授業が終わった。 生徒達がぞろぞろと教科書抱えて教室から出ていくけど、僕はまだ動きたくなかった。 動きたくないっていうか……目が離せないっていうか…。 マルフォイは大嫌いだし。 でもリズは大好きだし。 僕は、どうしたら良いんだろう。どうしようもないことぐらい理解してるよ。諦めるしかないんだから。わかってるけどできないんだ。理性でわかってそれで実行してるなら、すっぱり諦めて、今ごろマルフォイをどうやって苦しめてやろうかとか、新しい目標に向かい邁進しているはずさ。 諦められないんだ。 だって、よく見れば見るほどマルフォイはリズに似ていて……本人なんだから、当たり前だけどさ。 まだマルフォイがリズだったなんて信じられない。 その顔がどんどん近づいてきた。 マルフォイは来ないでいいよ。リズなら大歓迎だけどさ。 「本当に鬱陶しいな、ポッター」 身長高くないくせに、見下ろしたように背筋を反らして喋るのはこいつの癖だ。口の端だけ持ち上げて、嘲笑浮かべるのも、マルフォイならでは。 リズははにかんだように笑って、ちょっとうつむき加減で。慎ましくおしとやかだったのに……僕にあんまり顔を見られないようにするためだったのかもしれないけど。でもマルフォイだなんて思わなかったから、嫌がられたって見てたけどね。一秒だってリズから目を逸らしたくなかった。 「リズを返せ!」 同一人物だなんて、ヘソが茶を沸かすよ。 僕の天使を返して下さい。リズなら、僕は至上の愛を捧げたいのに、マルフォイにはお断りだ。 「………いい加減にしろ! もともとお前のものじゃない!」 だから、僕のものにしたかったのに。 忘れられないんだ。僕はリズがいいんだ。リズじゃなきゃ駄目なんだよ。 マルフォイは、大げさに僕に見せ付けるように、全身を使って溜息を吐いた。嫌味ったらしい態度に僕のハラワタは沸騰寸前だ。 けれど、似てる。 本人なんだから、当たり前だけど。 似てる。ムカつくけど。 僕は、この顔に恋をしていた。いや、現在進行形で熱愛中だ。 「マルフォイが、僕の理想通りの女の子に変身してるからいけないんだろ?」 僕がこんなに苦しいのは全部マルフォイのせいなんだから、少しは責任持ってよ。 「変身って! 何もしてないだろ!」 「スカートはいてたじゃん」 「不可抗力で一度だけだ!」 「髪の毛長かったじゃん」 「じゃあ、ダンブルドアにでも惚れておけばいいだろう!」 何言ってるんだろう、こいつは。もしかして自分の女の子みたいな顔自覚してないの? 髪の毛長かったら完全に女の子に見えるよ。鏡見たことないの? 今だってマルフォイが男だって知ってるから可愛いとか思わないけど、マルフォイだって知ってたら、いくら僕だって好きにならないよ。 「もう、いい加減にしてくれ」 マルフォイが、溜め息を吐き出しながら、吐き捨てるように僕に言った。 なに、その言いぐさ……。 「……さんざん僕のことを引っ掻き回しておいて、その言い草は何だよ!」 結局君は楽しんでたんだろう。僕が可愛い子が好きになって、失恋すればいいって、そう思ってたんだろう? そりゃ僕だってマルフォイが大嫌いだから、マルフォイが振られたりしたのを見たら絶対溜飲が下がる気持ちだとは思うけど。 失恋がこんなに辛いだなんて、僕は知らなかったよ。君の目論見は大成功なんだろうね。僕の気分は最低最悪だよ。 「勝手に引っ掻き回されたそっちの方が悪いんだろ。騙される方が馬鹿なんだ」 マルフォイなんて全然僕の恋愛には関係なんかなかったんだ。僕は僕の意思でリズを好きになったけどさ。思わせ振りな態度をしたのはそっちじゃないか。 「何だよ、僕のせいだって言いたいのか!?」 キスだって、僕達はしたんだ。 「人の顔ぐらい覚えておけ!」 何で、同じ顔なのに。 何で、今目の前にいるのはリズじゃなくてマルフォイなんだろう。 僕はまだ、キスの余韻が残ってるんだ。思い出すだけで、全身が熱くなってくるんだ。 それなのにマルフォイは、僕に冷たい一瞥を投げただけで……。 僕は、ただリズに会いたいんだ。 またあの笑顔が見たいんだ。 また彼女に、彼女とキスをしたいんだ。 その時に。 ある、呪文が、僕の脳裏を過ぎった。 瞬間的なひらめきに関して、僕は天才なんじゃないだろうか。 僕は、ほとんど無意識だったんだと思う。 おぼろ気に覚えていた呪文だけど。初歩の呪文だからといって、成功するとも思わなかった。 でも、とにかく試したくなってしまって。どうしてもリズに会いたいんだ! この気持ち、わかってくれるよね? 理解してくれなくても、わかって下さい。 懐から出した杖を向けるとマルフォイは青ざめた。備えて、マルフォイは身構えてた。 杖から、僅かな光がマルフォイに向かうと、彼は目をぎゅってつぶっていた。 攻撃するとでも思ったんだろうか。そんな事するわけないじゃん。リズと同じ顔が傷つくなんて、僕には耐えられないよ。たとえマルフォイだって、リズの顔だと思うと、無理だよ。リズとマルフォイが双子とか兄妹だったとかのオチでも、顔が同じだったらマルフォイでも、僕はもう無理だ。 呪文がを唱え終わって、僕の魔法がマルフォイに当たる。 マルフォイの髪の毛が、さらさらと揺れながら伸びていく。 ああ…… 「何だ?」 マルフォイは自分が何をされたか分かってないみたいだったけど。 ようやく会えたね、リズ!! 髪を伸ばす呪文。禿頭には効かないけど。 肩を越して、胸の辺りで、髪の毛は伸びるのをやめた。リズより、ちょっと短いけど。 でも……リズだ。 ちゃんと、マルフォイはリズだったんだ。 いや、マルフォイなのは、僕だって理解しているんだけどさ。 → 090118 |