08 「ポッター、今度デートしよう!」 「はあ?」 僕は、本当に間の抜けた声を出してしまった。間の抜けたと言うか、一瞬にして溜まった胃の中のモヤを吐き出す時に出る音なのかもしれない。急激なストレスは胃に来る。 最近のマルフォイには驚かされてばかりだ。驚かされると言うか、寿命を縮められると言うか……。 今日も何を言い出すのかと思えば……。 今日は中庭を歩いていたら捕まった。別に大した目的があったわけでもないけれど、休み時間だったし。今日はとても天気がよかったし……歩いていたら、ニコニコとしたマルフォイが僕の肩を叩いた。 あー、もう! また、僕の後をなんだか別に大した用もないのに、ぐちゃぐちゃと話しながらついてくるんだろう? 僕は、その時間をせめて少しでも短縮したくて出来る限り早足で歩く。小走りにでもなってくれれば気分もいいかもしれないけど……足の長さが原因か? ついてきてるよ……。だから僕は歩調を限界まで速めて歩くがマルフォイもそれについて来る。 僕はさっさと目的地に着いてさようならをしたいんだ。 デートってデートのことだよな? 恋人同士の男女が日にちと時間を指定して会うことを約束して映画を見たり買い物をしたりご飯を食べたりするアレだよな。 何で僕がマルフォイとそんなとこ、する必要がある? 僕は、歩きながらなんて言い返していいのかわからずに、それでもやっぱり早足で歩く。 「きっと楽しいと思うんだ」 ……僕がじゃなくて君がね。 「へえ……」 「何時がいい?」 「いつって………」 「今度ホグズミートに行くだろう? 暇か?」 「………」 暇かって? いや、そんなに忙しくもないけどさ。 暇っていうか遊びに行くんだけど……せっかく遊びに行くのに何でマルフォイと一緒に行かなきゃならないんだ。誘ってみたい女の子がいたけど、最近マルフォイがこんな調子だから女の子がちっとも僕に寄り付かない。どうしてくれるんだよ。とかマルフォイのせいにしてみるけど。マルフォイのせいかも知れないけど、僕のせいだろうけど。だからこそマルフォイのせいにしたいって気持ちをわかってくれないかなあ。 「今度の休みはちょっと。グリフィンドールのみんなと約束をしてるんだ」 ああ、これからグリフィンドールのみんなに約束を取り付けなくてはならない。せっかく誘ってみたい子がいたのに……。 ハーマイオニーやロンだったらもうマルフォイが一緒にいることに慣れて来たから約束してても、マルフォイは一緒に行くだろうし……まだグリフィンドールの半数……あっという間に半数もよく味方につけたもんだ、賄賂でも送ったんじゃないだろうか……には嫌われてるから、そう言っておけば一緒に行動することはないだろう。 でも、嘘がばれたら気まずいから、やっぱり約束を取り付けなくてはならない。 あー、面倒だ。 「そうか、残念だ」 「うん、ごめん」 心にもない謝罪の言葉を言ってみる。だってせっかくの楽しい機会を君と歩いたって楽しそうじゃないからね。 見たいものが違いそうだ。特に金銭的な価値観とかそういうものが圧倒的に違いそうだ。マルフォイがカエルチョコを追いかけている姿なんかは想像できない。 「それなら何時がいい?」 「何時って………」 えっと……もしかして デートすることは決定なんだ……。 いつって言われたって……。 「何でそんなとこしたいの?」 「何でって?」 「こうやって二人で会ったりしてるし、ここにいる時と外で会うのと何が違うの?」 おんなじだよ、きっと。 僕は君がマルフォイって理由で好きになれないし、一緒にいて楽しいとか感じられないし、どこにいたって変わらないんだきっと。こうやって離しているのとどう違うんだろう。 それにできれば僕とこいつを知っている奴の目がある方が落ち着く気がする。だって、前みたいにキスしたいとか言わないだろう? 僕は男なんだし、そんなこと言われたって困るよ。もしマルフォイが可愛い女の子だったら大歓迎だったかもしれないけどさ。 ……いや、たぶん無理。 男って性別以前に僕はマルフォイを受け入れられるキャパシティを持ってない。今までのあれやこれやでね。 マルフォイはしばらく黙って上を向いたり下を向いたりしていた。何かを考えていたんだろうけど、結論なんか出さなくていいよ。だって、僕は君の事好きじゃないし、君は何かの錯覚か、僕に対する新しい嫌味か何かなんだろう? だったら答えなんて結局ないよ。 「楽しい時間を二人きりで共有したいから、かな」 マルフォイはしばらく真剣に悩んだ後で、真面目な表情でそんなとこを言ってきやがった。 こいつには照れとか恥とかないんだろうか……。 ……好きな女の子に今度このセリフを使ってみようと心の中ノートにメモをした。 「そうかー、残念だなあ、君と一緒に遊びに行けなくて」 僕はわざと大袈裟な表現で行けないを強調して笑ってみた。いや、行きたくないんだけどね。分かってくれるかな? 無理だろうな。 「そうだな、残念だ」 そんな寂しそうな顔されたって困るよ! そんな叱られた犬みたいな顔しないでよ。そんな表情されても僕にはなんにもできないんだよ! 「あーっと、今度の夏休みにマグルに来れるんだったら時間取れるかもしれないけれど……」 僕はなに慌てて取り繕ってんだろう……。こんな奴に譲歩してやる義理なんかないのに。そんな義理はまったくないのに。だって、僕がマルフォイとデートしたって一体何をすればいいんだ? ロンと二人っきりになったって、二人っきりで一ヶ月暮らすことになったって、僕とロンならきっと楽しいと思うけど……一時間だって、一分だって一緒に痛くないんだ。長い時間一緒にいたって、僕は一体マルフォイと何を話せばいいのかわからない。 って思ったけど……。 まあマルフォイならマグルには来ないか。 少し意地の悪い事を言ったのだろうけど、そうでもしないと諦めてくれなさそうだ。 マルフォイのマグル嫌いは有名だし、お坊ちゃんだから一人で来るはずがない。 僕にしてはいい譲歩だった。いい言い訳だ! 「………マグルか……」 マルフォイが悩み出した。 そうだよ、僕は君の大嫌いなマグルなんだよ、諦めろ。 君とは世界が違うんだ。 君の大嫌いなマグルだよ! 「わかった。都合は君に合わせる」 …………。 はい、そうですか。 本気で来るつもりなんだろうか……。 071124 → |