朝、梟が窓を叩く音で目が覚めた。

 カーテンの隙間から漏れる光は、あまり強くない。まだ早い時間のようだ。


 昨日は遅くまで抱き合っていた。もう彼の身体を手放すと思うと放せなかった。少しでも一緒にいたい。心を手に入れることはできなかった。せめて身体だけでも君は僕のものなんだ。一年間の限られた時間だけでも手に入れた。僕だって、幸せになりたかったんだよ。君が居れば幸せが手に入ると思ってた。一年間だけでも、幸せを手に入れる事が出来ると思っていたんだ。







 苦しかった。
 幸せなんかじゃなかった。君は僕を見ない。君は僕を好きじゃない、僕はこんなに君を好きなのに。
 苦しかった。


 それでも一秒でも長く君と居たい。
 



 腕の中で眠るマルフォイを起こさないように、僕はそっと抜け出す。少しでも、離れがたい。






 梟が持ってきた手紙は、宛名はマルフォイ。差出は魔法省。



 今日が……その一年目だ。



 魔法省からの呼び出しの手紙であることは、すぐに理解した。



 破り捨てて、しまおうか……。

 この手紙を破り捨てて、マルフォイを連れて逃げようか。追われたら、魔法省を敵にしてでも、逃げて、どこまでも逃げて。


 マルフォイが嫌がっても、それでも放してやらない。どこまでも逃げて、そうすれば、一緒にいる時間が少しでも伸びるはずなんだ。


 考えた事は、何度かあった。何度も考えた。
 二人きりで世界を敵にして、世界の庇護がなくても僕は君が居れば生きていける。






 恋で人は死ねると思わないか?



 僕は、君が在るから生きていたい。死んだら、一緒に居ることができるって保証なんかは無いんだ。死語の世界はあったと、教えてくれた人はまだ誰も居ないんだ。僕は君と離れたくない。



 マルフォイの判決の日……すなわち、僕の決断の日だ。


 このまま………逃げようか?






 このまま僕と一緒に逃げよう。僕の決意は固まった。君と逃げよう。




 手紙を破り捨てようと……


「それは、僕宛の手紙だろう?」



 マルフォイがベッドの上で、身体を起こして僕に視線を向けていた。
 手を僕に向かって差し出した。差し出した手首にはまだ先日の痕が痛々しげに乗る。君の身体は全部白いのに。
 朝陽に白い素肌が光るようだ。






「捨てちゃおうよ」

 捨てちゃおうよ。要らないでしょ? 僕と君とを引き裂く要因だよ。
 君は僕の隣に居たくないかもしれないけど、僕は君の側じゃないと嫌なんだ。


 そう、伝えてもいい?

「そうもいかないだろう?」

「なんとかなるよ」

「やめておいた方が懸命だ」



 限界なんだよ。やっぱり君を好きだと伝えたい。

 圧し殺した気持ちは、破裂寸前だ。
 もし、僕が君に想いを告げて、僕も恋の為に死ぬことが出来ると伝えたら?
 君はどんな顔をする?

「逃げない?」

 一緒に居ようよ。離れちゃ駄目なんだ、僕達は。君だって……

「……今更だな、ポッター」




 マルフォイは手紙を渡さない僕に痺れを切らしたのか、自分で奪い取る。封を破り、軽く中身を一瞥し、マルフォイは時計を見た。



「あと三時間で役人が迎えに来る」



 僕は、動けなかった。



 僕は、何も出来ない。君に何かしたい。


「世話になった」

「………うん」


 僕の聞きたいのはそんな言葉じゃない。そんな他人行儀の覚めた声じゃない。
 死にたくないって、僕にすがり付いてくれない? そうしたら、僕は誰を殺してでも君を幸せにするから。



「マルフォイ……僕は……」



「ポッター。ありがとう」


 僕の言葉を遮るように。

 マルフォイが、僕に言った、初めての「ありがとう」だった。それでも、マルフォイの顔は、いつものように冷めていた。





「帰って来てくるよね」


 マルフォイが、服に袖を通していた。





「………」


 少しだけ……マルフォイは微笑を浮かべた。

















 マルフォイが、出ていった後、僕は待っている。

 僕は、何もできなかった。
 僕は幸せになりたかった。本当にそれだけなんだ。君を幸せにできれば、僕は幸せになると思っていた。君を幸せにしたかった。君は少しでも、この一年間……少しでも……。




 帰って来るよね?


 いつも君は「おかえり」って言ってくれなかったけど。僕は言ってあげるから。






















 時計の針がカチカチとうるさい。

































→@
081218
予定通りに7話で終わった。
けど、ちょっと、あまりにも終わり方ひどいから、あと2話続きを、今度アプします。
本当にこんなひどい話でゴメンナサイ。
「幸せになりたかっただけなんだ」って、だって、現状どうしようもなく不幸そうじゃん!