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『いつでも大丈夫。君の都合のいい日で』
僕はクソジジイに言いつかった仕事……庭の水撒きと庭木の剪定……をするために庭で暑さに負けながら、一昨日送った手紙の内容を反芻する。
結局十枚書き直して、それだけの文章になった。
お元気ですか? から始まり、かしこ、で終わるのも変だし、実際僕を連れ出せるのであればいつだって構わないわけだし、日にちだけ書いて送ろうかとも思ったけど別にどの日だって変わりないし、待ってると言われてしまったのだから、さすがに味気無いかと思ったり……。マルフォイへの手紙は魔法薬学のレポートよりも気を使う作業だった。こんなに頭を使ったのは久しぶりかもしれない。
僕は炎天下の下、庭に水をまきながら考える。
あれから三日経つがヘドウィックは手紙を送ってすぐに戻って来た。
ヘドウィックの足には簡単なメモが結わかれていて、それには『了解』とだけ書かれていた。少し右上がりの整った字体だけれど、走り書きであるのはわかった。
僕が送ったものよりもはるかに味気がない。
こんなんだったら僕も日にちだけ書いて送れば良かったかもしれない。
それに了解だけじゃいつ来るのかもわからないじゃないか。叔父さんにもそれとなく言わなくてはならないだろうし。
庭に水を撒いたら、次は庭木の剪定だ……。宿題もあるのに、そんな暇なんかないじゃないか。毎日毎日毎日!
本当にどうする気なんだ、あいつは。来るなら何を着ていくか考えないと……まあどれを着てもどうせ趣味の悪いお下がりぐらいしかないのだけど。
別にマルフォイに会うぐらいで服装に気を使う必要などないかと思い直したり。
それに一体いつ来る気だよ。了解って、わかったってことだけで、別にいつがいいとかマルフォイからの手紙には書いていなかったのだから、いつ来るんだろう。来るなら来るで、こっちだって準備が……あるわけもないけど。
それにしても暑い。
こんな陽気に外にいたら日射病で僕でも倒れるぞ。マルフォイとかなら一時間が限度なんじゃないだろうか。
マルフォイは色が白いから見た目がひ弱そうで、実際時々風邪で寝込んだりしているようだから、こんなに暑い日に外にいたら次の日に体調を崩すんじゃないだろうか。
いいよ、だから来なくていいよ。来ない方がいいよ、君はこんな暑い夏には避暑地の別荘に行けばいいんだ。
水撒きは気持ち良いけれど、これから庭木を切るのは重労働だ。
ずっと水を撒いていたい。冷たくて気持ちがいいし。
ホースの先を指先で絞り、水圧を調整する。
木の幹に当たって跳ね返った水が霧状になって虹を作った。
涼しい。みているだけで涼しい。夕方までこんなことやってたらきっと怒られるんだろうなあ。
ああ、もう、本当来なくていいよ。
こんな所見られたくないし。
来るならいつ来るんだよ。
もう。
暑い。
「ポッター!」
「………」
始めは幻聴かと思った。
あまりに暑いから。
「ポッター! 僕だ」
「………」
暑さのあまり変な幻聴が聞こえて来たんだ。僕がマルフォイのことを考えていたから。
「ポッター! おい」
三度も聞こえるだなんて……さすがに幻聴………ではない!
僕は慌てて振り返った。
……持っていたホースも一緒に。
「あ……」
「…………」
振り返った先には、ホースから勢いよく吹き出す水がマルフォイの全身にかかり、顔に張り付いた髪をかきあげる不機嫌そうな顔が目に入った。
071206
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