2









 マルフォイは、嫌でも目に入る。嫌なのに。

 今まで見たくなくてもあの頭が視界に飛び込んで来るのは、ロンが蜘蛛を見つけるのが誰よりも早いように、僕がマルフォイを本当に本気で本格的に嫌いだからだと思っていたけど、きっとそれもあるんだろうけど……ただ単に目立つからだって、わかった。
 なるべくマルフォイを視界に入れないようにしてたけど、あの明るい金髪は嫌でも目に入るんだ。
 嫌でもリズを思い出すから見たくないのに。




 でも僕はどうしたってリズが好きなんだ。マルフォイは大嫌いだけどさ!


 話したくもないし、見たくもないし……でも!

 僕は何故かマルフォイの近くの席に着こうとしてしまう。

 今でも信じられない!
 あの完璧な美少女のリズがマルフォイの女装姿だっただなんて!

 だってこんな嫌な奴なのに……。笑い方は人を見下したようで。喋り方だって、人をバカにした話し方だし。リズとは似ても似つかないよ。

 とは思うけどさ。

 一列挟んで、マルフォイから斜め後ろの席だから、何となく黒板を見るとマルフォイが視界にちらちらする。
 から、見て、しまうんだ。
 見たくないのに。


 見てしまって、目が、放せなくなる。釘付けになる。黒板なんか、目に入らないよ。入れなきゃいけないのは黒板だってわかってるけどね、授業中だし。

 リズが髪を短くしたら、きっとこんな感じなんだろう……とか。思った。
 いや、その通りなんだけどさ。
 リズはあのさらさらと流れるプラチナブロンドのロングヘアが魅力的だったけど、ショートも可愛いんじゃないかなとか……。僕は、自分が自分で恋わずらいの末期症状なのだろうと自覚がある。

 リズはマルフォイが長い髪のカツラを被った姿なんだけどさ。わかってるよ。わかりたくもなかったけどさ。声を変えるあめを舐めて、ちょっと声を高くしてたけど……喋り方なんて、マルフォイとは大違いの喋り方でさ。もっと甘ったるい柔らかい話し方をしていたんだ。あの喋り方をマルフォイから想像も出来ない。

 本体がマルフォイだってのは、僕だってわかってるんだって! リズが女の子だったらついてるはずのない汚らわしいイチモツが生えてるのをこの目で確認してしまったのだから………。だからリズは仮の姿で本体はマルフォイだったって事なんだけど……。せめて逆だったら良かったのに。

 マルフォイは好きじゃないけど、むしろ大嫌いだけど、本当は女の子だったらマルフォイだって……いやいや性別以前にきっと僕はマルフォイを好きになれるはずがないんだ。
 女の子だろうと何だろうとマルフォイである時点で、嫌いだ!


 けどさ。
 でも……顔は、リズなんだ……。
 髪の毛が長くなったら、マルフォイは女の子に見えるってことか。
 って……思って。

 確かに。マルフォイの顔立ちは男らしいとは言い難い。
 女顔だよな……。

 別に魔法使って、変身してたわけじゃないんだし。マルフォイの髪の毛が伸びたら、リズと同じ顔になるのか。

 って思って……。
 じっくり見たことなんか無かったけどさ。
 じっくり見たくないけどさ。
 目がそっち向いちゃうんだから、しょうがないよね。

 仕方ないんだ、不可抗力なんだよ。
 だって、やっぱりリズとおんなじ顔してるんだ。本人なんだから当然て言えば当然なんだけど。
 僕はまだ、あの美少女がマルフォイだって信じきれずにいる。信じられない。
 だって、マルフォイを綺麗だとか可愛いだとか、思えないし、思えるわけないし、思いたくないし。
 リズは、マルフォイなんかと違って、綺麗な白い肌をしていた。マルフォイは軟弱そうな青白いはだで、リズはさらさらのプラチナブロンドで、綺麗なブルーグレーで色彩が薄くて儚くて。それでも上品なオーラが出ててさ。
 やっぱりマルフォイとは大違いだよ。

 ……リズに会いたいな……。

 また僕に微笑んでくれないかな。
 近くにいるだけで、僕の気分があんなに高揚したのは初めてだったんだ。初めて箒で空を飛んだ時と同じくらい、僕はリズの存在に感動したんだ。
 会いたいのに。
 僕がこんなに会いたいのに。
 僕は、リズが恋しくて、泣いてしまいそうだ。




 ロンに脇腹をつつかれた。
「ん?」
 でも、ロンは知らんぷりして、必死なふりして黒板を書き写しているだけで……。なんだろう。って思ったら、僕の目の前に先生がいた。

 減点は5点で済んだ。













090116