04 スリザリンとの合同授業が終わるとマルフォイが僕の近くにやって来るのはずっと前からの日課のようなもの。 今までは五月蝿くてうざったくて煩わしかったのだけど……。 「ポッター、今日は指されなかったな」 「……ああ、うん」 「君のことだから予習はしていなかっただろう? この辺りは教授が好きな分野だから少し難しいことまでやるからなかなか大変なんだ」 「……そうなんだ」 「今度ノートを貸してやろうか? 先輩に借りた物だけれど、あの教授は毎年テストの問題がほとんど同じらしいから」 確かに教科書を流し読みしたくらいの予習では理解するのがやっとだったけれど。そうなのか、何だかいつもよりも突っ込んだ質問をしてくるとか思ってたけど、教授の趣味か。うん、ノートはとても助かる。僕はあまり好きじゃない教科だし。苦手だし。覚えるところだけ把握できたら嬉しいし。グリフィンドールだって先輩のノート回ってくるけど、生真面目に取っている先輩って少ないんだよな……っていうよりも…… 何なんだ、一体! この百八十度違う態度は何なんだよ。 僕にそんな笑顔作ったっていきなりマルフォイへの価値観を僕まで変えられるだなんて思ったら大間違いだ。 無駄に笑顔を振りまいて僕に対して新たなどんな嫌味を確立したって言うんだ! 効いてないからね、通じてないからね! 「じゃあ、」 僕は教科書を持って席を立った。だってこれ以上君と話すことなんかないよ。趣味だって合わないし、君の趣味なんて知らないし。 「ロン、行こう」 隣りで不審げな目付きでマルフォイを睨むロンに声をかけると、ロンも慌てて立ち上がった。 もう、こんな所には一秒だっていない方がいい。きっとマルフォイは頭が春になる何か変な菌に感染してしまったんじゃないだろうか。近くにいたらうつっちゃうよ!! ロンがもう一度マルフォイを睨んだ。まあロンはいつもの通りの対応。 今まで僕達が君から受けた色々なあれやこれやは簡単に払拭できるようなものじゃないんだからね! 僕はロンと一緒にマルフォイにいつも通りの視線を投げた。君と話したくもないっていつもと同じやつ。 マルフォイはその視線を少し困ったように受けてから………。 にこりと微笑んだ。 ああ……やられたか、馬鹿だなあ。 ロンがいきなり真っ赤になっていた………。ロンはマルフォイのスマイルアタックの直撃を受けたらしい。 顔だけは良いんだよ、マルフォイは。 僕だって何度直撃を受けたかわからない。その度に耐えたんだ! そんなものに僕は流されないからね。 絶対何か裏がある。きっと。たぶん。もしかしたら。 「ロン行くよ」 「待てよ、ハリー」 ロンが慌てて教科書を掴んでついて来る。本当にそんな間抜けな顔いつまでも曝してたら置いてくからね。 「またな、ポッター」 マルフォイが僕に声を掛けたから、ちらりとそっちを見ればにこにこと………。 ………何なんだよ本当。僕の疲労蓄積度合いを楽しむって寸法か? そういう新しい作戦か? 「マルフォイってさ、けっこう可愛いんだね」 教室を出て数歩歩いた所でロンがそんな馬鹿げた事を言った。 「あら、知らなかったの? 黙ってればあの容姿であの家柄であの物腰でしょ。頭だって良いんだから女の子の子には人気あるのよ。まあ頭は私には劣るけどね。この前だって彼の得意な分野だったらしいけど、私が全勝よ!」 ハーマイオニーが横から口を挟む。彼女は顔も頭も良いのに人気が無い所はこんな所かもしれない。 「でも変態だ」 「喋らなければって言ったでしょう」 君だってね。 とは恐ろしくて言えない。 言ったら間違いなく口が裂けてしまうだろう。 「まあ……そりゃ顔がいいのだけは認めるけどさ」 顔が良いプラスをすべて台無しにするほどのマイナス要因のあの性格があるから、僕にはマルフォイを良く見ようとも思えない。今までの蓄積のおかげで、100の良いことは全てが裏返しにしか見えない。 しかもよりよって公衆の面前で僕を好きだとか吐かしやがった。 しかもそれを撤回する気配すらない……。 今まで受けた仕打ちを忘れるだなんて、悪いけど、心が狭いと言われようと僕にはできない。どれだけ僕が心を痛めて、どれだけ僕の枕が殴りつけられたかだなんて、誰も知らないんだ! ロンだって僕がそんな状態の時は決まって寝ている。ロンの寝付きのよさはいつものことだけど。 「まあ、嫌味言われなくなっただけでも良かったと思いなよ」 「あんな美人に好かれて幸せじゃない」 ロンとハーマイオニーが口々に慰めとも励ましともからかいともつかない……きっと全部なんだろうけど、しかもからかいが一番多くの割合を占めているんだろうけど……言葉を僕に与えた。 「絶対あいつ何か企んでるんだ」 そうに違いない。それ以外考えられない。 071107 → |