7 朝、梟が窓を叩く音で目が覚めた。 カーテンの隙間から漏れる光は、あまり強くない。まだ早い時間のようだ。 昨日は遅くまで抱き合っていた。もう彼の身体を手放すと思うと放せなかった。少しでも一緒にいたい。心を手に入れることはできなかった。せめて身体だけでも君は僕のものなんだ。一年間の限られた時間だけでも手に入れた。僕だって、幸せになりたかったんだよ。君が居れば幸せが手に入ると思ってた。一年間だけでも、幸せを手に入れる事が出来ると思っていたんだ。 苦しかった。 幸せなんかじゃなかった。君は僕を見ない。君は僕を好きじゃない、僕はこんなに君を好きなのに。 苦しかった。 それでも一秒でも長く君と居たい。 腕の中で眠るマルフォイを起こさないように、僕はそっと抜け出す。少しでも、離れがたい。 梟が持ってきた手紙は、宛名はマルフォイ。差出は魔法省。 今日が……その一年目だ。 魔法省からの呼び出しの手紙であることは、すぐに理解した。 破り捨てて、しまおうか……。 この手紙を破り捨てて、マルフォイを連れて逃げようか。追われたら、魔法省を敵にしてでも、逃げて、どこまでも逃げて。 マルフォイが嫌がっても、それでも放してやらない。どこまでも逃げて、そうすれば、一緒にいる時間が少しでも伸びるはずなんだ。 考えた事は、何度かあった。何度も考えた。 二人きりで世界を敵にして、世界の庇護がなくても僕は君が居れば生きていける。 恋で人は死ねると思わないか? 僕は、君が在るから生きていたい。死んだら、一緒に居ることができるって保証なんかは無いんだ。死語の世界はあったと、教えてくれた人はまだ誰も居ないんだ。僕は君と離れたくない。 マルフォイの判決の日……すなわち、僕の決断の日だ。 このまま………逃げようか? このまま僕と一緒に逃げよう。僕の決意は固まった。君と逃げよう。 手紙を破り捨てようと…… 「それは、僕宛の手紙だろう?」 マルフォイがベッドの上で、身体を起こして僕に視線を向けていた。 手を僕に向かって差し出した。差し出した手首にはまだ先日の痕が痛々しげに乗る。君の身体は全部白いのに。 朝陽に白い素肌が光るようだ。 「捨てちゃおうよ」 捨てちゃおうよ。要らないでしょ? 僕と君とを引き裂く要因だよ。 君は僕の隣に居たくないかもしれないけど、僕は君の側じゃないと嫌なんだ。 そう、伝えてもいい? 「そうもいかないだろう?」 「なんとかなるよ」 「やめておいた方が懸命だ」 限界なんだよ。やっぱり君を好きだと伝えたい。 圧し殺した気持ちは、破裂寸前だ。 もし、僕が君に想いを告げて、僕も恋の為に死ぬことが出来ると伝えたら? 君はどんな顔をする? 「逃げない?」 一緒に居ようよ。離れちゃ駄目なんだ、僕達は。君だって…… 「……今更だな、ポッター」 マルフォイは手紙を渡さない僕に痺れを切らしたのか、自分で奪い取る。封を破り、軽く中身を一瞥し、マルフォイは時計を見た。 「あと三時間で役人が迎えに来る」 僕は、動けなかった。 僕は、何も出来ない。君に何かしたい。 「世話になった」 「………うん」 僕の聞きたいのはそんな言葉じゃない。そんな他人行儀の覚めた声じゃない。 死にたくないって、僕にすがり付いてくれない? そうしたら、僕は誰を殺してでも君を幸せにするから。 「マルフォイ……僕は……」 「ポッター。ありがとう」 僕の言葉を遮るように。 マルフォイが、僕に言った、初めての「ありがとう」だった。それでも、マルフォイの顔は、いつものように冷めていた。 「帰って来てくるよね」 マルフォイが、服に袖を通していた。 「………」 少しだけ……マルフォイは微笑を浮かべた。 マルフォイが、出ていった後、僕は待っている。 僕は、何もできなかった。 僕は幸せになりたかった。本当にそれだけなんだ。君を幸せにできれば、僕は幸せになると思っていた。君を幸せにしたかった。君は少しでも、この一年間……少しでも……。 帰って来るよね? いつも君は「おかえり」って言ってくれなかったけど。僕は言ってあげるから。 時計の針がカチカチとうるさい。 了 →@ 081218 予定通りに7話で終わった。 けど、ちょっと、あまりにも終わり方ひどいから、あと2話続きを、今度アプします。 本当にこんなひどい話でゴメンナサイ。 「幸せになりたかっただけなんだ」って、だって、現状どうしようもなく不幸そうじゃん! |