17(H)















 眩しい光。

 朝だ。


 ……結局あまり眠れなかった。



 ニコラスは、シャワーを浴びて来たのか、濡れた髪のままタオルを首からかけて僕のクローゼットを漁っていた。朝日を浴びて彼の髪と肌がきらきらと、まるで自らが発光するかのように光っていた。

 僕は、寝たふりをした。

 寝ていれば、君が起こしてくれることを知っているから。少しでも君の気持ちが僕に向いていて欲しいから。


 もっと見ていたいけれど。


 微かな足音。部屋の絨毯の毛足は長いから、あまり足音はしないけれど。



 こうやって眠っていれば、君が起こしてくれる。

 さらりと、彼の指が僕の頬にかかる。

 何だろう。

 いつもは声をかけるだけなのに。
 彼の指先が僕の輪郭をなぞる。
 目とか、唇とか……。

 額と、そこにある傷や………彼の指先が僕をなぞる。指で僕を確かめるように。

 気持ちがいい。
 ただの接触なのに。

 気持ちが昂揚する。
 ねえ、何をしているの?


 それは昨日僕が君にしたかった事だよ。


 このまま抱き締めてしまいたい。抱き締めて、僕の腕の中に閉じ込めてしまいたい。

 君は僕のこと………



 もしかして、僕達は……






 ねえ、ずっとここにいてよ。

 ずっと僕のそばにいて。

 手を伸ばしかけた時。











「ハリー、お早う。朝だ」




「…………お早う」

 まさに狙いすましたかのタイミングだった。
 邪魔をされたのか、助けられたのか………


 目を開くと、相変わらず眩しい。光が眩しいのか彼が眩しいのか僕はいつも戸惑う。
 今日のニコラスの服はヴィンテージ加工されたブルージーンズと赤のロゴ入りのトレーナー。僕がよく着る組み合わせ。相変わらず似合ってない。バランスが悪いんだよ、君の顔はみるからに高級なんだから。


「朝食の用意をしておくから、着替えて顔を洗って来い」

 いつもように尊大な口調だけど、その声の柔らかさがキツさを打ち消す。

 僕は言われた通りに着替えて顔を洗って、ダイニングに向かう。
 座るとすぐに、ベーコンとスクランブルエッグとトーストが並べられた。





「今日は早く帰って来れそうなんだ」

 トーストにバターを塗って渡された。

「練習じゃないのか?」
「うん。ミーティングとその後雑誌記者が来るから、少しインタビューを受けて、そしたら自主練習だから、早めに切り上げて帰って来ようかなと……」

 きっと今日は日が沈む前までには帰って来れるだろう。
 今日はニコラスとのんびりできる。昨日はアルバムを見せて、一昨日はトランプゲームをした。
 今日はチェスをしようか。

 時間はたっぷりあるんだ。この前買って来たワインを開けよう。

 そうして……今日は君に……。

「インタビューを受けるのか? 写真は?」

「不本意だけどね」

 上の方でどんなふうにお金が動いているのかわからないけれど、オーナー様のたってのお願いだから聞き入れないわけにはいかない。学生の頃と違って、ちゃんとギャラも貰えるし。

「ハリー、食べ終わったらちょっと頭を貸せ」

「は?」

「そんなボサボサで写るつもりか? 試合中以外のハリーが写真に写るなんて滅多にないんだからきっと一面トップか表紙に載るぞ。お前はかっこいいんだから、なんで櫛を入れないんだ」

「面倒だし………」


「梳かしてやるから、さっさと食べ終えろ」


 顔が………。






 今僕のこと、かっこいいって言ったよね。

 君にそんな風に思われていただなんて、僕は嬉しくて緩む顔を押さえるのに必死で変な顔になってしまうよ。

 やばいなあ……。

 そう言ってくれた女の子は今までに何人もいたけど、かっこいいと言われたならその評価に合うように努力するのに必死だったけど………。

 ダメだ、今僕は絶対に変な顔になってる。










 ニコラスに頭を触って貰って、髪を梳かされる。

「久しぶりに梳かした気がする」
「毎日するものだ」
「ニコラスなんかサラサラだからあんまり必要ないでしょ?」

 触れられているのが気持ち良くて。

 僕の気分は上々。
 今日のインタビューも写真も笑顔で受けられそうなほどだ。

「僕だって髪ぐらい梳かしている。お前の髪質は特に堅いんだから、毎日梳かせ」

 櫛で、梳かされるついでにニコラスに触って貰っているのが嬉しい。

「お前は本当に昔から変わってないな」

「……スイマセン」

 朝髪を梳かさない習慣はホグワーツに行く前からだ。


「ほら。できたぞ」

 鏡を前に出された。
 珍しく僕の髪が重力に従順だった。

「ニコラスはこっちの方がかっこいいと思う?」
「最近限のマナーだと思う」

「スイマセン」

 まあ、ニコラスがいつもより明るい笑顔だったから……。たまには梳かしてみるのもいいかもしれない。




 今日は、ニコラスに、想いを伝えようと思う。

 気持ち悪いと思われたら最悪だけど……そう思うと少し決意が鈍るけど…。
 さっき君は僕に触れていたよね?



 気持ちを受け入れて貰えなくても、それでも伝えたい。

 今日じゃなくても、きっと溢れてしまうから。










『お前は本当に昔から変わってないな』


 いつの、僕の事か気になったけど、家を出てからだったので帰って来てからで良いと思い直した。








070614