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 そりゃ、現実が見えてなかったわけじゃないけど。リズとマルフォイが同一人物だって理解したよ、させられたよ。それでも信じられなくて。今だって信じられないけど。
 でも、今僕の目の前にいる金髪のロングヘアは、マルフォイじゃなくて、どう見たってリズだよ。だって、マルフォイの顔は見飽きてるけど、それだって髪が伸びただけで、こんなに美少女になるだなんて……それも、こんなに僕の好みにクリーンヒットするだなんて!

「何をしたんだ、ポッター。ろくに授業も聞いていないから不発な……っわあ」

 リズが、目の前にいる、だなんて思ったら。抑えが効かない。
 目の前にいるのはマルフォイだなんて、わかってるけど!
 だって見た目は完全にリズだし……。
 完全に、僕が大好きになった、僕が結婚したいって思った、美少女、リズが、ここに……。

 抑えきれないよ。まだ、だって君を見ただけでこんなに胸が高鳴るんだ。マルフォイじゃなくて、僕はリズに恋をしているんだ、今だってまだ!


 僕は、リズに抱きついた。
 細い身体。折れちゃいそう。
 覚えてる。この、体の細さ、僕はちゃんと覚えているんだ。
 臭いだって。いい香り。

 何で、コレがマルフォイなんだろう。リズで良いのに。リズが本体で、嫌味なマルフォイが仮の姿だったらいいのに!
 僕はぎゅうぎゅうに抱き締めた。だってまだ愛しいんだ。離れたくない。から。

「何だ!」
「リズ!!!」

 会いたかったよ。会いたかったんだ、君に。僕はマルフォイなんかじゃなくてリズに会いたかったんだ。マルフォイなんかいなくなってリズになっちゃいなよ!

「離せ!」

 離すわけないじゃん。リズを僕に返してくれたら僕は君に何だってしてあげるから、だからお願いだから、僕にリズを返してください。

「ポッター、離せよ」

 マルフォイが、僕を必死で引き剥がそうとしていたけど。
 君のそんな軟弱な腕力じゃ、僕に勝とうだなんて絶対に無理だって。
「リズー!!」
 ああ、いい匂いだよ。
 マルフォイが、いつも付けている香水の匂いだ、そう言えば。香水なんか付けて気取ってて、全然ちっとも男らしくないよ。でも、リズにだったらすごく似合う。
「おい、ポッター! 離せ」
 ああ、もう。喋らないでくれないかな、マルフォイ。リズが台無しだよ。
「ゴイル、クラッブ、こいつを何とかしろ!」
 って号令の後に、僕のローブやら腕やらを掴まれて、後ろの方向に強く引っ張られた。
 離れるもんか。
 絶対に離れてなんかやらないんだから。
 マルフォイだって、楽しそうだったじゃん。キスをした時だって、あんなにうっとりした顔してたし。
 もう、何だっていいから、僕にリズを返してください。
 僕の気持ちを取り上げないでよ。



「ポッター……」

 ふと。
 あれ?

「次の授業の教室、遠い場所なんだ。離してくれないか?」

 マルフォイのいつもの声が……高飛車で居丈高なマルフォイの声が……。

 声は、違うんだけど。
 リズよか、少し低い声なんだけど……。ちょっと舌足らずな……。

 リズの声が……僕の頭に降ってきて。甘えたような、声。

 マルフォイだって知ってるけど。
 でも、今の……少し甘えたような口調は……

 僕は、マルフォイの顔を見た。
 だって……マルフォイじゃなくて………

「……リズ?」

 君は、僕の好きな人?

「ポッター。そんなに強い力で抱きしめたら、苦しいだろう?」

 優しい顔。笑顔で、さ。
 これは、リズだ。マルフォイじゃない。
 だってマルフォイはこんな柔らかい笑顔なんてしないんだ。マルフォイはこんなに甘ったるい口調じゃないし。こんな優しい顔なんて持ってないはずだし、万が一持ってたって僕に向けるはずなんかないんだから。

 だから……きっと、君はリズなんだ。

「痛かった?」
 会いたかったよ、君に。
 ごめんね、痛くしちゃって。って思った。そんな事はマルフォイだったら絶対思わないけどさ。最低でもざまあみろって思うくらいだ。どっちかっていうと、痛い目見ればいいと常日頃から思ってる。

「ああ。離してくれないか?」

「ごめんね」

 僕は、まだリズに触れていたかったけど。でも、嫌がられるなら、君の頼みなら何だってききますとも!

 って、僕は意気揚々と身体を離したんだけど………。

 離した時には。
 もう、髪が長いだけのマルフォイの顔に戻ってた。
 冷たい視線で。
 一瞥だけ僕に送るとさっさと教科書まとめて。

「マルフォイ!」
 今の……。

 僕だって流石に頭では理解してるんだ。リズとマルフォイが同一人物だって、理解してるんだ。頭では理解してるけど、感情と理性が理解してない。リズを見たら興奮しちゃってリミッターが外れちゃうんだよ。
 慌て、マルフォイを僕は呼び止めたけど。
 鬱陶しそうにマルフォイが僕を振り替える時にさらさらと銀色に光る金髪が揺れた。
 すごく不機嫌そうな顔つきだったけど、それでも。



 怒った顔もチャーミングだね。



 ………って言いそうになった。

「何だ?」
「その………」

 いやいや、マルフォイだから。僕の大っ嫌いなマルフォイだから!
 見た目はリズなのに……何でマルフォイはリズじゃないんだろう。
 こんなに可愛くて、まるで天使みたいなのに、何でマルフォイなんだろうって、思って、切なくなってきた。
 諦めきれないよ。

「何だ?」

 まだ、僕はリズが好きなんだ。

「………何でもない」

 そんな事、マルフォイに言えないけどさ。











090127