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僕はドラコの体に慣れるほどでも無く、そこそこ楽しんだ後あっけなく戻った。 戻った後、気がついたドラコから、重い右ストレートをお見舞いされた。 なかなかけっこうな御手前でした。 あれから数日経つがまだ許してくれる気配は無く、そろそろ彼の部屋に潜り込む時期だろう。 まあ、でもこれで安心した。 どんな姿でもドラコは可愛いけど、やっぱり自分の顔がそこにあると思うと、可愛さ半減どころか溜め息だ。自分の顔を嫌いなわけでは無いが、かと言って愛しいと愛でる程でもないわけだし。 ドラコだと思えば気持ち良くさせてあげたいと思うけど、僕の顔でイかれても、ちっとも可愛くない。決してドラコが可愛くないわけではないのだけれど。とてもジレンマだった。僕はとても面食いなのだろう。 そのかわり、シャワーを浴びる時なんかに色々触ってしまった。 ドラコはどこを触っても気持ち良くできていて、感じる触り方とか、体の柔らかさとか、体力の限界なんかを色々研究してしまった。 直接言わない方が良かったのだけれど。 言うにしても今の姿に戻ってからの方が可愛かった。ドラコがドラコの時に言えば、顔は真っ赤になって怒らせてしまうけれど、それすら可愛くて。 僕の顔で真っ赤になって怒る姿は……………思い出すたびに後悔と反省。 「あの、これを読んで下さい」 そう言って下級生の女の子から手紙を渡されたのは、元に戻ってからこれで五回目。 ……思い当たる事と言えば、特に僕には無い。 多分ドラコのせいだろう。 「読んでも返事書かないよ」 「読んでくれるだけで良いんです」 自分で言うのも何ですが、ドラコが僕だった時の僕はそこそこかっこ良かったと思う。僕がやるとなったら、無理そうだけど。 双子に知られて学校中に噂をばらまいてくれていたから、知らない人はいなかったと思うんだけれど、それでも中がドラコな僕のことを気に入ってくれた娘は多い。 しっかりと整えられた髪も背筋の伸びた優雅な仕草も、口の端だけ上げるシニカルな笑顔もそれは僕じゃなくてドラコなんだって、知らないわけじゃないだろうけど。 僕のことが気になるんじゃなくて、それはドラコだよ、って言いたい。 もちろんドラコの事が好きだって言われたら相手構わず再起不能までにさせてしまうだろうけど。 「ありがとう、ごめんね」 もちろん本気で返事なんか書くつもりはありません。 そんな手紙が今日だけで二通目。 ドラコの事を愛しく思う前ならば舞い上がってしまうくらい可愛い女の子だったけどね。 溜め息。 とりあえず、どうやら御立腹中の我が愛しの恋人の機嫌をどうやって回復させようかと思案しながら中庭を歩いていたら声が聞こえた。 何を話しているのかは聞き取れないけど何やら愛の告白ですか。どこでも恋の季節ですね、僕も幸せだからみんなも幸せになれば言いと思う。角が立つ言い方をすれば、勝手にやってろ。 「だから、貴方のその好きな人って誰なのよ!」 茂みから相変わらず恋の季節は続いているようだけど、何やら天候不良ではありませんか? こんな所まで声が聞こえるのは、だいぶ雲行き怪しくありませんか? 女の子がイライラした声をあげた。 「そんなのは君には関係ない。悪いが気持ちには答えられない」 ………。 お相手の声は、良く通る凛としたアルト。 僕が一番心地よく感じる音域。 ドラコだ。 ドラコが困ってるよ、ここで助けに行ったら僕は王子様? だけど、変に飛び出していってよけいにドラコの怒りを買う訳にもいかない。 少し見極めないと。 そうこう思ってる間に女の子が飛び出して行って僕のそばをすれ違った。 「ドラコ?」 「………見てたのか」 ドラコは下を向いて、僕のことを見ようともしないで大きな溜め息をついた。 悪趣味だって怒られるんだろうなあ。 「ならば話が早い」 「え?」 怒られると思ったけど、どうやらそうでもないらしい。 「一体君は僕の身体でなにをしでかしてくれたんだ!」 「は?」 「あれから何人に声を掛けられたと思ってる? しかもほとんどが上級生で、中には男だっていたんだぞ! 僕の中にいる間、君は何をしたんだ」 結局怒られたけど。 「何って普通………って何人に声を掛けられたわけ?」 「そんな話はしていない」 「で、誰から?」 「もう忘れた」 「で、誰?」 もしやドラコは僕が独占欲が強くて嫉妬深いことを忘れてるのではないだろうか。僕以外のドラコのことを好きな人は性別問わずみんな敵なんだよ。 女の子ならいざ知らず、男までもが僕のドラコを狙うとは厚かましい。 もちろん公言しているわけではないから誰も知らないのだけど。 それにしても何てことだ、普段からドラコは美人で目立つのに。 あまり気軽に話しかけられそうにない気高さがバリアになって隙を作ってないと言うことを、失念していた。 僕が独り占めしたいドラコのミリオンスマイルを大特価で安売りしてしまった! 僕に告白してくれた僕の中のドラコが好きな娘は、僕じゃなくてドラコを見ていた。だって僕には無いところだし、結局外見だけだし。まあドラコの外見が大好きな僕が何かを言えた義理は無いけど。 でも、ドラコの笑顔に惚れた奴は当たってる。滅多に笑わないけど、本当にあの笑顔は幸せになれるんだ。 誰にも譲る気は無いけど。 「ハリーだって可愛い女の子から手紙もらってたじゃないか」 うわー、見られてたんだ。 ドラコはプライドが高いからちっとも嫉妬とかしてくれないけど、機嫌が悪くなるのは確かで、それが実は嬉しい。損ねた機嫌はなかなか回復しないから、その後大変だけど。 「うん。どうやら僕もけっこうモテるみたいだし、格好いいらしいよ」 だから、ドラコも焦ってよ。僕だってそこそこ人気あるみたいだよ。まあ、今回は中まで見てくれた人はいないけど。 でも、声をかけた女の子はけっこう多いし、ドラコだって、僕のことをもっと一生懸命追いかけないと危ないんじゃないの? 僕が誰かにとられちゃうよ。 もちろん、今はドラコしか見えてません。 でも、もっと本気で僕に恋をして欲しいから。 ちょっと意地の悪い事を言ってみたんだけど。 「当たり前だろ」 かえってきたのは意外な言葉。 さらりと。 当然のように。 「え?」 ドラコが僕のことを好きだって言ってくれるのもこっちが必死に頼んでやっとだし。僕のどこが好きかなんて聞いたことなんか無いし、僕のこと褒めてくれたことも一度も無いのに。 今のって………。 ドラコも自分の発言の意味に気がついたのか、顔がどんどん赤くなってく。 「ねえ、それって、僕のことをそう思っててくれたの?」 「………知らない」 「ドラコにそう思われてるって思うの厚かましいかな」 「知らないって言ってるだろ」 肯定ってことだよね! ドラコに格好いいって思われてたの!? そんなことを言われたら、せめてドラコの前だけではカッコつけていたい僕だけど、この崩れる顔が如何ともし難い。 ああ、照れるや。 それ以上に嬉しい。 僕は気持ちと行動が、特にドラコに関してはダイレクトで。 「抱き締めて良い?」 聞いた時にはドラコはもう腕の中。 「遅い」 ぎゅうううって抱き締めて、 もう、絶対離さないよ。 そりゃ、ドラコはドラコだけど、でもこの綺麗な顔とか我が儘な性格とか。全部が愛しくて、可愛くて。 一つも欠けてないから、僕の大好きなドラコなんだ。 「大好きだよ」 嬉しくて、愛しくて何度も繰り返すと、腕の中でおとなしくしていたドラコが、ためらいがちに僕の背中に腕を回すのを感じた。 |
元に戻る方法は、頭をゴツンですかね、やっぱ