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 僕達はあの後、何をするでもなくふらふらと街を歩いた。僕が初めてあっちに行った時と同じように、マルフォイも見るもの全てが不思議に写るみたいで、僕が何も不思議に思わないようなものに対していちいち質問をしてきて、それが逆に僕を驚かせた。
 ファーストフードを見つけて適当に注文をして、ハンバーガーを歩きながら食べた。
 僕もここで小遣いなんか与えられたことなんかないからこんな風に友達と歩きながら食べることなんかなかったけど……。
 こんな風に他愛のないことを話しながら……こんな風にマグルを歩いたことなんて一度もなかったから。


 僕も笑ってるし、マルフォイは、慣れないことをしているから、中味を落として驚いた顔をしていたり……こんなジャンクフードなんか食べたことなんかないんだろうな。おろるおそる口をつけていたけど、でも美味しいって言ってくれた。

 絶対にこいつなんかと一緒にいたってつまらないって思ってたのに……。



 マルフォイが、本当に楽しそうだから……。


 僕もつられただけなんだ。

 きっとただそれだけで。





 くだらない物や本や、今後絶対に使えそうもない物や、どう見ても必要のないものや、僕もそれが何だかわからないような物を見て、いちいち僕に説明を求めてくるのが面白い。しかも買ったりするんだ……そんなもの。

 なんで、今日に限って時計は早く動くんだろう……。時間って一定のリズムを刻んでいるはずじゃなかったのかな? 僕の腕時計だけおかしいのか、長針がぐるぐる回っている。






「そうだ、この服のお礼にポッター、服を買いに行かないか?」

 ちょっと前を歩いていたマルフォイが、突然振り返って僕を見た。
 マルフォイは全部が珍しく、初めて見るものばかりだったからずんずんと先を歩いて行って、僕はそれについて行く。別に僕がどこかに行きたいわけじゃなかったから、それでいいんだけど。
 先に歩いていて、僕がいなくなったらとか、そういう心配してないのかな?
 僕だって急に走り出したりするマルフォイを追いかけるのに、けっこう慌てたりしてるんだけど……。

 僕が疲れた顔をしていても、マルフォイは気がつきもしないでにこにこしててさ。それでもすごく楽しそうに笑うから、僕だってついつられて笑顔を作ってしまうし。

「別にお礼なんかいいよ。それに君の服を買えばいいじゃん。そうすれば僕の服も返してもらえるし………」
 お礼とか言われたって。マルフォイに似合わない言葉に僕はロクな返事を返せない。こういう場合は素直にせっかくだから色々買ってもらった方が後々僕はとてもお得だったりするんだけど。別にマルフォイに何かを買ってもらいたいわけじゃないし。

「………だから、お前の服を買おうって言ったんだ」
 ちょっと、不機嫌そうに。僕の言葉にとても不服そうだった。

「何それ?」
 僕がマルフォイの言いたいことを取り違えて理解していたって事だ、こういう時は。何でか、僕はマルフォイのあら探しの為の観察のせいか、マルフォイが何を考えているのかとか手に取るようにわかってしまう成果が出た。

「この服………もらってもいいか?」

「はあ? いいけど、悪いけど君に似合わないよ? ぶかぶかだし」

 身長は大して変わらないのに、僕の方がちょっと高いけど、でも大して変わらないのに、袖から出る腕とか、首とか。別に僕だってろくな栄養を与えられずに育ったから痩せている方なんだけど。
 マルフォイはいつもぴたりと身体のラインに合った服ばかりを着ているから、ひどく違和感。ぶかぶかの服を着ていると、中身が入ってないように見えて、余計にマルフォイが小さく見えた。

「サイズはいつか追い越す予定だ」

 そう言って、少し頬を膨らませたりして……。





「この服、学校でもポッターがよく着てたし……なにか、今日の思い出、欲しかったから……」


「……………………」


 マルフォイは僕から言葉を奪うのがどれだけ得意なんだろう……。

 僕は、ああ、とかうんとかあいまいな返事を返したと思う。



 僕は、言葉をなくしたまま、マルフォイの手を引いて、道を歩いた。知らないうちに僕はマルフォイの手を繋いでいた。歩く時に、僕は自然とマルフォイの手を繋ぐことができた。って言っても、一瞬なんだけど。
 話をする時に、肩を叩いたり、そんなことだけなんだけど。


 なんか、ドキドキして、でもすごく自然だった。何で、僕達は仲が良くなかったのかなんて、そんな事、今だけはどうでもいいことだった。









 お店では、マルフォイは色々な服を僕に合わせ、ああでもないこうでもないと言っていたがなんだか大量な服を抱えて会計に行こうとするので、慌てて止めた。
 服なんか別に拘りなんかないんだから、困ってないんだし。ワンセットだけ買ってもらったけど……一番安めの奴を。
 
「だってポッターにも僕の思い出を持っていてもらいたかったし……」
 とか、言いながら、何で悲しそうな顔をするのかわからなかったけど。
「………いや、だからってこんなにいらないから」
「いっぱいあった方が思い出してもらえるだろ?」
「いや、そういう問題でもないから」
 なんだかなあ……。


 妥協してお揃いのキーホルダーを買ったけど。

 なんか、調子狂う。
 つまらないと思っていたから。今日が、絶対につまらない一日だと思っていたから。
 きっと、一緒にいたって楽しくないと思ったから。

 お坊ちゃんだし、住んでる世界も育って着た環境も何もかもの価値観が違うから。
 相容れないと思っていたから。だから僕は、きっと好きにはならなかった。なれないと思っていた。たとえ友人としてでも、まず僕達はお互いを受け入れることなんかできないと言う信念に固執していた。


 マルフォイだって同じ歳の子供なんだし……。
 遊べば楽しいし。
 意外。


 僕は意外にも楽しいと感じていた。




 だってこいつはマルフォイなんだぞ。
 笑顔に騙されるものか。

 て、思ってたんだけど、時間はどんどん経つし……早く今日が終われば良いなんてその時は考えられなくて、一秒がもっと長かったら良いのにって……そんなこと……。







「陽が暮れちゃうよ」

 夕方に帰るって聞いたから。

 夕日に照らされた世界が赤い。












080128
なかなか更新できなくってごめんなさいでした。