07

















「…………」



 予想外だ!
 想定外だ!

 僕の知ってたマルフォイはこんな事言わない。僕が知っているはずのマルフォイはこんな事を言って顔を赤らめない! 決して。

 ダメだよ、手なんか繋いだりしたら。僕達はそんな関係じゃないだろ!
 手を繋ぐって、握手でさえ僕達の間ではなかったんだ。
 僕達の唯一の接触は殴りあう時だけだろ?

 手を繋ぐだなんて、そんな……僕はロンやハーマイオニーとでさえしていないことだよ。今更そんなこと照れくさくてしたくないし!
 そんなの友達通り越してしまってるじゃないか!?

「……あ、うん」

 じゃないだろっ!?
 僕は何を流されて何を言ってるんだっ!

 このままじゃマルフォイと手を繋ぐ事になるぞ! さあ、さっさとその手を引っ込めるんだ! 嫌味のつもりで差し出した手を、早く引っ込めないと……

 そっとマルフォイが手を出す。

 出された手は、ほっそりと白く、指が長く、爪が卵型をしていてきれいに切り揃えられていた。ささくれ一つない。
 僕の手は小さくはないけど節ばっていて、ささくれだらけで爪は最近切るのを無精していたから不揃いで、クィディッチで箒に乗るから、箒握り締めるからマメだらけで………とするとマルフォイだって同じなのだろうけど……でもマルフォイの手にはまめなんて無い気がした。そんなものだって、似合わないし……。

 なんだか別に、特に汚いものを触ったわけではないけれど、マルフォイの手を触る前に拭いておけば良かったような気になってしまう。拭くにしてもハンカチを持ち歩く習慣なんかないからローブでだけど………。




 いやいやいや。



 そうじゃないだろ。

 逆だ逆! マルフォイの手なんか触ったら汚れちゃう、だ。僕は今そう思いたかったんだ! きっと、そうに違いない! だって、マルフォイだぞ?


 マルフォイの手はひんやりとしていた。指も、本当細くって……


「……………」

「なんか、少し恥ずかしい、かな」

「………………」




 僕は別に、冷たいから暖めてあげたいなんて思ってない!
 繋いだ手を見て、少し頬を染めて、恥ずかしそうに笑うマルフォイを可愛いだなんて、絶対思ってない!!




「ポッター?」

「何でもない!」

 何かであるはずなんかない!



「そういえば、この前ポッターが何がしたいのか訊いただろ? あれから考えたんだ」

「何を?」


 考えないでくれ!
 やめてくれ! 頼むやめるんだ。

 それは恐ろしいことなんだからね? だって、オトモダチになりたいの度を越しているよね? 仲良くなりたいって……だってオトモダチの度を越すって事は……とっても恐ろしい想像しか待っていないんですけれども……。



「ポッターと、手を繋ぎたいと思った」

 にっこりとマルフォイは微笑んで……。

 僕は………。

 つられて赤くならないようにするのに必死だ! マルフォイといて機嫌が悪そうに装うのをこんなに苦労したことなんか一度もない! マルフォイといることができれば常に絶頂に不機嫌だからだ。

「良かったね、夢が叶って」
「ああ。ありがとう」


 まあ……手を繋ぐくらいなら……。そんなことで喜んでくれるならまあいいかって……気分で。別にマルフォイを喜ばせたいわけじゃないけど。どっちかって言えば、マルフォイが怒って傷ついてないて僕に謝ってくれた方が僕は気分がいいはずなんだけど……。
 でも、まあこんなに嬉しそうにしているなら、まあいいんじゃないかなって。
 手を繋ぐぐらいなら、減らないし。


 だって、僕はてっきり。


「キスしたいとか言い出すのかと思ったよ」

 良かった。
 そんなとこ、言い出されたらまったくどうしていいのやら。まあ、まさかそこまではな……。好きだと言ったって、友達になりたいとかそういう意味かもしれないんだし。友達として、僕の親友よりも仲良くなりたいとかそういう意味かもしれないだろ? キスだなんて。


 しかも、このお坊ちゃんはガキっぽいからきっと未発達で、そんな破廉恥なこと考えたこともないに違いない。



「………」

 それを言った瞬間マルフォイの顔が真っ赤に染まった。

 あー、もしかして僕はマルフォイにとって、とんでもなく恥ずかしいことを言ってしまったのかな? 
 お坊ちゃまなマルフォイにはその単語は刺激が強かったのだろうか……。









「キスも……したい」






「…………………」





 真っ白。




「そんなとこ、言ったらポッターが僕を気持ち悪いって、思うかなって、思って……」

「…………」

「したいけど………ポッターが僕のことを好きになってくれたらでいいんだ」

「…………………」


「ありがとう。ポッターの手、あったかくて大きくて好きだ」

「………………………………」


「じゃあ、またな」


「……………………………………………」








 するりとマルフォイの手が離れて、もう一度綺麗に笑って、マルフォイは僕に背を向けて、去って行った。











 今日は晴天で、こんな日には思いっきり箒で空を飛びたい。









「ちょっと待てよ………」


 僕がようやく声を出せたのはマルフォイが見えなくなってしばらく経ってから。








071120