬を思うと、寝ている間に汚してしまった下着とのダブルパンチを食らう。

 早く僕を大好きになってくれて僕が大好きになれる可愛い女の子を見つけないと……。明日もまたへこんでしまいそうだ。


 とりあえず、熱めのシャワーで頭を切り替えて、一年間で数度しか袖を通さない僕の一張羅をクローゼットの奥から引っ張り出した。チャコールグレーのちょっと光沢のあるローブ。さすがにそれ相応の立場と御身分の方に面会するにトレーナーにGパンてわけにはいかないだろう。


 朝食をベーコンをベーグルに挟んで軽く済ませて、僕は家を出た。



 天気は晴天。
 僕の心とは裏腹に。















090304