01 僕は本当に、天使に出会ったと思ったんだ。 君の周囲の空気がキラキラと輝いて見えたんだ。僕と君との空間は光と祝福に満ちていたんだ。 僕の天使………。 が………実は悪魔だっただなんて! いや、悪魔ならまだいいかもしれない。 悪魔の方が、まだ可愛いげがあるって思うよ。 最低だ。 僕は地上最低最悪に相性の悪い相手だって信じてるし実際その通りだし。殺しても裁かれないのなら何度殺してやりたいと思ったか。煮え湯を飲まされた経験数知れず。陰険にして狡猾且つ、性悪! 世界中のすべての悪口雑言を投げつけてもまだ足りない! ドラコ・マルフォイ。 僕はその名前を呼ぶ時は苦虫を噛み潰した時と同じ顔をしているに違いない。 僕は先日、リズと言う女の子に恋をした。 あんなに可愛い女の子に僕は会った事がなかった。顔もだけど、その纏う綺麗な空気に……気圧されるような圧倒的なオーラに僕は一目で恋をした。 だって、本当に天使かと思ったんだ。こんな可愛い女の子、今逃したりしたら、一生後悔するって、そう思ったんだ。 どんな事があっても、手に入れて僕が大切にしてあげたいって。彼女を幸せになるのは世界から約束されたことで、それでも僕の手によって幸せにしたいって、そう思ったんだ。 まさかそれが僕を陥れるための、マルフォイの策略だっただなんて……。 アイツはどこまでも僕を陥れる僕の人生の天敵だ。マルフォイほど、僕が苦手とする相手もそうそう居ないだろう。 顔も見たくない。 僕は今、地上1000メートルからパラシュートも箒もナシで一気に急降下して地面に叩きつけられた気分だった。つまり、どん底。 だって、本当に可愛かったんだ。 綺麗だし。美人だし。可愛いし。 まるで天使。 一目見た瞬間に僕の身体中に雷が走ったみたいになって、次の瞬間にはもう僕はもう彼女……リズに恋をしていたんだ。 僕の恋は、マルフォイによって、失われた。 アイツは本当にどこまで僕の人生の邪魔なのだろうか……。 「なあ、ハリー。いい加減に泣き止めよ」 「今日は泣きたい気分なんだよ! 今日ぐらいは放っておいてくれないか、ロン」 「だって今日ぐらいってもう三日目だろ?」 ロンが親友のクセに僕の行動にいちいち難癖をつけてきた。 もう本当に放って置いてくれ。でも僕を慰めてよ。浮上しないんだ。何食べても、どれだけ寝ても、一向に気分は上がらないんだよ。 「じゃあ僕は談話室に行くからね」 「僕を置いて行くんだ……」 恨みがましい視線を送ると、ロンは大仰な溜め息をついた。 「じゃあ、ハリーも来いよ」 「だから僕は今泣きたい気分なんだよ。談話室で泣き喚いたらみっともないじゃないか」 僕がこんなに悲しんでるのに、君はハーマイオニーと談話室でお勉強デートですか。良い身分だね。 「もう十分みっともないよ」 みっともないって言われたって、こんなに悲しいだなんて思わなかったんだよ。 リズは僕の太陽だったんだから! 世界から太陽が消えたら悲しいだろ? 「ロンだって、ハーマイオニーが男だったりしたら悲しいだろ?」 「何でハーマイオニーが出てくるんだよ!」 ロンが真っ赤になって僕を怒鳴ったけど………。 これでバレてないつもりなんだから………ハーマイオニーも苦労してると同情を寄せたくなるけど。 でも今は親友達を祝福してあげられる気分じゃないんだ! 他人の不幸話の方が今の僕を浮上させてくれそうだけど、でもいまの僕の方が絶対にどんな誰より不幸に違いない! 僕の価値観とか将来の展望とか青写真が瓦礫と化した。 僕は何て不幸なんだろう! だから君は僕を慰めてれば良いんだ。とまでは言わなかったけど。 ロンは怒りながら出ていってしまった……。 ……僕を置いて! ひどいよ! 傷心の僕よりハーマイオニーの方が大事なんだね! そりゃ僕だってリズと会える予定は全部断ってキャンセルして、リズを優先させたけどさ。 だって、どうしても僕をリズに好きになってもらいたかったんだ! 僕はどうしても、リズと相思相愛になりたかったんだ! ……また思い出したら、泣けてきた。 お別れしたりする悲恋の方が、きっとまだ良かった。最悪でめ死別の方がまだ良かった。 だってそうすれば、僕はリズを諦めずに済んだんだ。何があっても僕が彼女への永久の愛を誓えば良かったんだ! でもこんなの、酷いよ! 酷すぎるよ、マルフォイ! いくら僕を嫌いだからって! ……まだ、僕はリズを諦めきれずにいる。 彼女の笑顔が目蓋に焼き付いて離れないんだ。 思い出すだけで僕は顔が緩む。彼女の仕草とか、喋り方とか、瞳の色とか唇の柔らかさとか……まだこんなにしっかり覚えていて、消える気配すらないのに。 僕はまだリズが好きなのに。 諦める以外の選択の余地がないなんて! そんなの、酷いよ! もし彼女が転校しても、もう二度と会えなくなっても、僕は諦めるつもりなんかなかった。諦められるとも思わなかったし。 でも……本当にマルフォイは、最低だ! あんなに僕の可哀想な人生をさらに傷つける奴は、きっと今後二度と現れないだろう。 あいつはきっと前世でも敵同士だったに違いない! 目を合わせるだけ、さらにはその存在を目に見える場所に確認するだけで、こんなにもムカムカするんだから。 リズを、僕は嫌いになるなんて、今でも考えられない。だって今だって抱き締めたいしキスしたいし……会いたいし。 最低だ! なんて嫌な奴なんだろう、マルフォイは。 こんなに彼女への気持ちが強くなってから、その想いを取り上げるだなんて……なんでマルフォイはいつもいつも僕の人生の邪魔をするんだ。マルフォイさえいなければ、僕の人生は順風満帆とまで行かなくても、それなりに楽しかったはずなんだ! リズに会いたい。出会った時より、次の日より昨日より今日、リズに会いたいのに。 だって諦める以外ない。 あんなに最低な奴。 大っ嫌いだ! なんで、リズは………お付き合いしている彼女を寝取られた気分ってこうゆう感じなんだろうか。 いや、きっと僕の方が辛いに決まってる! まさか、だって。 リズはあんなに可愛かったのに……。 マルフォイはあんなに嫌な奴なのに……。 まさかマルフォイがリズだっただなんて……。 「ハリー、まだ泣いてたのかよ……」 「あ、お帰り。ロン」 → 090115 顔も見たくない→顔揉みたくない |