46(D) 今………? ハリー? って、聞こえた気がする? 今、アナウンスで読み上げられた名前は何かの間違いじゃないのか? ハリーは、だって。 ハリー? ここにいるのか? だってハリーは………チームが…… 移籍したのか? だって、僕はそんなの知らない! だって、ハリーは……。 ぐるぐるまわる。 目眩がする。 もし僕の目が見えていたら、世界は渦の中に入り込んでいただろうと思うほど。 頭から……天が揺れる。 「大丈夫ですか? お顔色が優れませんわ」 目の前に気配を感じた。ああ、僕の前を遮らないでくれないかな? 「お気遣い有り難うございます、ヘレン、大丈夫です」 僕は、出来る限り失礼にならないような笑顔を彼女に見せることができていただろうか。 大丈夫。 大丈夫、大丈夫。 くらくらと……。 こんな広い場所なんだ。 歓声が大きい。 きっと大勢いる。 この中から、ハリーが僕を見付けられるはずなんかない。僕がいるなんて思うはずがないし。 ハリーは、僕に気付かないはずだ。 あれから、髪だって伸びたのだし……。 僕だって試合中に観客席を見ている余裕なんかなかった。ハリーだって……ハリーは夢中になると一つのことしか目にはいらないんだ。ハリーは今スニッチのことしか見えていないはずなんだ。僕がここにいるなんて……… ああ、ハリー、そこにいるのかい? 試合が始まったようだ。 熱気が……。 熱気を帯びた空気が開場を包み込んでいるのが分かる。 ハリー、 本当にハリー、そこにいるの? 会いたい。 ハリー、お前に会いたい。 僕はハリーが空を飛ぶ姿が、一番好きなんだよ。 もう、会えないと思っていた。 会ったわけじゃないけど。でもこんなに近い場所にいるだなんて。同じ空間にいて同じ空気を吸っていることがこんなにも……! 一目なら……。 今、一瞬だけ、僕の目の呪いを解いて、一瞬だけでいいんだ。 ハリーを目に焼きたい。 会いたい! 会いたい!! 会いたい!! せめて……一目でいいんだ、一瞬でいいんだ。ハリーを、元気なハリーを確認できればそれだけでいいんだ! それが終わったら、もう何の我が儘も言わないから。 もう、本当に全部諦める。何もかも、全ての僕を捨ててもいい。 何でもするよ。どんな苦痛にだって耐えてみせる。 ああ、だから……。 今だけは……僕の我が儘を許して下さい。 歓声が大きくなる。 始まってからまだ間もない。 何があったんだろう。 こんなに、開始早々。だってまだ十分も経っていない。 大きな歓声が……。 何だ? 何が……。 ハリー、そこにいるのかい? 会いたい。 会いたいんだ! 一目だけ。 ねえ、そのくらいは許して下さいますよね、神様。 僕は口の中で周囲に気付かれないように早口で解呪の呪文を唱える。 何でこんなにややこしい呪文にしてしまったのだろう。僕以外には解けないようにしたのだから、もしくは専門の解呪師とか、ハリーみたいに強い魔力を持つ魔法使いじゃないとこの呪いはこの呪文以外では解けないようにしてあるから仕方がないのだけれど、うっかり舌を噛みそうになる。しくじったらやり直しなんだから、慎重に、それでいて迅速に!! 大きな声が、周囲を包む。 何だ? 何が起こっているんだ? 声は歓声と言うよりも悲鳴に近いものだった。 僕の周りから。 早く、早く動け、僕の舌! 何が起こったんだ? ハリーの身にまた何か起こったんじゃないのか?! だとしたら……ああ、早く世界を見たい。こんなに視界が恋しくなったのは二度目だ! ニコラスだと名乗って僕の事を好きだと言ってくれていたハリーにそっくりの男がハリーだとわかった時と…… 今。 だって、どうしてもハリーを見たいんだ! 解けたっ! 眩しい光。 世界が光に溢れている。 この世界にハリーがいるんだ。 ハリーを探さないと。 ハリー! 何処だなんて、思わなかった。 ハリーを見た感動よりも。 正面。 正面から、ハリーが………うん、ハリーのスピードは僕だって良く知ってるよ。一番良く知ってるよ。音よりも早いんじゃないかって思うくらいに早いんだ! 正面に……!!! 待て! 待て待て、ストップ! 止まれっ! 正面からハリーが猛スピードで突っ込んでくる。 ハリーを見た感動……って場合じゃない! このままじゃ…… ぶつかるっ! 070901 → |