27(H)













 休日は、一日目は比較的時間は早く過ぎた。

 僕はソファに寝転んで雑誌を読んだり、箒の手入れをしている風を装って、彼を眺めていたり。彼も紅茶を飲みながら、なにやら難しげな薬学の本に目を通していて、時々会話もあった。
 僕が想いを隠している限りは、彼は僕に笑いかけてくれるということがわかった。きっとまた僕が好きだと言えば彼は困ったような笑顔を浮かべるんだろう。せっかくの休みにそんな顔は見たくなかったから。友達でもいいんだ。彼の笑顔が見れるなら、僕はそれでいい。近くにいてくれればいい。
 彼が部屋に戻ろうとすると、僕は彼に用を言いつけたりして……お腹がすいたとか、喉が渇いたとか……彼はその度に嫌な顔一つしないで僕の我侭を聞いてくれた。
 夕方になると夕飯の買出しに行くというから、僕はついていった。彼を一人にしたくなかった。この二日間は、僕は彼から目を離したくなかった。だから一緒に買い物に行って、一人ではちょっと重くなるだろうと思える量の野菜を買った。

 僕が、こうやって想いを閉じ込めて、友人として笑っていることが出来れば、彼は僕のそばにいてくれる。
 でも……本当に、君がそうやって近くにいて……触れたいんだよ。
 抱きしめたいんだ。キスをしてもいい?

 そんなこと……聞いたらきっと困ったような顔をするんだろうね。
 それでも僕は……。
 君が好きなんだ。

 隠していれば、僕はまだ幸せでいられる。
 それでも、伝えたくて……。

 会話をすれば、笑顔も出たけれど……すごく、辛いんだ。






 二日目は、一日朝から雨が降っていた。

 昨日と同じように、一日居間でのんびりとしていた。相変わらず彼は難しい本を読んでいて、少し覗いてみたが僕にはさっぱりわからなかった。高等薬学で、ホグワーツに居た頃授業で少し齧った所もあるようだったけれど、あの教科に関しては特に、試験やレポートの提出が終わるや否や僕の記憶からは抜けてしまっていた。きっと教授を毛嫌いしていたせいもあるかもしれない。
 チェスをしようと誘うと、彼は乗ってきてくれた。ただ、勝負は彼の圧勝で、再戦を申し込む気もなれなかった。
 夕方になると、雨がまだ降っているのに、彼は昨日買った大量の野菜があるにもかかわらず、買い物に行くと言い出した。あるものでいいよと言ったのだけれど……何だろう、外に行かなきゃいけない理由でもあるの? そう、訊けなかった。訊きたかったけど。それでも僕がついて行こうとすると、彼は、じゃああるもので済ませると言った。僕についてきて欲しくない理由でもあるの?

 一度、不審に思ってしまったからか……何か彼が隠しているようで仕方がない。
 きっと、彼は嘘をついている。

 何か……。

 嘘を、ついていてもいいんだ。君が笑ってくれていれば。


 それでも、僕は本当の君を知りたいんだよ。




















 夜、雨音がうるさい。激しく窓を打つ。久しぶりの大雨だ。

 布団に入り、ぼんやりと天井を見た。考え事は取り留めなく浮かぶ。
 明日は晴れるだろうか。明日は隣の町でロンと会う予定だから。その後、僕の家に来る予定だ。明日は寒くなるだろうか……何を着ていこう。


 何か楽しみだということもある。ロンは彼を見てなんて言うだろうか。
 僕が好きな人なんだ。きっと、まず呆れるだろう。ロンに言わせると学生の頃から僕はどうにも面食いだったようだから。確かに学生の頃から、僕は構内でも有数な美女として有名な女の子ばかりがどうしても目に付いた。恋人になることが出来たのはその中の何人かだけれど。付き合うたびにロンは呆れた目をしていた。
 卒業してからも、僕の連れている女の子を見るたびにロンもハーマイオニーまでも、渋い顔をしていた。
 二人にそういう目をされた時に、長続きしたことは一度もない。というよりも、二人に合わせたことがないという時点で、すでにほとんど付き合いがなかったことになる。実際僕が一人の人を長く想っていたことはほとんどなかった気がする。長くて、一年。
 今回は、呆れられる以前の問題だとは思ってはいるが……それに、まだ僕は彼と恋人になっているわけでもない。

 それでも、僕は早くみんなに見せたいんだ。彼を。
 自慢したいんだ。
 僕の宝物。




 僕は……彼をどのくらいの期間、好きでいたのだろうか。
 記憶を失ってしまった今となってはわからないけれども。もし、僕が彼とであったのがこの家のリビングでないとするならば……僕はどのくらいの間彼を好きでいたのだろうか。
 記憶がないのがどのくらい前からなのか、良くわからない。いつも僕が夜何をしていたのか、本当に覚えていないんだ。真っ黒。何だろう、これは一体。
 こんなに綺麗に記憶がなくなるなんて。まるで、何かの呪いにかけられたかのようだ。
 本当に、僕がなくなった記憶の間に彼がいるのかは僕にはわからないけれど……でも、きっといた。

 あの時、彼が泣いたから。
 僕が、初めて見た時に……それは彼にとっては初めてじゃなかったのだろうけれど……あの時の涙は、きっと本当だったと思う。




 うとうとと……





 今日も、彼の笑顔を見ることが出来た。

 一日、今日はのんびりと家に居た。


 こんな休日もたまにはいいかもしれない。



 ………。








 物音が、した。


 静かに……パタンと、扉が閉じた。
 彼の部屋の方から。

 どうしたのだろうか。

 眠れないのだろうか?

 こんな嵐だ。うるさくて眠れないのかもしれない。僕のようにどこででも寝られるような育ちをしていない、ように見えるから。
 寮で生活していたといっていたけれど……。
 寮でも……色々あるから。学生の頃、僕達のグリフィンドールはは窓から外が見えたけれど、スリザリンは地下にあったようだし……そういう場所では、こんな嵐の中、うるさいかもしれない……。まあ、そうじゃないのかもしれないけれど……。

 早く、寝なよ。もう遅いよ。
 眠れないのなら、ミルクがあったから、温めてあげようか?









 そして、玄関の方から、扉が閉まる音………。





 ………?


 外に?


 こんな雨の中?


 どこに?







 どうしたんだろう? 雨が酷い、遠くには行かないと思うけれど。
 それとも聞き違いだろうか?


 僕はベッドから抜け出した。
 

 外に出たのは聞き間違いかとも思ったが、一階は明かりもついておらず誰もいなかった。
 空耳だとも思えなかったが、彼の部屋を覗いてみたが、ベッドには誰もいなかった。




 どこに? こんな雨の中?











 誰かに会いに行ったの?








 家の周りを一周してみたけれど……こんな雨の日に人の気配なんかはしなかった。












070714