性的な描写が含まれます
苦手な方・十六歳未満の方は以下はご覧にならないで下さい。
































 彼が無理矢理身体を起こした。
 壁に背を付いて立ち上がるけれど、本当に辛そうだ。膝が、ガクガクと、震えていた。

 僕は……。

 こうやって動けない彼を見て僕は楽しいと感じるべきなのだ。ざまあみろと思い、彼を見下すことが彼に許された唯一の僕の態度だ。
 けれど、彼が苦痛に顔を歪め、細い肢体を奮い立たせて、壁に沿って身体を這わせて歩いて行くので。



 ――その内腿に伝う白い筋。


 どろりとした液体が彼の足を伝った。










 洗わなくては。



 早く、彼を綺麗にしなくてはならない。






 彼が汚されてしまったから。
 彼は綺麗なままでないといけないんだ、だから。




 僕は、こんなになっても僕のことなんて気にしない彼の身体を抱き上げる。

 急なことで驚いたのか、彼は僕のシャツを掴んで僕の胸に顔を寄せた。

 いつもの彼の身に着けている香水がふわりと香った。


 抱き上げた身体は予想していたよりもはるかに軽かった。身長は大して僕と変わらないくらいなのに、彼の方が小さく見えるのはこんなにも痩せているからだ。


 抱き上げたまま、彼を奥のシャワー室へと運ぶ。
 シャワー室の扉を足で蹴り開いて、彼を抱き上げたままコックを捻った。

 熱めのお湯が彼の身体と僕を濡らしていく。

 白い肌を水滴が打つ。湯気とで、世界が白くなる。







「ポッター……」

 彼が僕のシャツの襟元を掴んだ、その指先が震えていた。

 いつも気丈な彼が、震えていた。

「立てる、マルフォイ?」

 彼の顔に僕の顔を近づけてそう訊ねると、彼は力なく首を横に振った。

「身体を洗うから、立って。僕に掴まっていていいから」

 僕はそっと彼の身体を床に降ろすと、彼は僕の身体に腕を回した。
 もう決して彼の腕は僕には回されないと覚悟していた彼の腕は、すんなりと僕の首に回された。

 僕はその首筋に唇を落とす。白く、薫り立つ。
「ポッター!」

 鋭い声が上がった。これは制止の声なのだろうけれど……。やめろとは、言われていない。唇で触れるなと、そう命令されているわけじゃない。

 白い肌。陶磁器のように、白く。


 ああ……
 眩暈がしそうだ。


 誰かに抱かれたばかりだと言うのに、誰かに触れられて汚されてしまったのに、君はこんなにも綺麗。

 唇で彼の首筋に触れる度、彼が微かに溜め息を漏らした。足が震えて、僕の首に回された腕に力が籠るのがわかった。


 僕は、彼の白く滑らかな背を骨に沿って手を沿わせた。しっとりと吸い付くような手触り。

 僕は、彼を洗ってあげなくてはならない。汚されてしまった。綺麗にしないと、君は、綺麗じゃないといけないんだよ。

 両手で、夢中で彼の身体中に手を這わせる。
 洗わなくては。
 濡れてしまった髪に指を差し込んで、頭から、首を、背を、僕は自分の手の平を使って彼の汚れを落とす。
 僕が、触れることで彼が汚れればいい、そう思うのに……僕にも染まってはくれない。


 柔らかな曲線で弧を描く腰のラインを何度も往復すると、彼は僅かに腰を揺らした。

 さっき、男のものが差し込まれた入口を指の平で触ると、きゅっと力が入る。
 知らない奴を受け入れた。

 僕が知らない誰かが、君に触れた……。

 怒りで、頭が沸騰しそうになる。このまま、僕で埋めてしまいたくなる………。






「ここ、自分で洗う?」

 僕になんか触れられたくないかもしれない。僕は彼に触りたくて仕方がないと言うのに。


 もし、僕があの二人に変われるものなら変わりたかった。僕が、君に触れたかった。
 僕しか、君に触れちゃいけないんだ。


「……お前が」


 そう、彼が呟いたから。
 彼の声はこんなに力が無かっただろうか。

 僕は指先に力を込めて、指を一本だけ中に沈ませた。

「……っあ」

 驚くほどすんなりと中に入り込み、彼は背を反らせた。
 中はいやらしくぬめっていて、くちゃくちゃと濡れた音が聞こえてきそうだ。指先に絡む感覚は、僕を苛立たせた。僕のじゃない………。


 指を動かす度に、彼の身体が跳ねる。

 中から他人の液体が出て来る。
 これは、僕のじゃない。


 僕だって、この身体を抱き締めたいと思っていた。

 抱き締めて、キスをして、身体中に痕を残して、僕のだって。




 あの二人と僕はかわらない。きっと同じだ。

 ただ……僕の方が我慢強かった、ただ僕の方が彼に嫌われるのが怖かった、それだけだ。


 彼はようやく僕の肩に掴まっているだけで、僕が指を動かす度に彼の頭がのけ反って白い首筋が露になる。
 そこに、誰かが付けた赤い痕。

 僕は祈る様な気持ちで同じか所に唇を寄せて、その上から肌を吸った。強く肌を吸うと痛みがあるのか、彼は小さな呻き声を上げた。
 でも、僕の痕にしたかった。
 彼が、その痕が誰のものであろうと、きっとただ屈辱を感じるだけなのだろうが。
 でも、だからこそ。僕を、彼の上に残したかった。





「僕に掴まってて」


 耳に声を吹き込むと、彼はゆっくりと、僕の首にもう一度その細い腕を回した。
 彼はすでに身体中の力が入らずに、僕が彼の腕の下から背に回した腕に体重をかけている程度だった。


 彼は素直に、彼は僕の声に従った。

 僕の身体にすがりつくようにして、僕に身体を預ける。体重を、僕に預けて、その体温を僕に伝えてくれる。まるで、信頼でもされているかのような錯覚。

 信頼は、されているのだろう、実際。


 僕は彼に対して優しくしない。
 彼に対して興味を持たない。僕は、彼を嫌っている。そんな信頼。





 そう確約した。



 だから、僕は唯一彼と対等な立場でいることができる。
 彼の前でも後ろでもなく、上でも下でもない場所に並ぶことができるのは、その約束のおかげで、僕一人だけなのだから。


 僕のじゃない誰かの、彼の中に吐き出された体液を掻き出すように、彼の中をもっと奥に、指を増やして動かすと、彼は大きな声を上げて僕の濡れたシャツに額をすりつけた。

 服が水を吸って動きにくい。

 シャワーから、熱いお湯が出る。僕たちの肌にぶつかり、細かい水蒸気になって視界を湯気で白くする。


 僕が指を動かすたびに、断続的に彼の声が僕の耳元で聞こえる。

「んっ、ぁ……」
 指を動かしていた時に、ある一点を掠めると、途端に彼の声の質が変わった。今まで痛みに対して、侵入する異物に対して我慢をするだけ、押し出されたような呻き声だったのに。
 鼻に掛かったような、甘い声。



 もう一度、同じ場所を指で探る。

「んぅ…あ……」

 彼は自分で自分を支え切れずに僕の身体を伝ってずるずると崩れて行くから、僕は彼の身体を抱え直す。



「……ポッター、もう……いい加減に」


「まだだよ」

 僕の声は、冷たかっただろうか。硬質な響きを持っていただろうか。僕の声に甘さは滲んでいなかっただろうか。
 僕が彼にしてあげたいとは思われてはいけないから。
 僕は、君のためにこんな事をしているんじゃないと、そう思ってもらわないといけない。優しくしてはいけない。

 そうだよ、これはただの嫌がらせなんだ。


「まだ、駄目だよ。動かないで、マルフォイ」

 まだ、綺麗にしきれていない。
 彼は汚れていてはいけないのだ。








 僕以外に触れさせたくせに。





 僕以下の奴に触れさせたのに。








 彼の赤い唇から漏れるのは熱く湿った声。
 乱暴に中を掻き混ぜると彼の声が水音と一緒にシャワールームに高く響く。




 僕の足の辺りに、強く当たる感触。
 ああ、感じているんだ。

 後ろを触られただけで。
 僕の指で。





 僕は穴の中を動かす指に力を入れ、彼の足の間に僕の足を割り込ませた。
 足でも支えてあげないと、彼が崩れてしまうから。崩れたら、洗いにくいでしょ? そう、彼に訊かれた時の言い訳も用意して。


 気持ちよくなって欲しいんだ、僕で。

 僕だけで……。





 僕が指を動かすと彼は僕の足に腰を擦り付けた。
 そうやって自分から動いている。


 ねえ、気持いい?



「あ、っん! あぁ……」




 彼の声が一際高くなって、一瞬、ぶるりと身体を震わせた。


 足に熱い液体がかかった。服の上からでもわかる。



 ――イったんだ……





 彼は僕にすべての体重を預けて、動かなくなった。僕の指が入っている場所だけが、痙攣して僕の指を締め付けていた。






「もう、いいかな」



 彼はくたりと僕に身を預けたまま動かない。そのままずるずると、僕の身体を伝って重力に従う。



「もう、いいよ」

「………」


 ここで、彼を放せばそのまま座り込んでしまうだろう。そうやって彼を放って置いた方がいいのだろうか。

 どうすれば彼に気に入ってもらえるのか僕はわからない。



 でも、待てと合図を送られたから。




 今僕は彼に必要とされているはずなんだ。
 あれは、きっとそういう意味だったんだ。彼は僕を必要としていたんだ。たとえ、こうやって彼の身体を洗うだけだったとしても、ただ使われるだけだったとしても、僕は必要とされていたんだ、きっと。



 彼が僕に何を求めているのかわからない。






「ねえ……」
「このまま」

 僕が、話し出す前に、彼がその声で遮った。


「…………」

「黙っていろ。あと少しでいい、このままで………」




 彼の声には、いつもの強い命令の響きは籠っていなかった。




 これは……。



 懇願?




 僕は、こんな彼を知らない……いや、知らないはずがない、僕は……。
 僕は、誰よりも君を理解しているんだ。






 だから、
 こんな彼を僕は認めてはいけない。

 これは、君じゃない。











 彼はシャワーで濡れてぐしゃぐしゃになった僕のシャツと肩を握り締めて、いる。
 握った手が微かに震えていて。




 微かな嗚咽が漏れた。





 ……泣いている?




 僕は彼の明るい髪しか見えないけれど。


 下を向いて。
 僕の胸に顔を押し付けて。



「ねえ……」

「………お前が今日、ここで、あったことをすべて忘れることを誓え」


 低く響く声。


 絶対的な強制力。



 これが、彼だと僕は知っている。

 常に強く、凛然としている。

 声は震えていたけれど、それでも、強く抵抗しがたい響き。





「うん、忘れてあげる」









 今日の事は、すべて忘れよう。



 彼の事も。



 僕の事も。
















070407