9 夜、彼は月明りの下にいた。 ここは誰も来ない。誰も来れないと言うべきか。 誰にも見つけられない場所。 箒で来ることができる。 ただ、よほど箒の扱いが上手くないと屋根の上のこんな場所に来ることなどできない。建物と建物にぶつかった風が吹き荒れているから、誰も来れないし、来る事が出来たとしても、こんな場所を探そうとは誰も思わないだろう。僕達なら、来る事が出来る。 僕が見つけた場所。 僕がこの場所を見つけて、僕が彼に教えた。彼はここから見える何にも遮られない大きな月がとても気に入ったようで、嫌なことがあると彼はここで一人になる。 月明りの下。 何かに失敗したり、嫌なことがあると、彼はここに来た。 今日、僕はまた失敗してしまったから。 君に触れてしまった。誰もいなかったから………。不意な動作。そんな言い訳が通用するとも思いがたいが。 箒はその辺に適当に転がっていた、彼はその側に膝を立てて座っていた。 掃除のされないような場所には決して触ろうともしないのに、彼は気が向いた場所に……例えば芝の上や木の枝などに……気軽に腰を下ろしすことがある。 ぼんやりと大きく楕円をした月を見る横顔を、僕は彼が月を見るようにぼんやりと視界に入れた。 月明かりを浴びて、君はとても小さく見えた。 |
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