47(H)


















 僕は、綺麗な物を見付けるのは得意なんだ。


 視界の端にキラリと光る。太陽を反射してまるでそれ自体が光っているようでとても綺麗なんだ。



 見つけた。


 スニッチ。
















 ……と、ドラコ!





 何でここに、とか、僕を見ていなくて、ぼんやりと周囲に目をやっている所とかから、また目が見えなくなってしまったの、とか、そんなことは……どうでもいい。僕は見つけたんだ!






 貴賓席に、いた。


 君は目立つんだから。
 どんなに離れていても僕は見付けるよ。
 どれだけ時間をかけたって、僕は君を見つけ出す!

 明るい、銀に近いブロンドが眩しい光を反射して、彼が自ら光っているみたい。本当に綺麗なんだ!






 絶対!




 だって見つけたんだ。




 思い出したよ。全部。



 君のことで欠けている物なんて一つもない。
 全部覚えているよ! 思い出したよ! 昔のことも、今までのことも、僕につながるドラコを全部!



 ねえ、僕はここにいるよ。


 僕はそれを君に伝えたい、どうしても、どうやっても、どんなことがあっても、今僕は大声で君に伝えたい。




 貴賓席。に、僕はドラコを見つけたんだ。






 スニッチが僕から逃げるように、方向を変えて。



 そっちには、ドラコがいる。

 僕から逃げる気か? そんなことはさせない! 



 掴まえてやる。



 絶対に逃がさない。
 捕まえたらもう離さない!


 全身が緊張でみなぎる。
 血液がどんどん赤くなってくる。
 身体中が神経になったみたいだ。
 今なら全方位を見渡すことができる。

 あの時みたいに暴れ玉に激突だなんてヘマはしない。僕は英雄なんだってさ。誰にだって負けない。君を好きな気持ちは誰よりも強い! 世界を敵に回してもいいくらいなんだよ? だったら、君の笑顔のためだったら、逃げていくスニッチを捕まえるくらい僕には簡単なことに思えた。

 捕まえるよ!


 たくさん褒めてよ、ドラコ。



 君の笑顔が見たいんだ!







 僕は加速する。どんどん急加速する。



 スピードを上げる。もっと……もっと早く! 早く! 捕まえなきゃ。

 スピード限界値、箒がガタガタと悲鳴を上げる。空気が風になり、肌にぶつかり痛いくらいだ。


 うるさい、捕まえるまでの辛抱だ。
 捕まえることさえできれば、僕だってどうなってもいいと思っているんだから、お前だって僕の箒だったら文句を言わずに僕に付き合え!



 貴賓席に向かって……。

 あと少しで、手が届く

 けれども、握り締めた僕の手をスニッチはすり抜けるように……。

 もう一度!
 何度だって! 諦めない! 君を手に入れるまで諦めない。




 手を伸ばして、限界までスピードを上げて、僕の一番先端まで手を伸ばして……。










 捕まえたっ!







 僕はスニッチを握り締めた。

 捕まえた!


 僕は手の中のスニッチを握り締める! 手の中で暴れる羽のついたボールの手応えを確かに感じる。



 歓声が!


 僕を包む快感! 高揚感!
 捕まえた。勝った! 









 けど、止まらない………!
 歓声は、悲鳴に変わっていた。
 僕の目の前には、目を見開いたドラコ。






 スニッチを捕まえた!


 君も……このまま……!















 激突

















「いってえ……!」


 僕は逃げ遅れた彼を下敷きにして、ようやくブレーキがかかった。


 しんと静まり返った場内。僕達の周りに気配はなかった。ちゃんとみんな逃げてたんだろう。
 ただし、会場中の全部の視線の重さを背中に感じた。


 あー、肩打った……痛い、けど。



 僕は、握り締めたスニッチを、天にかざした!


 きらきらと手の内のボールが羽ばたいて光を反射する。




 僕は、右手でスニッチを捕まえて、左手でドラコの腕を掴んで









 天に向けた!




 捕まえた!

 僕が捕まえた!

 握り締める手に力が入る。
 だって放せないよ、もう、絶対!



 どよめいた、歓声が。

 僕達を包んだ。








「ドラコ?」


 僕に腕を持ち上げられたまま、僕の顔の辺りをぼんやりと見ていた。


 大きなアイスグレーが、もっと大きく開いて。
 ちゃんと、僕に視線を感じるから、ちゃんと僕を見てくれていることが、嬉しくて。


 何百人の視線よりも、何千人の視線よりも、ドラコ一人分の視線の方が何倍も、何十倍も僕を熱くするんだ。質量があって、重たくて、嬉しくて、熱くなる。


 瞬きする事を忘れちゃったの? 目が乾いちゃうよ?



「ドラコ?」




 ぼんやりと、ドラコはただ僕を見ていた。

 僕の大好きなドラコがここにいる。
 大好きな髪で……僕が知らないうちに少し伸びたことに嫉妬。
 相変わらず細い身体で……知らないうちに、少し痩せたんじゃない? その事にも嫉妬。
 身綺麗な、高価そうな彼に良く似合った、身体のラインを強調するような細身のチャコールのスーツに真っ白な襟の大きなシャツ……僕が知らない服。いつも、ドラコは白のシャツに黒のパンツばかりだったから……。僕が知らない時間に嫉妬する。




 だけど。



「……ドラコ、大丈夫?」


 でも、相変わらずドラコの髪はさらさらと、真っ直ぐで柔らかそうで、銀色に近い金髪で。相変わらず、肌は透明に近いような乳白色で。相変わらずアイスグレーの瞳はきらきらと宝石みたいで、長い睫毛に縁取られていて、少し開かれた唇は紅くて……


 大好きな、ドラコが、ここにいるんだ! 嬉しい!


 嬉しい嬉しい嬉しい!
 最高だ、なんて最高な気分なんだ!



 ドラコ!




 気持ちを押さえられないよ!
 押さえなくていいでしょう!? もう、僕はさんざん我慢したよ!


 思い出したよ!
 大好き!

 ドラコ、君が世界中で誰よりも何よりも大好きなんだ!
 離れたらそれが良く分かった。君がいないことに馴れなかった。寂しくて死んじゃうかと思ったんだよ!

 会えた!

 ドラコに会えた!












 僕は、ドラコに見せつけるように、世界中に見せつけるように、彼の唇に………










 口付けを………









 大好き!













070903