33(D) 青い薔薇を全部僕は摘み取ってハリーの家に戻る。だって、もう咲かなくなってしまった。元気がない。それに、僕がいなくなったら、結局は枯れるから、全部、摘み取った。摘み取って捨てた。 ハリーに、伝えよう。 君には僕は必要ないんだって。 わかってくれるよね? そう言えば、今日、友達を連れてくるって言ってたっけ。 料理を作って待っていると言ってあるから……。 本当なら僕はいない方が良いだろう。僕はハリーの隣にいていいような身分じゃない。 別にその友人に僕の事を調べられることはないだろうが……。ハリーに夕食を作って待っていると言ってしまったし……。 あまり、考えるのはやめよう。 ハリーは何時だって僕の意見を考えすぎだとか、後ろ向きだとか言って笑っていた。 僕が嫌な事があって、苛々している時や、悩みごとがある時に、ハリーは何時だって大丈夫だって言ってくれた。 悩みごとは些細なことばかり、例えば薔薇の肥料の調合を間違えて病気になってしまった時や、いつも仕入れを頼んでいた非合法の薬屋がなくなった時や……マルフォイと繋がりを持ちたい人間はここにはいないから、その薬屋を見つけるのにとても苦労した思い出があったというだけだけれど。別にどうなったっていいような、後で考えれば些細なことだったりするけど。もともと僕は消極的な考え方しかできないから。 『何でドラコはそうやって悪い方に考えるかなあ』 『だって不安じゃないか』 『だって今考えたってどうしようもないじゃん』 『うるさい、そうなった時の心積もりだ』 『だって、悪いことにはならないよ、大丈夫』 『何でお前はそういつも楽観的なんだ?』 『だってドラコには僕がついてるじゃん。僕はドラコを一番幸せにしておくことが使命だからね。僕にできない事なんて何にもないよ。ドラコが笑ってくれていれば、それだけで僕はドラコを世界で一番幸せにしてあげる』 『………』 なんとも馬鹿馬鹿しいと思ったけど……、それでもこの世界の英雄のハリーにここまで言われたのは世界中で僕だけだと思うと、それが嬉しくて。 『だから、大丈夫』 ハリーに自信たっぷりにそう言われると、なんだか本当にそんな気分がしてくるんだ。 僕はハリーと一緒にいて、不安なんかなんにもなかった。 まだ、僕はハリーの隣にいるんだ。 大丈夫。 ハリーが幸せになるんだ。 僕はハリーが世界で一番幸せな男になることが、今一番の願いで、ハリーが幸せになることで、僕は世界一幸せなんだよ。 それで、ハリーの隣にいられなくなったとしても。 ぼんやりと、思い出の中で、僕は笑顔になる。 何を作ろう。 ホグワーツにいた頃、行事があると、たくさんの料理が並べられた。 あんなには作れないけど……。 ハリーはけっこうハンバーグが好きだ。作ってやろう。 あと、マッシュポテト。 オニオンスープ。 オムレツ。 ビーフシチュー。 僕は、ハリーの好物を思い出す。 ハリーの友人が何を好きなのかはわからないけど、でも僕は料理の腕はなかなかのものだと自負している。マルフォイ家にいたころ、一流の料理人が僕の家にお抱えでいて、僕は味音痴ではないのだし。ハリーにだって、美味しいってたくさん誉められた。 たっぷりと買った食材を端から調理しながら、ハリーが美味しいって言ってくれることを考えて、つい口元が綻ぶ。 夕方頃、来ると言っていたけど……。 明日……。今日は……せめて明日。 だって、今日はハリーが友達を連れてくるんだ。きっと楽しい日になるんだ。だから、きっと今日じゃない方がいい。 どうやってハリーに伝えよう。 これ以上、一緒にいたら………。 きっと僕がここを去ると言ったらハリーは悲しがるだろう。 僕を好きだと言ってくれたんだ。 マルフォイであった僕の事ですら好きだと言ってくれたんだ。 そうでないなら……きっとハリーは僕を好きだと思ってくれるなんて、わかっていた。わかっていたけど、僕はハリーのそばを離れたくなかったんだ。 名前を呼ばれなくても、抱き締めて貰えなくても、キスができなくても、僕はハリーの隣にいたかったんだ。 僕は愚かだ。 自分の身の程を知らない人間ほど愚か者はいない。 ずっとそう思っていた。 僕が一番、馬鹿だ。 ハリーが僕の事を忘れた時にすぐに去るべきだったんだ。 もっと……そのもっと前に……僕はハリーと一緒にいたらいけなかった。 僕のせいでハリーの記憶がなくなったんだ。 僕のせい。 記憶がなくなるなんて……そんな不安な思いをさせたのは、僕のせいなんだ。 ハリーになんて言ってここを去ろうか……。 謝りたい気持ちと……それ以上に、溢れそうになるくらいの気持ちを、僕はどこに捨てていけばいいのだろう。 玄関の方で音が聞こえた。 僕の考え事は、そこで中断された。 嫌なことは考えないようにする。ハリーにそう教えてもらった。僕は笑っていればいいんだって。 ハリーは馬鹿だなあ。考えたってどうにもならないことがあるんだってさ。 考えなくても、どうにもならないことがあるように。 ハリーの声がする。 一人で喋っているはずがないから、やっぱり友人も連れてきたのだ。 会うのは嫌だと思う。 人見知りは強い方だ。できれば誰とも会いたくない。こんな身分になってしまったのだし。 昔は家柄上社交的に振る舞うことを強要されていたから、外側だけは友好的に振る舞うことは得意だ。 初対面の相手に好印象を与えるのも、僕の処世術の得意分野だ。 初対面の相手は好きじゃないけど。それでもその相手を不快に思わせないことぐらいはできる。 僕は、僕の持てる一番友好的な笑顔を張り付かせた。こうやって笑っていれば、僕は誰からも嫌われることはない。 「ニコラス、ただいま」 「ああ、ハリー、おかえり」 僕は、笑顔でハリーを迎えようと、ソファーから立ち上がった。 ああ……。 僕は、やっぱり馬鹿だった。 ハリーの友人。 ずっと、ハリーの親友だったことは僕だって知っていたのに。 赤い髪。 きっと僕は同じ表情をしている。 「紹介するよ、これが僕のホグワーツにいた頃からの親友の………」 「………ウィーズリー、か」 070726 二次元では、勉強は出来ても頭悪い人が好きです。 → |