03








「ポッター……おはよう」





 大広間の扉を出てすぐ。


 叩かれた、肩を、マルフォイに、上機嫌な………それも僕が見たことのないほどの満面の笑みで。少しだけ頬を赤く染めて。なんか、形容すると、一面に花を散らしたようなとかそんな感じ?

 えーっと??




「マルフォイ、君朝食の途中だったんじゃない?」

「いや。朝はいつも紅茶とシリアルだけだから食べ終わっている」

「………あ、そう」

 だからこんなに細いのかとか夕食だって細かく切り刻んだ肉をちまちまと上品ぶってろくに栄養摂取などをしていないようだからなどと無駄な観察をしている場合でなく、僕は何を言われるのかと身構える。


「それで、何の用?」

 晴れやかな顔つきのマルフォイと比べて僕の顔色は黄土色に変色しているんじゃないだろうか。
 だって、今僕の心の中を見ることが出来るのであれば、ものすごい勢いでハリケーンだと思う。

「………その……」

 僕はいつもマルフォイの歯切れがよく快濶な口調しか聞いた事がなかったので……と言っても嫌味意外の内容をその口から聞いたこともないけれど……なんだか焦れったくなってしまう。

「何?」


 僕は苛々した声を上げる。本当朝から何なんだよ一体。
 何なんだよ、いちいち僕を呼び止めるだなんて! だって朝一から君の顔なんて見たくもないんだからね! 何言われるんだろう。君だって、君から喧嘩売ってきてさんざん僕に言い負かされて、めちゃくちゃ怒りながら去っていく事だってよくあるだろう!? 君だって機嫌が悪くなるかもしれないんだ。僕達は係わり合いにならない方が都合がいいんだ! そういう運命なんだよ、さっさとどこかに行ってくれ、本当!
 って、言いたかったけど、何故だか言えない雰囲気なんだけどどうしよう。


 マルフォイは俯いてしまったけれど、その耳まで赤い………。

 何か恥ずかしい事でも……。


「笑わないか?」

 笑えること? 君からのいつもの嫌味はただの冗談だったのか? 笑えないね、君にはギャグのセンスが欠如しているよ。

「面白かったら笑うし面白くなければ笑わないよ」

「…………」



 俯いたまま……。
 へえ、僕よりマルフォイは頭半分低いんだ……。そんなことを僕はぼんやりと考えながらその頭のてっぺんを見ていた。明るい銀髪。たぶんこのホグワーツ内で一番明るい髪の色をしていた。

 上目遣いにマルフォイが、僕を見た。


 ………。





 僕は初めてその時に知った。

 いや、もともと女顔だとは思っていたし、やけに線が細いと知っていたが。それを引っ括めて軟弱そうだと思っていたわけだが。




 今初めて気がついたが………マルフォイは美形だった!

 美形だったし、まだ年齢的に見れば、かなり可愛いとか言っちゃってもいいかもしれない!


 そう言えば女の子達がマルフォイをみて騒いでいるところを見たことがあるが、マルフォイの性格の一端すら理解できない表面しか見えないあまり頭の良くない子たちだと思ったことがあるが、まあ表面だけ見るのならマルフォイのレベルが並みと違うのは確かだろう。

 いや、だからと言ってマルフォイへの価値観を変える気なんてさらさらないけれど、ね!



「……あの」

「何だよ」

 朝早くから一体何なんだよ。



「……ポッターにおはようって言ってみたかったんだ………」









「……………」








 ……………。








 いや、ここは笑うべきところなんだろうけど。

 うん、笑うべきところだ。

 さあ笑え。



 彼の渾身のギャグだきっと。

 ………。


 ………………。




「……そう」

「すまない、呼び止めたりしてしまって」

「………別に」






 ………何だ、これは。

 少し俯き加減で、頬を赤く染めて、上目遣いに僕を見て、それでちょっと微笑んだ。



 ………僕はマルフォイがこんな風に笑えるなんて知らなかった。
 こんな風に普通の笑顔だって作れることを僕は初めて知った。意外だ。

 友達と話している所すらあまり見ないのだから。いや見るには見るけど……そう言えば普通に笑っていたかもしれない。
 僕には嫌味と嫌がらせの毎日なので、マルフォイが普通に笑えるなんて信じていなかっただけなのかもしれない。それに、別にそんな風に笑ってたって、僕は関係なかったし。どうでも良かったし。っていうか、本当に出来ることならば視界に入れたくなかったし!


 僕が見たことのない笑顔はふわりと砂糖菓子のように甘くて優しいものだった………。







 ………僕は思っていないぞ。何にも思ってないぞ。





 断じてマルフォイが可愛いなんて思ってないんだ!







「あ、僕もう行くから」

「ああ、すまない、呼び止めたりしてしまって。朝食を急いで食べていたから急ぎの用なんだろ?」



「………ああ……まあ」




 僕は、何とかそれだけ言って場を辞した。


 僕の顔がマルフォイにつられて赤くなっているような気がした。
















071106