09 え……? 来る気あるの? 本当に? だって、マルフォイだよ、君は、あの! マグルだよ? 僕の考え付いた最高のお断りの言葉だってどうやったら理解してくれるんだろうか。 それに来たってどうしようもないのに。僕には大きな問題があるんだ。 「ただ、僕が家から出る為には大きな障害があってさ」 「……何だ?」 僕の魔法界での立ち位置は不幸な生い立ちを持った英雄だけれど、僕のマグルでの立ち位置は不幸な生い立ち真っ只中なんだ。障害と呼ぶよりもむしろ、がんじがらめの柵だ。 「君が叔父さんを説得できるんなら、ってことになるけどね」 あのクソジジイの魔の手から僕を開放してくれるのであれば君が天使に見えるかもしれないね。 まあ、どうせ無理だろうけどさ。あのクソジジイが僕の都合のいいように動くはずがない。 来たってどうしようも無いよ。諦めなよ、諦めて下さいお願いします。僕には輝かしい未来が用意されているはずなのに、こんな所でこんな奴に引っ掛かっている場合じゃないんだ! 「確かお前の叔父は魔法使いが嫌いだったな……」 「ああ、うん。よく知ってるね」 「有名だろ」 嬉しくも無い情報を握られるのは有名税として支払わなければならないプライバシーの侵害という名の代価である事ぐらい理解しているが、やはり嬉しくもない。 いちいち説明するのも嫌だけど、だからと言って知られているのも気分が悪い。こっちはそとちのこと何にも知らないのにさ。 知りたくも無いけどね! 「作戦を立てておく」 そう言ってドラコはにこりと笑う。 つられてしまいそうになった。自分はしっかり持とう。 はじめっからこの顔で笑っていてくれれば僕だって君を今ほど嫌いにならなかったかもしれない。 「作戦立てたってきっと無理だよ。君は叔父さんを知らないからそんなに簡単な事が言えるんだ」 あのクソジジイは頭ごなしに人の意見なんかきくはずがない。きいてくれるはずがない。正しい正しくない、正義か悪かそんな適当なことは自分に対してのメリットが絡んでいる時にのみ判断される主観的な概念でしかない。 「僕だって家を抜け出さなくてはならないから色々と面倒なんだ」 「だったら別にいいよ、無理しなくて」 「そうじゃなくて、ドキドキしないか? 悪戯を考えている時みたいだ」 ああ………その顔は反則だと思う。 可愛いって……本当にマルフォイになんか使いたくないんだ。 にこりと微笑んで、まるで背景に満開の花束をぶちまけたような幻覚が見えるようなんだ……。 「じゃあ、休みに入って君が都合がつく日を手紙で送ってくれればいい。できれば一週間前だとありがたい」 「一週間前にわからなかったら?」 「……まあどうせ今から僕の予定は決まっているのだからどこで抜け出したって怒られるさ」 ……今からって。まだ夏休みには一か月以上もあるのに……。 「予定って?」 「ああ、どこかの家と会食とか、どこかの家でパーティーとか、休み中の家庭教師が来る日程とか、そんなのだ」 「いいよ、来なくて」 怒られると言うなら本当に怒られるのだろう。僕が育った環境であったあの馬鹿息子を中心に動いている一家とは少し違うようだ。まあ、あそこの家とマルフォイの家では格が違うようだけれど。 ぼくはあまり詳しくこの世界のシステムを知らないけれど、僕の血縁者の家はマグルで言うと中の上どまり。まあ、適当に裕福な家庭ではあるみたいだけど。だけどマルフォイは、上の上のレベルであることは、薄々わかっている。別に家柄と人格は比例しないって事を僕は知ってるからね。 「行きたいんだ。僕が無理に誘っているのだから、お前に合わせるのが道理だろう?」 なんで変な所で道徳を知っているんだよ。今まで君のその我が儘が正義で一度もそんなもの使ったことないじゃないか。常識とか譲歩とかそういう言葉を知っていたとは意外だな。 「楽しみだなっ!」 ………そんな顔で笑わないでくれよ、本当。 「……じゃあ………予定わかったら、手紙送る」 面倒臭いけど、流されて強引にとはいえ約束してしまったのだから仕方がない。僕から提案したことだし。断ってくれることを前提としたものではあったけれど。 僕の予定は今からほとんどわかっている、ほとんど決定されている。全部小間使だ、どうせ。 大きく溜息をついたら、マルフォイはニコニコと笑顔を崩さずに。 「何? どうしたの?」 僕はひたすら胃の重さに耐えているというのに……。 「いや、ポッターから手紙もらえると思ったら、なんだか嬉しくて……」 「……………」 手紙って………言っても別にそんな大それたものを送るつもりなんかは何にも無いんだけど………。 「手紙、待ってるな」 「………ああ、うん」 日にちだけ書いて送るわけにはいかなくなった。なにか文面を考えた方がいいんだろうか……。 071201 → |