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 それでも、君は、そんなに、僕と一緒に居たくない?








「ここに居たくない」

 マルフォイが天井を見つめながら、ぼそりと言った。ほとんど聞き取れないくらいに小さな声だけど、殴られたような衝撃を受けた。

「だったら、どこに行くの?」

 どこにも行くところなんか、君には無いんだよ。君は本当は死んでいたかもしれないんだ。僕が助けてあげたんだ。だから、僕の所に居ればいいじゃない?
 僕の所じゃない場所は、君には一つしか無いんだよ。


「……どこにも居たくない」

 マルフォイが何に、絶望してるかなんか、わからなかった。ただ、死を見たいと願ったことだけ、僕にはわかった。

「死にたいの? その予行演習でもしたつもり?」

 マルフォイは、僕を見ずに……瞳に涙を溜めた。


 学生の時に、一度だけ見た。同情を集めるための泣き真似はあったけど……それ以外では、僕に見せた二度目の、涙を……。


 僕は……見ていた。
 指で、拭ってやることすらできず。


 マルフォイの頭が、僕に向いた。

 視線が会うのは何日ぶりだろう。ベッドの上で熱を交わすことがあっても、僕たちが視線を交わらせる事なんて、ほとんど無かった。 抱き合っても、彼を抱いたとしても、僕の顔を確認しても、視線を合わす事はなかった。




「苦しいんだよ、ポッター…」


 涙が、零れて、枕に吸い込まれるのを僕は、見ていた。






「僕を、解放してくれないか?」


 懇願、だった。




「ごめんね」

 ごめんね。本当なら、君の願いは何だって叶えてあげたいんだよ。君が僕に願うことは、僕は出来る限り叶えてあげる。


 でも、それは出来ないよ。



「それがお前の僕に対する仕返しか?」

 自嘲気味にマルフォイは、力なく言う。

 仕返し、なんかじゃない。僕の唯一で絶対の願いなんだよ。


 君と、一緒にいたい。


「……そうだよ」


 君が望む僕は、偽善で出来ている。マルフォイが見ている僕は、君を好きじゃない。君が望む僕でいいよ。



 君を嫌いだから、君が苦しむ事を、出来る限りの苦痛を味わえば良いんだ。君の命を助けるふりをしながら、僕は君が苦しむのを見て、楽しんでいるんだ。君の命を助けるのも、一番の理由は、自分の虚栄心を満たすことだ。僕はこの世界の英雄らしいよ。君がこのまま何も喋らずに死ぬのも、君が君の知っている情報を魔法省に伝えて助かるのも、本当はどっちだっていいんだ。



 君が望む答えは、きっとそうだ。だけど……今は言わなくて、いい?
 今は言いたくないんだ。君が苦しむのをみて、楽しむ演技なんて、今はしたくないんだ。

「もう、僕は十分苦しんだ。そう思わないか?」

 苦しんでいることなんか、知っているよ。
 君が……君の知っていることを話せば、君は直ぐにでも解放されるのに。


 本当に、何も知らないの?


「まだまだだよ」


 君を殺してなんてあげない。ぎりぎりまで、僕が助けてあげる。死には、君を渡したくない。


 苦しんでても、僕のそばに居ればいいんだ。

 君が僕のそばにいる、それだけで良いんだ。


 ねえ、君は何がそんなに苦しいの?



 僕の唯一絶対の秘密を告白したら、君も話してくれる?

 僕が、本当は君が好きで、君が愛しくて、君を失いたくなくて、だから君が苦しんでいるのは、ただの僕のエゴなんだ。
 その真実を告白したら、君は………。



 僕の気持ちを知らせたくはない。それだけは、僕の唯一のプライドなんだ。













081207