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大広間で、朝食の時間。 僕が入って行くと同時に、不躾な好奇の視線を浴びた。 どうやら、みんな知っているらしい。 スリザリン生にもハリーの姿をしたままの僕が部屋に戻る姿は何人にも目撃されているし、ハリーを心配して何人ものグリフィンドール生があの場にいたし。 まあ、逆に知られている方が気を使わなくていい。 僕はひそひそと囁かれる声の中、いつもの僕の場所に向かった。 イライラしながら朝食をすすめると、いつもの場所に僕の姿をしたハリーを見つけた。 ってゆうか、多分はリーなのだろう。いつも通りのハリーの行動だ。たぶん間違いない。 ただ、姿は鏡で見る自分と同じだから……まあ、やっぱりあれがハリーなんだろうけど。 本当に、イライラする。 いつも通り赤毛やら栗毛と喋るのか食べるのか、どっちかにしろと言いたくなるような食べ方で、いつもはただの嫉妬でイライラしているんだけど、今日は………。 あいつはそれが僕の体だと言う事を分かっているのだろうか。 別にきちんと髪の毛を後ろにセットして来るだろうなんかは、元より求めて居ない。その辺は諦めていたが。 せめて櫛くらい通したらどうだ。ローブだってネクタイだってだらしなく着ていて。 しかも喋りながら食べるだなんて、行儀が悪いぞ。 僕はつい心配をしてハリーをじっと見つめてしまう。 視線があった。 僕の体なんだから、あまり行儀の悪い事をしないでくれ。 そんな意味合いを込めてハリーを睨み付けると、彼は分かっているのかいないのか……多分後者……にへら、とふやけた微笑みを返してくれた。 我慢だ我慢。 ハリーだって慣れない体で少しくらいは気を使うだろうし。 あっちだって大変なはずだ。 僕の気は長くない方だから、見ればイライラすると思って、一日はなるべくの接触を避けた。 あんまりだらしない事をするな、との意味合いで睨んでも相変わらず、間の抜けた笑顔で返された。 今日一日は我慢だ。 きっとすぐに先生が元に戻す方法を見つけて下さる。 やはり、不便だ。 背格好はあまり変わらないから、服とかは問題無いが、生活するにしても、僕だって魔法使いと言えどホモサピエンスなんだから、トイレにも行きたいしお風呂だって入りたい。 同じ男だし、何度も見たことあるとはいえ、いや、だからなのかもしれないが、とにかく凄まじく照れる。 昨日だって風呂で、なんだかまじまじと観察してしまい、色々思い出したりして下半身に集中する熱をどうにか押さえるのにどれだけ苦労したことか。 僕は変態なんじゃないだろうかとさんざ悩んだりした。いや、もしそうだとしても決して口に出したりしなければ誰かに感づかれて恥じ入ることもないだろう。 なかなか寝付けずに、朝大広間での朝食の時に、いつもどおりの場所にいつもどおり何やら楽しそうに朝食を取るハリー達がいて………。 別にいつもどおりのことだから、頭に来ることもないんだけど。 いつもどおり、ネクタイもローブもだらしなく着込んで、髪の毛だってボサボサで、いつものハリーなんだけど……。 外見は僕なんだ! やはり、後で一言何か言わなくては、気が治まらない。 さっさと朝食を切り上げようとした時、ハリーがこっちを向いた。 僕を見て、すごく嬉しそうに笑ったんだ。 いつもだったらきっと赤面してしまうようなほど、こっちが嬉しくなるような笑顔だったけど……。 ………。 ぷちっと、僕の中の何かが切れた音がした。 ばん、と両手で机を叩いて立ち上がると、一同が僕に注目した。 視線を浴びるのは余り好きでは無いが、今はそれどころではない。 なんなんだ、あいつは! 人を掻き分けて、僕はハリーの席まで行った。 「ドラコ、おはよう」 だらけた笑顔に、僕はますます怒りが深くなる。 嫌味か。 人前でファーストネームを呼ぶなんて。 「おはよう、ポッター。ウィーズリー、グレンジャー、悪いがこいつを借りるぞ」 「………どうぞ」 あまりの剣幕に少したじろいだ二人が少し楽しかったが、だからと言って僕の怒りが治まるかと言えばそうでもない。 僕はハリーの腕を掴んで無理やり立たせて、大広間を出て行った。 静まった空気が僕達が出て行くと同時にざわざわと動き出していたが、そんなことに構っている余裕なんかない。 「ちょっと、ドラコどうしたの」 ずんずんと突き進む僕に引っ張られてハリーが情けない声を出す。 「いいから黙って付いて来い」 「なんか今日のドラコ男らしいね」 ぷちぷちと、また何か何本か切れた。 ここまで来たら、この辺を使う授業も少ないし、きっと大丈夫だ。 いつも二人で会う時に使っている空き教室まで行く予定だったけど、もう限界だ! 「ハリー、なんなんだ。それは僕の体なんだぞ!」 頭ごなしに怒鳴りつけてしまうとハリーは、ぽかんと僕を見た。 「ネクタイをちゃんと締めろ。ローブをちゃんと着ろ。髪の毛をちゃんと梳かせ!」 僕は、僕の……今はハリーのネクタイをちょっと荒っぽくほどいて結び直した。 なんか変な感じだ。 ローブもきっちりと羽織らせて。 髪の毛をせめて手櫛で整えようとして、髪の毛に触ったら、いつもの僕の髪の毛と違ったごわついた感触で。 「ドラコの髪の毛ってすごいよね。梳かさなくてもさらさらなんだもん」 ………。 「昨日、髪の毛洗う時にリンスは使ったか?」 「? 使ってないよ」 ………。 ハリーに求めることじゃなかったが……そんなのわかっていたんだ。 「……僕の髪の毛は細いから痛みやすいんだ」 「へえ」 「洗った後リンスをしてくれ」 髪の毛なんかをこんな風に気にするのは女々しいような気もするが、身嗜みは大切だし、見た目が威厳を左右するのは事実だし、本当に僕の髪の毛は傷みやすいんだ。 母上が僕の髪の毛を父上と似て綺麗で好きだとおっしゃるから、邪魔だから切りたくても切れない。伸ばしているほどでもないが、短くしたらきっと母上が残念に思うだろう。 「そうだね、ドラコの髪の毛は僕も綺麗で好きだし」 ………また、切れない理由が増えてしまった。 「でも、僕もこうして見るとけっこうカッコいいね」 当たり前だ、と言いたかったけど図に乗るだろうから言わない。 「こうして並ぶと、けっこう僕達お似合いだと思ったりして……。ドラコは美人だから釣り合わないんじゃないかって心配したことあるんだよ」 「………馬鹿だな」 努めて冷静に言った。 けれど、耳まで熱くなっている自覚もある。 「ねえドラコ、目を閉じて」 「……?」 「キス、したいんだ」 悪戯っぽい顔で。いつもだったらきっと見惚れて頷いていただろうが……。 僕の顔がそこにあると思うと、萎える。 「いつもだったら、何もしてなくてもドラコは可愛いのに……」 溜め息の含意は僕達共通のものだった。 このままじゃ本当にキスどころかえっちも出来ない。 するにしても、どっちがどうするんだ? 具体的にどうするとなると、やはり、色々弊害が。僕はハリーを受け入れる事に体が慣れてしまっているけれど、今の僕の体はハリーのものだし。僕が………? 色々妄想してしまい、赤面。 こんな事を想像しているだなんて、僕はなんて変態になってしまったんだ。 「このままじゃ、えっちも出来ないしねー」 僕の頭の中を読まれたのかと思ってドキリとしたが、どうやらそうでもないらしく、真剣な表情だった。 これはなかなか死活問題だよ、などとひとりごちているから、本当に真剣なのだろう。 「でも、少し良い事あったかなあ」 「何が?」 僕は本当大変だったんだ。シャワーもろくに浴びれない。 「お風呂の時にさ、ドラコだと思うとドキドキしちゃった」 「………そうか?」 考えている事が同じだと思うとなんだか少し安心する。良かった。 「うん。色々ドラコの体の気持ち良いポイントとか研究できたし」 三回も抜いちゃった。 えへへ、と、悪びれる様子も無く。 ………。 さらりとそんなことを宣ったこいつをどうしてくれよう。 いつもだったら殴っていたところだが、仮にも僕の体だ。 殴ることもままならず。 「早く戻ってえっちしたいね」 ハリーはハリーの顔だったら僕が一番好きな全開の笑顔で言った。 ………僕は早く戻ってこいつを殴りたい。 |