1(H) 「お早う、ハリー」 目を覚ますと僕の大好きな白銀の麗人が、何も身に着けていないまま、カーテンを大きく開いていたところだった。 眩しい光に部屋が満ちる。 ずっとドラコは目が見えなかったから、この家はずっと暗かったけど、目が見えるようになってから彼の部屋は光で溢れるようになった。 僕はのそのそと起き上がりサイドテーブルの上の眼鏡を探す。 「今日は良い天気だな。絶好の試合日和だ」 眼鏡をかけると視界がクリアになる。君の笑顔もよく見えるようになる。 眩しくて、白い君はほとんど自らが光っているようだけれど。笑顔は嬉しい。 「おはよ、ドラコ」 「お早う」 そう言って僕のそばに寄ってきて、僕にキスをする。 お早う、と行ってらっしゃいのキスはドラコから。ただいまとお休みのキスは僕から。 「今日はホワイトアックスとだったよな?」 「うん、そう」 僕は自分の家があるのにドラコのうちにほとんど住んでいる。ドラコが荷物を移動させるのが億劫だと言う理由だけでドラコは僕が買った広い家に住もうとはしない。ほとんど持ち腐れだ。 僕が欲しかったのは家族で、家はその象徴のように思っていたので僕は自分で稼げるようになってからお金をためてすぐに家を買ったけれど、でも一人でいるのは意味がないんだ。 好きな人がそばにいないと、どこに住んでたって意味がないんだ。 だから寝食はほとんどこのドラコの家だけれど、この家は狭い。もちろん僕が育った階段下とは比べるつもりもないけれど、それでも狭い。狭い上にドラコの蔵書の量は半端ではないし、服も多い。そして何よりも厄介なのがドラコが仕事部屋と呼ぶ実験室にある薬品の数々と器具の数々。 家は物が半分を占めているし、薬品には衝撃に弱い物もあるので、簡単には移動できない。それに僕は学生時代、薬品の扱いは常に最悪の評価だった。だから荷物を僕が扱うのはほとんど無理だし、ドラコも面倒なので嫌だと言う。ドラコは僕の家に来ないし、僕がこの家に住むにしても僕の荷物を置くのは不可能だ。僕が遠征試合の度、ドラコにプレゼントをたくさん買ってくるのも問題なのかもしれないけど。数日分の着替えくらいだ、僕の私物は。 一緒に暮らしたい。 ただあまり今と変わらないだろうけど。自分の家との往復の時間も一緒にいたいって言ったら笑われた。まあ、歩いて十分くらいなんだけどね。 でも一緒に暮らすことができたら良いなと思う。 ドラコが僕の帰りを待っていてくれる。それが同じ家なら良いなと思う。 だってそれってほとんど家族じゃないか。 「ニコラスのチームだな」 「うん、そう」 ドラコの目が見えない頃僕が偽っていた名前。 ドラコは僕をずっとニコラスだと思っていたから。ドラコにとっても思い入れの深い選手なんだろう。 「彼は元気か?」 「うん、そう」 まだ頭が働いていない。 最近会っていないけれど、ニコラスは元気だろうか。 ドラコが思い入れが深いのはわかるけど……やはり僕以外の人間に興味が向くのは面白くない。 なんとなく不機嫌な顔つきになっていく僕の顔をドラコは苦笑して見つめていた。 「今日の試合に勝ったら、お前の家に住もうと思っているんだが……」 「うん…………えっ?」 寝ぼけていた頭が突然クリアになる。 クリアになって邪魔な思考能力もすっ飛ぶ。 「勝ったらだけどな」 「勝つよ」 「そんな簡単に言うが……」 そりゃ簡単じゃないけど。プロなんだから勝敗で年俸も決まってくるし。必死なんだから簡単に勝てるわけでもないけど。 「大丈夫、知ってるでしょ、最近僕が絶好調なの」 ドラコが応援してくれて、勝つと自分のことみたいに喜んでくれて、夕飯が豪華になったりして……。勝たなきゃ。 喜んでもらいたいから。ドラコの笑顔を僕が引き出したいんだって思ってから、もともと優秀な選手だった僕の成績はうなぎ登りなんだけど。 ドラコと一緒に暮らせると言う餌を目の前にぶら下げられたら勝つ以外ないでしょ。 「調子に乗って怪我でもしないことを期待しているよ」 彼の毒舌は相変わらず。 それでも、気持ちが通じてからはそれでも心地がいいんだ。 試合中に、僕はスニッチを見つけた。 試合開始からまだ交戦中で両チーム得点ゼロ。 観客席から大きな声援が聞こえる。 敵のシーカーはまだ気付いていない。 知ってるでしょ、絶好調なんだよ、君がいてくれるから。 キラキラと光るスニッチ。太陽を浴びて、輝く、星みたいに。 僕は急上昇をした。 みんな僕の目が悪いだなんて嘘だと言うけど本当に眼鏡がないと何にも見えない。 でも綺麗な物を見つけるのは自信があるんだ。 誰よりも何よりも僕は綺麗なものを手に入れた。 もっと。 離さない。 逃がさない。 ドラコ……。 君は僕のものなんだ。 急上昇を続け、スニッチが急に方向転換。 僕も慌てて向きを変える。今度は急降下。落下よりも早いスピードで。 敵チームのシーカーも気付いたようで、僕の隣をマークする。 僕はそのシーカーを振り切るように、急な方向転換を繰り返しながらスニッチを追う。 負けないよ。 僕は。 君をもっと手に入れる。 スニッチに追いつく。 手に入れるんだ。 ドラコ。 「ハリーっ!」 キャプテンの叫び声、地上すれすれだから。 大丈夫、このくらい! 横を暴れ玉が、その時に気付いた。 暴れ玉が僕を狙っていた。 避け切れないっ! ――調子に乗って怪我でもしないことを期待しているよ ―― ああ………。 強い衝撃。 痛いと思う暇もなく僕は地面に叩き付けられていた。 暗転。 070514 ⇒(D) |