13(D)




















 気がついた時には、僕はベッドに寝かされていた。



「あれ?」



 体を起こすと、ハリーはまだ起きていて、パジャマに着替えていて、明かりを消そうとしている時だった。


「なんだ、起きたの?」
「すまない、寝てしまったのか」

 ハリーの体温が心地よくて、僕はハリーの肩を借りてついうとうととしていたようだけれど……そのあたりから、まったく記憶がない。ずいぶんとしっかり眠ってしまったようだ。

「部屋に戻る? 運んであげようか?」
「いい、眠い」

 本当に、眠かったから。

 最近、あまり眠れなかったし。
 あまり……ずっと一人で寝ていて、一人で眠るのには馴れていると思っていたのだけれど、やっぱりハリーが隣にいてくれないと上手く寝れないんだ。
 最近、あまり上手に眠れなくて……
 ハリーが隣にいたから……。

 眠い。








 ………………。






 いや、やっぱり戻った方が良いだろうか……!

 戻ったほうが良いのだろうか、ではなく、戻るべきなんだ。
 友人は、あまり同じベッドで寝るものではない気がする……。

 それに、僕がここまで来た記憶はない。ハリーに運んで貰ったのだろうか……。恥ずかしい。


「もし、ハリーが気になるのであれば部屋に戻るが……」
「気にならないよ。どんな騒音の中でも眠れるし、けっこう寝相は良い方なんだ」

 知っている。
 寝ている間はハリーの方があまり動かない。寝返りは打つけれど、大して邪魔にもならない。別に僕の寝相が悪いわけじゃないと思う、多分………あまりベッドから落ちないし。





 まずいかもしれない。




 僕達は今はただの友人なんだから。

 まずい。


 ドキドキしてきた。


 同じベッドで眠るのには慣れているけれど。最近ずっと一人だったし……。
 くっついて眠るのがいつもだったし………。


 寝ている間にうっかりとハリーに抱き付いたりしないだろうか……。

 不安になって来る。寝ていて寒くなると、無意識にハリーにくっついているから。


 ハリーに背中を向けるように丸くなる。





 明かりが、消された。


 鼓動が早くなる。


 暗くなると……ハリーがいつも優しい声をかけてくれて、優しく触れて来てくれる。
 期待してしまう、そんなことあるはずないのに。


 だって、僕たちは今友人なんだ。








「なんか意外」


 布団に潜り込んでしばらくして、ハリーがぽつりと呟いた。

 聞こえないくらいの小さな声だった。もし僕が眠っていたら邪魔にならないぐらいの、無視してしまっても大丈夫なくらいに小さな声。


「何が?」


 僕の目は冴えてしまったから、返事をする。ただ、眠そうな声は装わなくても自然と出た。


「ニコラスって、繊細そうだから人前であんまり眠らないような気がしたから……」



「ああ、学生の頃は寮で生活していたから、慣れた」

 クラッブとゴイルのいびきは酷かった。あのけたたましい騒音の中でも寝られるようになれたのだから、慣れとは恐ろしい。
 眠くなれば、ベッドがあれば眠れる。

 ただ、最近はハリーがいないと上手に眠れないことがわかったけれど。ハリーが一緒に隣で寝てくれないと、眠れるのだけれど、物音で起きてしまったり、明け方までぼんやりとしていたり……。




「ねえ、ニコラスってどこの学校に行ってたの?」







「…………」


 うっかりと、口が滑った。


「ニコラス?」


 今の僕の言葉にはハリーの質問は適切なものだとは思うが……
 答えられないよ。

 僕が嫌われる可能性は排除したい。
 僕がマルフォイであるだなんて、ハリーに知られたくないんだ。





「ハリー、狭いんだからもう少しそっちに行け」

「なんだよ、ニコラスの方が広く開いてるじゃん」

「僕はベッドの真ん中でないと落ち着いて眠れないんだ」
「仕方ないなあ」

 もぞもぞと動いて……。

 ハリーの温度が残っている。暖かい。ハリーは体温が高いから。




 本当は、くっついて眠りたいんだ。
 ハリーに抱き締められたいんだ。
 キスしたい。触れたい。



 これで、僕が寝相が悪くてハリーに触れても、きっと変じゃない。きっと変じゃないんだ。


 大丈夫。




 もう少しでいいんだ。

 あと、少しの間だけ………ハリー、おまえのそばにいたいんだ。











070608