16(H) 「あれ?」 いい加減に寝ないとまずい時間になったから、このままニコラスの顔を眺めたまま朝になりそうだったから僕は着替えて、明かりを消そうとした時に、彼の声がした。 「なんだ、起きたの?」 振り返ればぼんやりと天井を見つめているニコラスの姿があった。さっきまで閉じられていた瞳は開かれて、宝石のような青灰色の瞳が見えた。 「すまない、寝てしまったのか」 もぞもぞと、布団の中から這い出そうとしていて、その動作が酷く重たそうだった。 「部屋に戻る? 運んであげようか?」 本当は僕の隣りで眠って欲しいんだけど、部屋に戻ると言うのなら仕方がない。僕はそれを止める権利すらない。 「いい、眠い」 ニコラスは少し起こしていた身体を、彼は再び布団の中に沈めた。 そのままもぞもぞと動いていたけれど……。 僕の顔はゆるんでいた。 気位の高い猫のようで、半端な事じゃ近くで寝てくれないような気がしていたから。僕の隣りで眠ってくれるのは、僕を信頼しているからなんだよね? そう、思っていい? 「もし、ハリーが気になるのであれば部屋に戻るが……」 そんな事に無駄に気を使わないで欲しい。 僕の隣りにいて欲しいんだ。だから僕は慌てた。 「気にならないよ。どんな騒音の中でも眠れるし、けっこう寝相は良い方なんだ」 そんな言い訳で、ニコラスは安心してくれたかな。 僕の隣りで眠ってくれるかな。 僕の隣りは落ち着くと思ってくれるだろうか。 もし、僕が彼の事を忘れていない時僕達の仲が恋愛感情で繋がっていたとしても、彼は寝顔なんかを誰かに見せる事はないと思っていたから。 よほど信頼している相手じゃないと、近くで眠ってくれないと、そう思った。 すごく、ニコラスは繊細そうに見えたから。 「なんか意外」 「何が?」 僕がぽつりと呟くと、ニコラスは眠たそうな声で律義に返事を返してくれた。 「ニコラスって、繊細そうだから人前であんまり眠らないような気がしたから」 だから、僕のベッドで寝てくれるだなんて、意外だった。 だって僕たちは友人なんだろう? 隣で眠ってくれるぐらい、信頼されているんだ。 「ああ、学生の頃は寮で生活していたから、慣れた」 ………僕が彼のことを教えて貰ったのは初めてだ。 僕達の関係についても本当か嘘か怪しいものだし。その物腰から、彼が庶民の出身ではないことくらい簡単に想像がつくから、家出をして来たというのは信憑性はあるけれど……それでも何一つ、彼について僕は教えてもらっていなかった。何が本当なのか、僕にはわからない。 でも、今言った事はきっと本当なのだろう。 こんなに眠たそうだし。こんなことまで嘘をつくとは思わない。 「ニコラスって、どこの学校に行ってたの?」 ちょっとした疑問。 別に大したことじゃないけれど。 ただこの辺りはホグワーツの出身が多い。 一緒の学校だったら、それで話が合うと思っただけなんだけれど。ホグワーツは、生徒数も多かったから、一学年違えば顔も見たことがない人なんか大勢いるから。 そういえばニコラスの年齢は幾つなんだろう。そんなに変わらないと思うけれど。 「…………」 ニコラスからの返事は、しばらく待ってもなかった。 眠ってしまったのだろうか。 「ニコラス?」 「ハリー、狭いんだからもう少しそっちに行け」 突然ニコラスが転がって来て、僕の身体を背中で押した。 唐突な接触に僕の心臓は止まるかと思った。 「なんだよ、ニコラスの方が広く開いてるじゃん」 セミダブルだから、広いベッドではあるが、成人男性二人が快適に眠れるほどの広さではない。くっつかないように、僕はなるべく端に寄っていたと言うのに。 ニコラスが動いたらくっついちゃうじゃないか! 「僕はベッドの真ん中でないと落ち着いて眠れないんだ」 これは僕のベッドだと思わないこともないけれど……君が僕の隣で寝てくれるだなんて。初めて人を好きになったときのように、恥ずかしい気分がするよ。 「仕方ないなあ」 君に我が儘を言われるのが嬉しいんだ。僕に甘えて欲しいんだ。 でも、あんまりくっつかないでよ。 僕の心臓の音がばれてしまいそうだから。 彼が寝息を立て始めたのはその後すぐ。 僕は彼が動く度に心臓が跳ねて、ようやく眠れたのは、空が白み始めてからだった。 彼は寒いのか、徐々に僕の方に移動して来た。僕はぎりぎりまで端に寄る。これ以上近くに寄ったら僕が落ちちゃうよ。 君が好きなんだよ。 そんなに信頼しないでよ。 襲っちゃうよ? 070613 → |