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 目が、マルフォイを追いかける。マルフォイが見たいわけじゃないのに……。マルフォイの事なんか見たくないのに。

 ここ数日、僕はすれ違うごとに、マルフォイの髪を伸ばした。当然嫌がらせだった。そのくらいマルフォイにだって解ってると思うけど。

 マルフォイは髪を伸ばした方が似合うんだ。だってリズはあんなに可愛かったんだ。
 って思った。だから、僕は嫌がらせだけど、マルフォイの為を思ってやってあげてるんだ。

 マルフォイがリズじゃないってわかっていても、僕の目はどうしてもマルフォイを追ってしまう。

 それは、もう仕方ないって諦めた。だからせめて……。
 せめて、リズを見てたかったから、マルフォイへの嫌がらせでマルフォイの髪を伸ばした。
 その度にすごい形相で睨まれたけど……睨まれたけど、でもマルフォイへの今までの仕返しだと思ったら罪悪感もなかった。君の方が、ひどいよね?












 ある日、マルフォイが一人で歩いて行くのが見えたから………。
 図書室で再提出の課題に頭を抱えるロンにハーマイオニーと付き合って、僕もなんとなく教科書を広げてたんだけど………。
 予習にも身が入らなくてぼんやりしてた。

 マルフォイの後ろ姿を見た。
 リズと同じマルフォイの髪の毛を、僕が見間違えるはずなんかないんだ。

 別にマルフォイに用なんか何もないんだけど。

 マルフォイが、一人で居ることなんて最近はめったにないんだ、たぶん僕を警戒しての事だと思うけど。デカブツが二人いたところで変わりないのに。
 ……だから。珍しいなって思った。


 図書室でお勉強家とも思ったけど……帰っていくところだろうか。
 気になって、視線をマルフォイの出て行ったドアに送る。

 と、デカブツ二人が僕達のすぐ後ろに見えた……。

 混雑している図書室で、デカブツ二人の真ん中に一つ席が空いてるから……ちょうど僕の後ろ。






 マルフォイに話すことなんかなかったけど。逃げられるのも癪だった。

 最近は僕の嫌がらせに根負けしたのか、髪の毛を伸ばしたままだった。金髪をさらさらと揺らして、大抵の時は、サテンのリボンで後ろで一つに結わいていたけど。
 髪を結んだリズも可愛いんだ。とか思ってしまう僕は末期だって、十分わかってる。

 マルフォイなのにさ。似てれば、いいのかって、自分で叱咤する。



 せめて、僕に謝ってよ。
 マルフォイが一言ごめんなさいって言えば僕だって……。
 諦め……られるのかな。

 だって僕の好きな人なんだ。

 今でもリズを想うと胸が熱くなるんだ。その気持ち、知らないだろうね。きっとマルフォイなんかにはわからないんだろうね。せいぜい楽しかったかよ。僕が滑稽でさ。
 本当に好きだったんだ。
 理性とか何だか全部すっ飛ばして、僕の全部投げ出して、リズが好きだって、心の底から叫びたいくらいに、僕はリズを大好きになってしまったんだ。
 今だって、リズへの気持ちは何も変わらない。
 もっと好きになってるくらいなのに………。

 諦めようとしたって、同じ顔があるんだし。嫌でも思い出しちゃうよ。

 苦しくてさ。
 リズを思い出すだけで、こんなに苦しくなって。

 酷いことするよね、マルフォイも。最低だと思ってたけど、まさかここまでなんて思わなかった。酷すぎるよ。
 僕がリズを忘れられないのは、もうどうしようもないとしても……せめて謝ってよ。って思った。

 僕の気持ち、こんなにぐちゃぐちゃにしてさ。

 だから、マルフォイが一人でいるのを見たから……そんなチャンス滅多になくて!
 謝らせようと思ったんだ。

 謝ってくれるような相手じゃないことぐらい、もう数年のあれこれで、いやと言うほど熟知してるけど。
 でも、加害者に、僕の気持ち、知って貰いたかったんだ。僕は、こんなに辛いんだって、一パーセントでも思い知ればいいって思ったんだ。

 いつもマルフォイの脇を固めるデカブツに力業で来られたら、負けるつもりなんかないけど、何としてでも勝ってやるけど、それでも面倒なことには変わりない。

 マルフォイが一人でいたから……。
 僕は、頭を抱えているロンと、頭を抱えるロンに頭を抱えるハーマイオニーに教科書を頼んで、こっそりとマルフォイの後をついて行った。




 どこに行くのかと思って………。

 しばらく歩いたんだけど……こんな所、来たことない。来ようと思えば来れない場所じゃないけど、わざわざ足を運ぶこともない場所。こんな所に………。
 マルフォイは途中で立ち止まって結んでいた髪の毛を乱暴にほどいてから、窓の外を見てた。

 結んでいた場所にクセが少しついてたけど、それでもさらさらと流れて、夕陽に染まって赤く光ってた。




 あ、夕焼け。
 僕はマルフォイの視線を追って、外を見て、見事な夕焼けに気が付いた。

 ここから見る夕焼けは、絶景だった。


 いつか、リズと一緒に見たいな。


 とか………思って……そこに居るのに。

 僕はマルフォイと、夕焼けとリズとを一緒に視界に入れた。

 綺麗だなって……一枚の絵画を見ているみたいだ。僕が見ている光景が絵だったら、リズと夕焼けだった。

 そんな遠い距離じゃなかった。ちょっと、僕は気付かれないように、柱の影に隠れていただけなんだけど。

 真っ赤に世界が夕焼けで焼けて。
 コントラスト最大で、視界がくらくらするのに、君だけは……マルフォイの存在感は、際立っていた。

 胸が苦しくなるくらい、マルフォイが綺麗だった。

 マルフォイに美辞麗句は似合わないけど、でも……なんて綺麗なんだろう……って思ったんだ。

 リズに初めて会った時みたいな、衝撃。
 気付かなかった。
 マルフォイは嫌な奴で、僕の大嫌いな奴で、嫌味な奴で、僕の天敵で……自他共にそのレッテルが強すぎて、マルフォイの顔なんか、マルフォイ自身を僕は見たことがなかった。


 綺麗。って……素直に今思った。


 僕は、ずっと見ていたくて、息を殺して……呼吸もろくにしていなかったんじゃないだろうか。
 こんなに苦しいんだから。



 マルフォイが、結んでいた髪の毛を何度か揺らして。

 ただ、夕焼けを見ていた。
 窓枠に両肘をついて、見てるマルフォイを僕は、ただ見ていた。

 世界が綺麗な中でも、何より君が綺麗だ。


 ふと。
 マルフォイが、自分の唇を触った。


 何気無い動作だったんだけど。

 僕は、リズの唇の柔らかさを思い出した。
 ふんわりと、柔らかくて暖かくて、今まで食べたどんなケーキよりも甘かった。
 から……。

 思い出して、苦しくなった。


 リズはいないんだ。もともといない人なんだ。
 そこに、居るのに。

 リズとのキスは、今まででしたどんなキスより甘くて、ふんわりと気持ちよかった。
 天にも昇るような……っていうか、もう嬉しすぎてワケわかんなくなっちゃって、重力の存在を感じないぐらい、気持ちよかった。
 のを、思い出して……。

 頭に血がのぼる。

 だって、今ここにいるのは、マルフォイで………











090203