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 新学期が始まった。








 あの後僕はマルフォイに手紙を書いた。手紙を書いて破り捨てた。


 ……送らなかった。

 だって何を言えばいいのかわからなかったんだ。
 書いても書いても、僕が何を言いたいのかなんてきっと伝わらないと思ったし、僕自身も実際マルフォイに何が言いたいのかちっともわからなかった。
 僕はマルフォイに手紙を書いた。





 僕は休暇をマグルで過ごす間に考えた、色々なことを。
 早くホグワーツに帰りたかった。




 ホグワーツに帰れば会えるんだ。

 マルフォイに会えたら、僕が書きたかった手紙の内容がわかる気がした。早く、新学期になればいいって思った。



 会いたいって……。
 なんでそんな風に僕は思うんだろうか。

 僕のことを好きだと言って、抱き締めてくれたんだ。
 抱き締めてくれて、そしてキスをくれた。





 僕は。


 会いたいって思ったけど、会って何を話したらいいのかわからなかったし。
 でも、あんな風に彼と二人でも楽しいって感じることが出来た。一緒にいて時間があっという間にすぎてしまった。だから。
 今までみたいじゃなくて、顔を合わせたら普通に話をして、笑って、そういうことが出来るんだと僕は思って期待していた。

 キスをくれた事は……思い出すだけでも顔が赤くなってしまいそうだけれど。






 新学期が始まってロンとハーマイオニーに会って、僕達は再会に喜び抱き合った。久しぶりに会う親友達は、今までどおり僕の親友で、夏の間に日焼けをした顔とかが僕の知らない時間で、それを聞く楽しみが増えて嬉しかった。
 抱き合って、僕達は再会を喜んだけど。


 不思議とマルフォイに抱きつかれた時の高揚感はなかった……。
 何だったんだろう。
 また、マルフォイに会えばわかるだろうか。



 不思議な気分だ。
 ずっと、本当に嫌いだったのに。

 今は、そんなに嫌いじゃないし。
 嫌いじゃないけど。だって、好きだなんて……そんなのマルフォイがおかしいんだ。そんなはず無いじゃないか。
 僕を嫌いって言うなら、理解できる。僕はマルフォイの嫌味に対して、僕の出来る最高の嫌な態度で返していたと思うから。あれで僕を好きだなんてやっぱり変だよ。
 僕がよっぽど頭がいいとか、魔法を上手に使えるとか、顔が綺麗だとか、人望に厚いとか、面白いことを言えるとか……。別に何にも無いのに。僕にあるのはただカワイソウな生い立ちとか、額の傷とか、世界に押し付けられた使命とか、眼鏡とか、梳かしてもなかなか思うようにならない頑固な髪の毛とか、ロクでもないものばっかりだ。
 唯一マルフォイよりも僕が自信を持っていることは箒の扱いぐらいだけど。
 それでもマルフォイだってホグワーツ内で僕の次ぐらいに上手いし、早いし。

 別にマルフォイが僕を好きな理由なんて、何もないのに。
 

 だから、僕がマルフォイのことを嫌いなのは、僕はとてもよく理解できている。
 僕が持っていなくて、僕が欲しいものをマルフォイは全部持っているから。


 変だよ。








「あ、マルフォイだ」



 ロンの声に僕は心臓が飛び跳ねて、口から出るかと思った。
 あまりのも驚くと声も出ない。

 慌ててロンとハーマイオニーを見たけれど、僕の心臓の音に気付いてはいないようだったから、僕も二人に倣って顔を上げると、いつものように取り澄ました顔で、身長はそれほど高くないのに背筋をピンと伸ばし、ローブを靡かせながら大股で歩いていた。

 相変わらず。そんなところすらマルフォイらしい。歩き方でもマルフォイらしさを出している。


「マルフォイ! 久しぶり!」

 ロンが手を振ったことに気付くと、マルフォイはさらりとした笑顔を作って僕達に近付いてきた。




 あの日以来、だ。
 確かに僕とマルフォイも久しぶりだったけど、僕はロンよりも久しぶりじゃないんだ。



 ……僕がマルフォイとマグルで遊んだことは誰にも言っていない。
 なんだか恥ずかしい気がしたから。そのうえ、楽しかったなんてもっと言えないから。



 だから、秘密にしてたんだ。そのことをマルフォイが話されると、困るんだ。困るってほどでもないけど、秘密にしていたことが後ろめたいから……あの時の話題にはならないようにしたかったのだけれど……。
 だって、もしその話になったらロンにもハーマイオニーにも何か勘違いされちゃいそうだったし。




「やあ、ウィーズリー、グレンジャー、久しぶりだな」
「久しぶりね」
「休暇はどうだった」
「まあ、いつも通りだな」


 ………なんだ。

 普通の友人と変わらないじゃないか。
 別に何と言う事もないし。あっさりとしていて、再会を喜んでいるし。

 僕が危惧していた、僕達についての話は持ち出そうともしないし。
 ロンが夏休みの間に行った旅行のこととか、その時にあったハプニングとか、ハーマイオニーがマグルでたくさん買い物を……主に本……したこととか、二人は嬉しそうにマルフォイに報告していた。マルフォイもそれをとても楽しそうに聞いていた。
 けっこう、夏休み前と同じ光景。

 ただ……




「悪いが、ちょっと用があるから失礼する」
「ああ、うん。じゃあまたね」



 その間にマルフォイがその整った笑顔を消したわけではないのだけれど……。
 時間はそんなに長いことではなかったし。別に今までだって僕達以外にもマルフォイには友達だっていたんだし、僕達とばっか一緒にいるわけじゃなかったけど。

 それでも、今のは何か不自然だったような気がした。







「ねえハリー、マルフォイと何かあったの?」




 ハーマイオニーは鋭いから、やはり気付いたようだった。ロンは彼女の台詞が何のことだかわからないようで、不思議そうに首を傾げていたけれど。






「さあ。休みの間に心を入れ替えたんじゃない?」


 僕はなるべく平静を装って、いつも通りにマルフォイが嫌いだって言う態度でそんなことを言った。






 マルフォイは、僕と一言も喋らなかった。






 そればかりか、僕と視線を合わせようともしなかった。






 ………なんで?
















080201
うわー、また20超えちゃったよ…。大して内容無いのに。