48(D) 気が付いたら、僕は何だかよく解らない場所にいた。あまり綺麗ではない場所で、消毒液の匂いがした。 なんだか頭がズキズキする。 「あ、ドラコ起きたの? 水飲む?」 「……ああ、貰う。ハリー、済まないがここは……」 何処だと、言いそうになった。ハリーが、凄く自然だったから、いつも通りに夢の続きのような気がして……しまって。 「ハリーっ!」 ………ワンテンポずれてしまったけれど、僕は今ようやく妥当な反応を返せたと思う。 「なあに、ドラコ?」 にっこりと微笑むハリーに息がつまる。 ……なあにじゃないだろ! お前、スニッチを掴まえるのはいいが、その後のことを考えてスピードを出せ! ぶつかったんだからな! しかもけっこう痛かったんだし! もし万が一お前が怪我でもしたらどうするつもりだ! そりゃ今の魔法医学では治せない怪我なんてほとんどないけど、それだって怪我をしたらけっこう痛いんだ。心配するこっちの身にもなれ。いつもお前は怪我をしてもへらへらとして! お前は昔からそうだ。 捕まえるまでは勇気がある行為だと称えられるだろうし、実際かっこいいけど、掴まえたあとのことを全然考えてない! だからお前は馬鹿なんだ! 「ハリー………!」 それに、お前、よりによって公衆の面前でキスなんかしただろ! そんなことが許されると思っているのか? 僕達は男同士なんだからな! しかも僕はあのマルフォイで、お前は英雄なんだ! それがどんなことがどんなに馬鹿だって考えればわかるはずだ! お前はこの世界じゃ一番有名な魔法使いだし、僕だってかなり名の知れた犯罪者の一人なんだ。 自覚を持て! とか、 色々言いたかったのに……言葉が出ない。 「ここは救護室だよ。あれからドラコ気絶しちゃったんだけど、覚えてない? あ、どこか痛い所とかない? 怪我とかしてない? 痛い所あったらすぐに治してあげるから」 ハリーの言葉が右から左に抜ける。声ばかりが心に染みる。 違う、そうじゃない! ねえ、ハリー、 胸が、ぎゅって、潰れてしまいそうなんだ。 いっぱいになって、あふれて。 「ハ、リー………」 睨み付けたいのに、涙が邪魔で、上手く睨めない。 僕達は、あの時終わったんだから。 なんで……ここにいちゃいけないんだよ。 僕がどんな想いでいたかなんて知らないくせに! お前が幸せになって欲しくて……。 「……ハリー」 って……。 僕は、言葉を忘れてしまったのか? 言いたい言葉じゃない。 僕はハリー以外の言葉の発音を忘れてしまったのだろうか。 「ハリー……」 違う。 怒らないと。 ハリーに、怒らないと。 ハリーはお人好しで、間が抜けているところがあるから、僕がちゃんと怒らないと、わからないんだ。ハリーの親友達はハリーに甘いからな。僕がしっかり怒ってやらないと。 「……ハリー!」 「なあに、ドラコ」 ハリーの、笑顔が胸いっぱいに溢れる。 言いたいことなんか山ほどあるのに言葉にならない。どんな言葉も口にしたら嘘になりそうで……嘘じゃなくて、嘘じゃないんだ。だって僕は全部ハリーにはいつだって素直でいたいって思ってるんだし。 嘘じゃなくて……でも口から出したら、やっぱり違ったニュアンスになってしまいそうなんだ。もっと、もっと僕の気持ちを的確に表せる言葉を捜して……。 「………会いたかった」 言った、途端に涙が吹き出した。 ああ、そうだ。 この言葉を、僕は捜していた。 溢れる。零れる。 胸の中から、奥から。 心臓は、きっと涙でできているんだ。思いが心にいっぱいになって、破裂してしまった。 胸が潰れて、涙が溢れる。 「会いたかった!」 会いたかった! 会いたかった、会いたかった会いたかった! こんなにも、会いたかったんだ。 一日だって忘れなかった。 もっと会いたい。ずっと会っていたい、離れたくない。 「……ドラコ」 ハリーは、少し笑ってから。 僕を抱き締めてくれた。 「ハリ……」 「ドラコ!」 ハリーの体温 こんなに、好きだった……。 こんなに、大好きだった。 駄目だよ。 もう、離れたくない! もう誰にも譲らない! 僕のハリーだ! やっぱり無理なんだよ、ハリーがいるのに、ハリーを忘れるなんて。 僕はなんで離れたりしたんだ。 だって……こんなに幸せが込み上げる。 ハリーの笑顔が優しくて……。 ねえ、まだ僕を好きでいてくれた? 僕のこと思い出してくれた? とか……もういいや、そんなこと。 僕はハリーが必要で、ハリーが居ないと乾いて干からびて凍ってしまうんだ。 ハリーを不幸にしてでも僕はハリーのそばにいたい。 ハリーが嫌だって言っても僕はハリーの一番近くがいい! ハリーが僕をまた見つけてくれた。 頑張って離れたのに、ハリーの馬鹿、無駄になってしまったじゃないか。馬鹿だなあ、ハリーは。僕のせいで不幸になったって、もう僕は知らない。だってもう離れられない。 「僕も、ドラコに会いたかったよ」 ああ……。 本当に? 本当に僕に会いたかった? 嫌いになってない? 涙が止まらない。ぐしゃぐしゃになった顔はきっととってもみっともない。ハリーが好きだと言ってくれた笑顔をハリーに向けたいんだ。 好きになって。僕を好きになって! もっと。僕を好きになるのに限界なんてないって、そう思って欲しいんだ。 ハリー。 「ドラコ……」 ハリーの笑顔が…… ハリーの手が僕の頬に触れた。 まだ僕に触ってくれる? また僕を好きになってくれる? 「酷いよね、記憶無くしたくらいで離れていっちゃうなんて」 「……」 忘れるなんて、ひどいのはどっちだよ、そう言いたかった。 でも……。 嬉しくて、言葉にならないんだ、ハリー。会えた。 ハリーに会えた。 また、ハリーに触れることが出来る。 「思い出したから。君のことは全部思い出したから! ドラコの弱い所も強いところも、全部ちゃんと僕の中にあるから」 「………」 思い出してくれた。 僕のことを。 ハリーの中に僕がいるんだ。ニコラスでない、ちゃんと僕がいるんだ……。 「だから、ね、一緒に暮らそう」 ハリーが笑ってくれたんだ。 そんな優しい笑顔は、まだ僕が好きだってことだよね? ハリーがその笑顔を向けるのは僕だけだって僕は知っているんだよ? まだ僕を嫌いになったりしてない? だったら僕は頷くしかないだろう? 一緒にくらそう。 一緒にいよう。 ずっと一緒がいい。 ずっと二人がいい。 もっと思い出を作ろうよ、お前が忘れていたことよりももっと多くの思い出を作るんだ。また忘れたら、もっと作ればいい。 後悔なんかしたって遅いんだからな。お前が僕を見付けてしまったんだ。僕はもうお前から離れてなんかやらない。どんなことがあってもそばにいるんだ。後悔なんかさせてやらない。ずっと僕が一番だって思い知らせてやる。 ねえ、ハリー? 「一緒に暮らそう、ハリー」 了 070905 →@ |