44(H)














 僕は全部を思い出した。

 全部だ。


 学生の頃のドラコの嫌味ったらしい、それでいて整った笑顔も、ドラコが目が見えなくて僕をニコラスだと思っていた時の柔和な微笑みも、僕が誰だか知った後、僕に不意にキスをくれた後の悪戯っぽい笑顔も。
 何もかも思い出したんだよ。




 何故僕がドラコを忘れることができていたのか解らない。
 全てを捨てても僕はドラコを守りたいと思っていたはずなのに……何で……。
 思い出した時に、魔法が砕けるような手応えがした。僕の記憶は封じられていたのか?
 誰に?
 何で?

 だって僕の気持ちを邪魔する必要がある人なんて思いもよらない。そんな必要はないだろうと思っていたのだが。


 思い出したよ。君の望み通りに全部を思い出したよ!

 なのに何で君は僕の所に帰って来てくれないの?




 ドラコ……君がいないなんて………。








 今まで僕は仕事と私生活とは違う世界でなりたっていると思っていたけど、僕は僕で、第三者のわけではなかった。プライベートと仕事はちゃんと別けていると思っていたけれど、そうでもなかった。

 ドラコがいなくなってからは僕の成績はがた落ちだ。
 みんなは今までが調子良すぎたんだって言ってくれるのだけれど、全然届かない。僕の腕が半分に縮んでしまったようで、僕の手のひらから指がなくなってしまったような、そんな……。

 ドラコがいた時は、僕に不可能なんてないと思っていた。
 ドラコが喜ぶ顔が見たかった、だから僕は頑張れた。

 だってドラコがいないんだ。




 ずっと、僕はどうやって生きていたんだろう。
 ドラコに再会する前は僕は自分を不幸だなんて感じたことはなかった。不幸だなんて思いたくないけど、君がいない苦痛は確かな手応えがあるんだ。


 ロンに、ドラコの事を聞いてみたけれど、あの次の日にはドラコは魔法省の監視を解かれていたらしい。

 僕は何にも知らなかった。

 ドラコがそうやって、まだ苦痛を背負っていたことも、僕は何も知らずにただドラコが愛しかった。どんな、想いをさせてしまっていたのだろう。


 僕は、ドラコが嵌めていた指輪を握り締める。
 僕が贈った指輪。


 これだけが、僕と彼を繋ぐ唯一なもの。君が僕のそばにいてくれた証し。僕が君の事を忘れても、そばにいてくれたんだ。ずっと僕が贈ったものを身につけていてくれたんだ。



 自惚れたっていいよね。
 僕はドラコに愛されていたって。



 君は、もう僕を忘れてしまったのかな。
 僕は忘れないし、何よりもこの気持ちが大切なんだ。誰にも君の場所を譲らないし、もう二度と君を忘れない。



 あの公園で僕は君に再会した。


 僕は綺麗なものを見付けるのは得意なんだよ。ドラコを見つけた。




 試合が始まる。



 開始の合図。




 僕は上空に舞い上がり、空を見渡す。



 下ではすぐに乱戦の模様。

 激しくぶつかり合っている。


 僕は自分が空気に溶けるように耳を澄ます。

 風が鳴いている。

 心地が良い。歓声がここまで届く。






 僕はあれからチームを移籍した。
 迷惑ばかりかけていたから。
 僕自身の気分転換もあったけれど。
 だってドラコがいないと、どうしようもないんだ。


 僕の成績はがた落ち。
 僕のいたチームは僕が居なくても優秀な選手ばかりで、補欠のシーカーも育ってきていたし、僕が足を引っ張るだなんてしたくない。
 僕は弱小チームに籍を移した。僕の不調はそれでも続いて、この試合で僕がスニッチを捕まえられなかったら、二軍落ちしてしまいそうだ。
 雑誌にも色々嫌なことばかり書かれて……。
 仕方がないのはわかっているんだけど、それに言われても仕方がないのは事実で、記事にされる度に落ち込む。最近ではもう、記事にもされなくなったし。うるさくなくていいけど、でもそれは僕の実力が落ちたという照明だから、悔しい部分があるのも事実。


 風が、薫る。



 太陽の匂いが混じっている。



 あの日も、こんな天気だった。僕が始めて優勝した試合も、


 僕が記憶をなくした日も。

 絶好の試合日和。
 空が青くて、雲が白い。

 僕はこんな日は得意なんだ。



 あの日、僕はドラコを手に入れるために夢中でスニッチを追いかけた。

 一緒に住んでくれるって約束したんだ。



 あの約束はまだ有効?


 あの日からもうだいぶ経ってしまったけれど……。

 僕は何度でも君を捕まえる。









 視界の端で、きらりと光る。









 見つけた!













070828