始まりの… 01












「なんで君はいちいち僕に文句言って来るんだよ! いい加減にしてくれない? もう君の嫌味にはうんざりだ。もう本当に君の顔なんか見たくもないくらいなんだからね。声だって聞きたくない。僕が嫌いなら放って置けばいいじゃないか。放って置いてくれないかな? 本当に嫌いなら無視してればいいだろ。本当は君は僕に構われたいからつっかかってくるだけなんじゃないのか?」





 授業が終わった後のことだった。


 いつものようにマルフォイが文句を言って来た。
 何なんだよ、この日課は。

 別に僕は僕の事を嫌いな奴まで好きになれるような聖人君子様じゃないんだから、僕だって君の事が大嫌いだよ。視界に入っただけで機嫌が悪くなるくらいには君のお陰様で君を大嫌いになれましたアリガトウだ。
 もう本当に口もききたくないのに。
 本当に嫌いなんだよ。
 事あるごとに僕に嫌味を言ってきて、それがまたひどく頭に来る。僕の嫌がることに対して何かのセンサーが働いているのか、ことごとく僕の心を抉る言葉を投げることにかけて彼の右に出る奴なんかいない。
 最近はあまりにも馬鹿馬鹿しくて、あんな嫌味ごときに引っかかった方が負けだと思い込んで思い込んで我慢に我慢を重ねて無視していたのに、最近は内容が輪をかけてひどくなるから、つい僕も嫌味の一つでも言い返さないと気が済まなくなって来てしまって。



 スリザリンとの合同授業の後で僕達の嫌味の応酬は名物となり、今では授業が終わってからマルフォイが何が一番傷つく言葉なのかのを探る為に頭をフル活用させる事が日課のようなものになってしまった。ギャラリーは、本日の授業でどちらの方が勝ちか、負けか、はたまた引き分けか、大穴で殴り合いか、僕の親友であるどこかの誰かの双子の兄あたりが聞きつけたのか、賭けをしているようだ。遊びでやってるわけじゃないんだからね。


 もう僕は本当にうんざりしている。いい加減にしたい。お願いだから風邪でもひいて休んでくれないかな? スリザリンとの合同授業って誰が決めたんだよ。他にも寮は二つもあるじゃないか。よりによって何でマルフォイなんかと同じ空間にいなければいけないんだ。

 おかげでこんな目に合っている僕は、本当に可哀想だと思う。

 今日も僕の事を馬鹿にしたから。


 イライラして言い返した。





 僕が声を張り上げたので、教室に残っていた生徒が僕達の様子を伺っているのが解る。こうやって注目を浴びるのも嫌だ。

 ただでさえ僕には記憶のないことでこの世界では英雄だとかで無駄に目立っているのに。





「そんなに僕にかまって欲しいだなんて、本当は君は僕の事が好きなんじゃないの?」




 僕はこれ以上ない嫌味で追い討ちをかけた。

 これできっとマルフォイのことだ。憤激してなんだか幼稚な罵倒を僕に浴びせかけて、お供を引き連れて、ろくに無さそうな体重を足にかけて足音を響かせるようにして歩きながら去って行くんだろう、きっと。

 もう、いい加減にうざったいから。



 ほとんど最後通告ぐらいの気持ちでマルフォイに嫌味を言ったんだ。

 これでしばらくは大人しくなってくれればいいんだけどね。



 そう思って………





 マルフォイは目を見開いて僕の顔をじっと見つめていた。

 じっと僕を見て黙り込んでしまった。

 きっと黙り込んだ後、見る間に顔を紅潮させて僕に怒鳴るんだろう。わかりやすいんだ。
 そう思って僕はマルフォイの様子を呆れた顔つきで眺める。

 予想通り、マルフォイの顔はどんどん赤くなってくる。
 これから小型犬のようにキャンキャン鼓膜を刺激するような高い声でマルフォイの幼稚な罵倒を聞かなければならない。

 ああ、面倒臭い。

 マルフォイは顔を赤くさせて、僕をじっと見つめて………。

 右手を振り上げて……。


 殴られる、





 そう思ったけれどその手は彼の口元に。

 考え込むような形でそのまま固まった。









 ………彼の怒声がこない。

 
 これは予想に反していた。日々こんな事を繰り返しているので僕は彼の反応を忌まわしい事に逐一理解してしまっている。ふだんの物腰は落ち着いているて学年ではハーマイオニーと首席争いをする教科もいくつかあって頭は良いはずなのに、中身はどうしようもなく幼稚だと言う事をいやと言うほどに思い知っている、残念ながら。



 そのはずなのだが……。


 どうしたというのだろう。
 マルフォイは固まってしまったので……。



「………マルフォイ?」

 僕は恐る恐る声を掛けてしまった。


 ざわついていた教室中がしんと静まり返っていた。

 視線が痛いくらい僕達に突き刺さる。いつもだったら、負けがこんできたらギャラリーの視線を気にして捨て台詞と共に去っていくというのに……どうしたんだ? 一向に周囲の視線は意に返していないようで………。


「…………」


 マルフォイは固まったまま僕にじっと視線を送っている。

 何だ?

 何かまずい事を言ったのだろうか………いや、まずい事を言っているのはわかる。わざわざ相手の気分を害させるために選んだ言葉だ。

 よほどのショックで口もきけないのか? だったらとても気分が良いのだが。

 無反応だから、何を考えているのかさっぱりわからない。まあ解りたいなんて思ったことは無いのだけれど。だがホグワーツに入ってからずっと顔を合わせれば臨戦態勢を繰り返して、大体の反応はもう理解していたのだが。

 ちょっと、予想外だな。










「………そうかもしれない」










「は?」





 今度は僕が固まった。




「………今までそんなこと考えた事なんかなかったが……」


「あの、マルフォイ?」



「確かにそうだな……。本当に嫌いならば無視をすれば万事丸く収まるはずだ」


「………」


「僕はそれをしなかった」



「ちょっと、マルフォイ?」


「そう考えると……ああ、つまりそういう事か」




 マルフォイは気付いているのだろうか、彼は自分の思考を口に出している事を……。

 教室にまだ残っている皆様方が僕達のやり取りを固唾を飲んで見守っていて下さる。どっか行けよ。いやいやいや穴があったら入りたいだ。





「そうか……つまり僕は」


「マルフォイ!」


 その先は言っちゃいけないよ。そんなことあるはずなんかないんだからね、よく考えてもみなよ。つまりじゃないよ、そんな結論はないよ、絶対!

 僕はマルフォイの言葉を遮ろうと慌てたけれど、聞いちゃいない。








「僕はポッターが好きなんだ………」








 彼は呆然とした顔つきのまま呟いた。相変わらず頬を赤くさせて。
 それに反して僕の顔色はどんどん青くなって行く。

 血の気が引いて行くのが解った。一瞬本気で視界が遠くなった。


















071101
タイトル思いつかねーっ!!