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僕が今見ているのは不機嫌を顔中で表現しているマルフォイの顔。
「……何の嫌がらせだ?」
何で?
今日来るんだったの?
って教えてくれなかったじゃん!
「マルフォイっ! なんだよ、いきなり」
「うるさい、いつでも大丈夫だと言ったのはそっちだろっ!」
「そうだけどいつ来るかとか教えてくれてもいいじゃん」
「今日しか抜け出せそうな日がなかったんだ。朝手紙を出したからそろそろ着いている頃だ」
「遅いよ!」
「ああ、すまないな」
「じゃなくて、どうするんだよ、いきなり来られたって、僕はやらなきゃならない事があるんだよ」
何でいきなり来たりするんだ! 僕だって色々……何もないけどさ! いつ来たって同じだけどさ。でも心の準備があるじゃないか。
ああそれに……マルフォイに水をかけちゃったことを謝りそこねちゃったじゃないか。
さすがにずぶ濡れにさせたことは僕が悪い。
「何をするんだ?」
「あと庭の木の剪定」
「魔法を使えばすぐじゃないか」
「使えないから面倒なんだよ」
「………使えないとなると時間がかかるな」
「だから早く予定を言ってくれればどうにかできたかもしれないのに」
どうにもできない可能性の方が高いけど。でももうちょっと手際よくできるし。やりたくないからやらなかったけど。
「それにしても……」
「何だ?」
「なんて格好で来るんだよ」
「マグルはこういう服を着るんじゃないのか?」
「普通は着ないよ」
マルフォイは、なんていうか……白のブラウスにベージュのコットンニットのベストにグレンチェックの七分丈スラックス………着ないわけじゃないけど、僕の従兄弟がお出かけの時に同じような服を着ていたが……従兄弟は三流芸人みたいだが、マルフォイはいかにもお坊ちゃんと言った感じに仕上がっている。
まあ、真実お坊ちゃんなんだが。
確かにこの辺りはヒエラルキーの中で上の下あたりの階層のマグル達が軒を連ねているから、時々従兄弟殿のように勘違いしたような僕のお坊ちゃんが歩いていることもあるけど。
一見で格の違いが分る。
マルフォイは完璧なお坊ちゃんなんだ。ここでも異質だ。
「似合わないか?」
「似合う似合わないの問題じゃないよ」
似合うから問題なんじゃないか!
「ラフにしたつもりだったんだが」
「ラフっていうのは僕みたいにジーパンとTシャツとか」
「わかった。次はそうする」
マルフォイがジーパンにTシャツ………似合わない気もするけど………ホグワーツにいる時も私服をあまり見ないけど、いつでもお坊ちゃん風の服を着ていたようだった。あんな服を着ていたってくつろげないだろうに。それとも人間てのは慣れる動物だとかいうから、いつもみたいにかっちりした服を着ていたってマルフォイはくつろげるのかもしれない。きっとパジャマにもネクタイがついているに違いない。
てか、次ってなんだよ! 今だっていつ叔父さんが出て来るか気が気じゃないのに、こんなに心臓に悪いこと二回目なんかお断りだ。
「ハリー! 終わったのか!」
ああ、こんな時に……。
豚が小豚を連れて出てきやがった。
不穏な気配がして振り向くと、僕の保護者。
僕は嫌な音を立てて動く心臓を押さえたくなって来た。きっと僕の背中に流れる汗は嫌な色をしているに違いない。
マルフォイをちらりと見れば……。
あいつか? と目で合図をして来たから、僕は頷いた。
叔父さんは知らないだろうけど、おじさんの知らないところで叔父さんはとても有名なんだ。
「ああ、びしょ濡れだ………」
「………?」
いきなり、ドラコが……? なに?
「貴方が彼の保護者ですか? 歩いていたら彼に突然水をかけられたんです! どうしててくれるんですか?」
「なんのことだか……」
急に道にいた知らない如何にもお坊ちゃん然とした白い子供に嘆きを入れられたらそりゃあ面食らうに違いない。おじさんの反応は、予想通りをはるかに凌駕して的中。鳩が豆鉄砲食らったような顔じゃなくて、豚が……。
「僕は伯父の家に遊びに来ただけなのに……。この洋服お気に入りだったのに……。僕は身体が弱いから風邪をひいてしまうかもしれない……伯父は僕を大変気に入って下さっているから慰謝料を請求しに来るかもしれない………」
玄関先で明らかに身なりの良い完璧なお坊ちゃんがずぶ濡れのまま、今にも泣きそうな顔をしてそんなことを言い出されれば、誰だって面食らうに違いない。
着ているものだって弁償しろと言われたら、かなりの痛手だし……クリーニング代だとしても高そうだ。
それにしても、僕は知っているけど……ドラコは演技力もあったんだ。本当に悲しんでいるような身なりのいいお坊ちゃんだ。
悲しんでいるんじゃなくて、怒っているんだろうけど。
「貴方が保護者であるのならば一緒に謝りに来るべきでしょう?」
ドラコは有無を言わせぬ圧力で、叔父さんにそう言い放った。
どうすんのさ。
071211
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