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 目を覚ますと、ウィーズリーとグレンジャーの顔が近くにあって、いつもハリーと一緒にいるグリフィンドールの同寮生数人が僕を囲っていた。
 何なんだ、一体。
 ゆっくりと起き上がると、何度か厄介になったことがある見慣れた保健室だと気付く。
 見回すといつも近くにいるはずの巨漢二人が僕の方を見ないで、二つ隣りのベッドをなんだか覗き込んでいる。
 あいつら、僕を差し置いて何してるんだ?
「大丈夫?」
「頭打ったんでしょう?」
 赤毛と巻き毛が口々に僕に話しかけるが、こいつらに僕を心配する義理なんかはないはずだから。

 何なんだ?

 前髪が視界に入り邪魔だった。
 僕は目の前にかかる鬱陶しい髪をかき上げた。

 ………。
 ………………。

 とてつもない違和感。
 僕の髪はこんなにごわごわしていない。
 手触りが全く違う。
 しかも、毎朝僕は邪魔にならないように、ちゃんと髪を撫で付けているのが習慣だから……。
 なに?
 僕の髪じゃないのは確かだけれど、すごい手に馴染んだ触り心地。

「あ、起きた!」
「大丈夫、ドラコ」

 向こうのベッドでクラッブとゴイルがベッドに向かって僕を呼んだ。
 何を馬鹿な事をしているんだ。

 向こうのベッドの上に寝ていたんだろう人が、勢い良く起き上がった。
 阿呆みたいにすごい勢いできょろきょろと回りを見回していて。

 そして、目が合う。

 その人物は


 僕だった。













 今日は、グリフィンドールとの合同授業が最後にあって、授業が終わった後、ハリーと楽しそうに話しているウィーズリーに無性に腹が立って、なんだか家のことに付いて馬鹿にしたはずだ。

 僕の後ろから、ハリーとウィーズリーが楽しそうに話している声が聞こえて来ていた。
 すごく腹が立つ。
 楽しそうな声。
 相手が僕じゃないのがより一層腹が立つ。
 僕だって、所構わずハリーと話したいし、僕の顔を見て笑って欲しいし、僕も隣りにいて笑いたいんだ。

 僕とハリーは、実は付き合ってます。
 お互い大好きです。
 えっちだって何回もしています。

 どんなことがあっても言えないし、もし知られたら死んでしまいそうなほど恥ずかしいと思ってるけど、こういう時は思わず僕のだと言いたくなってしまう情けない独占欲を無理やり押し込めた。
 イライラしてる僕の近くに気付かないでいつもの三人がやって来たから、つい僕は足を横に出した。
 みごとに赤毛がつまずいて、ばさばさと授業道具一式をまき散らした。
 ざまあみろ。
「何するんだよ、マルフォイ!」
 顔まで髪の色にして僕に怒鳴る奴の教科書を拾ってやった。
「ずいぶん骨董品の教科書だったのに、よりぼろくなったな。来年もどうせ使うんだろう?」
「まずは謝れよ」
「何のことかな? 僕の足を蹴ったのはそっちだろう」
 馬鹿にするような嘲笑は得意だ。
 それで、ウィーズリーが顔を真っ赤にして僕に向かってきて、殴られると思った。
 ただ、まだ先生もいらっしゃるし先に手を出した奴に罰を与えるだろうから、始めの一発くらいは殴らせてやるよ。
 そんなことにはならないことは分かってるけど。
 赤毛が僕の襟首を掴んで無理やり立たせた。
 僕の薄い笑い方にますます腹を立ててくれたらしく、ますます顔が赤くなって行くから、僕はさらに面白くなって、それにウィーズリーが煽られる。そんな相乗効果。
「ロンやめなよ!」
 僕が傷つくのが果てしなく嫌いなハリーが止めることは分かっていたから。
 この前も僕に告白した女の子がちょっとしつこくて面倒臭かったから、ちょっとひどい振り方をして顔を張られた時も、女の子に呪いをかけそうなくらい怒っていたし。
 安心してたんだけど。

 ハリーが慌てて、ウィーズリーを止めようとして。

 階段状になっている教室だったから上の方から、


 ハリーが足を滑らせた。



 何勝手に転んでるんだ!

 怒鳴る間もなくハリーは僕に向かって突っ込んできて、
 悲鳴をあげる間もなく、


 がんっ

 星



 世界が真っ黒になって










 真っ黒な世界に、漂っていて。

 不安で。

 すごく怖い所で。

 だから僕はハリーを呼んだ。
 何度も。

 何度も呼んだ。

 その時光が見えて。

 ハリーが居たんだ。
 慌ててしがみついて。

 ハリーも僕を抱き締めてくれて、

 真っ黒な世界で見えなかったけどきっとハリーだったんだ









 そして、気がついたら僕はここにいた。












 それにしても、
「何で僕が二人いるの!」
 高い声。
 なんだこれは。
 それは僕の台詞だ!
 これは一体何なんだ! これは僕の髪じゃない!
 しかも、そっちで目を丸くしている僕は僕だけど、そんなに間抜けな顔をするな! それは僕の顔だ!
 そっちこそ、なんの冗談だ!
 色々わめき散らしたいところだけど、何がなんだかわからない僕は声も出ない。
 誰かに事情を説明してもらえないだろうかと、回りを見たが、回りも同じように僕と向こうの僕を見比べている。
「一体、何の冗談だ?」
 グリフィンドール嫌な奴総出で、ゴイルもクラッブも巻き込んでエイプリルフールか?
 それにしても、この声は…聞いた事がある。
 なんだ?
「そっちこそ一体誰が僕のふりをしているんだ。悪趣味だ」
「それは僕の台詞だよ。なんで僕の姿をしているんだよ」
 何を言っているんだ、あっちの僕(仮)は。
 頭が痛い。
 さっきぶつけたせいもあるだろうが、目まいがする。
 これ以上ここに居たらよけいに頭痛がひどくなりそうだ。部屋に頭痛薬を常備してあるからあれで平気だろう。
 とにかく一刻も早く帰りたい。
「クラッブ、ゴイル。いつまで間抜けな面を晒しているんだ。さっさと帰るぞ」
「………!」
 僕が相変わらず行動の遅い間抜けな巨漢二人に声をかけたら、鳩が豆鉄砲どころか豆が鳩鉄砲を食らったような顔でこっちを見ている。
 どこまで間が抜けているんだ。
「さっさとしろ!」
 布団をはねのけて、僕の周りのグリフィンドール生を押しやってクラッブとゴイルを睨み付けた。
「ちょっと、どうしたって言うのよ」
「何が言いたいんだ、グレンジャー」
「頭、変な所でも打ったんじゃない?」
「すまないが、今は嫌味を言い合う気分ではないんだ、またにしてくれないか」
 もう、本当に疲れたんだ。
 一人にしてくれないか。

 誰の悪戯だ。
 腹が立つ。


 気絶するほど頭を打ったと言うのに、心配して来てくれなかったハリーにも腹が立つ。
 そういえばハリーは、大丈夫だったのだろうか。

 今は本当にそれどころで無く、早く帰ってシャワーを浴びて薬を飲んで眠りたい。

 僕は動きそうもないクラッブもゴイルも見捨てて、保健室を出た。

 ずんずんと歩く

 寮に入って、なんだかひどく同寮生のざわつきと視線と悲鳴を感じたが無視した。
 顔をひどく打って痣にでもなっているのだろうか。


 それにしても、僕の姿をしていた間抜けは誰だ。
 そして、何でハリーは来なかったんだ。僕のことが心配じゃないのか?
 部屋に帰りベッドの上にローブを脱ぎ捨てて、ネクタイも外して叩き付け、シャツのボタンを毟るように開いた。

 …………あれ?

 なんで僕がグリフィンドールのネクタイをしているんだ。
 今日はちゃんと自分のネクタイをきっちり締めて行ったのに。

 悪寒がした。
 最悪の予感もした。


 何かの冗談だ。
 
 僕が寝ている間に誰かが何かをした? 誰かを僕の姿に魔法で変えた。僕もそうだとしたら?
 でも、何のために?

 僕がこれだけ痛いのだから、ハリーだって同じだけのダメージを受けているはずなんだ。
 ハリーだってもしかしたら保健室で寝ていたのではないか?
 そするとあっちの僕(仮)はもしかしたらハリーだったのでは………。
 究極の三段論法。



 頭が痛い。

 僕は一つだけ確かめたいことがあった。
 本当はあって欲しくないものだ。
 昨日の晩、ハリーにどうしてもとせがまれて付けた左肩のキスマーク。
 もし、あったら、あっちの僕(仮)は本当はハリーで、でも、僕で。僕は本当はハリーだったり?

 ??

 ああ、ごちゃごちゃだ。

 とりあえず確認。

 ある。

 すごく恥ずかしかったからしっかり覚えている。

 左肩だ。

 何度見ても確実に虫刺されではなく、ある。


「何てことだ……!」


 鏡が僕の机に置いてある。
 顔を上げればすぐそこだ。
 顔を上げれば…………。

 錆び付いたネジのように、その動作はギシギシとした。

 鏡の中に僕は見つけた。

 僕が今一番大好きに想っている僕の恋人の顔を。

「ハリー………!」




 僕は本日、二度目の気絶をした。

























 朝起きた。
 目をこすって起き上がる。
 なんだか視界がひどくぼんやりしている。
 とりあえずシャワーを浴びよう。熱いのが良い、しゃっきり目が冴える。

 そう思ってごそごそしていたら、ゴイルが目を覚ました。続いてクラッブも起きる。
 どうしたんだ?
 いつもは僕がシャワーを浴びて身支度を整えて紅茶を飲むあたりで慌てて起き出して、顔をようやく洗うか洗わないかで朝食に向かうと言うのに。
「あの、ドラコ?」
「おはよう、どうしたんだ」
「ドラコだよね」
「なんだ?」
 なんだかまごついている二人は要領を得ないので、僕はもう無視をしてシャワーを浴びようとバスルームに向かう。
 ふと、鏡を見て止まる。

 …………!?

 これは、僕じゃない。
 どう見てもハリー・ポッターだ。

 すっきりと気持ちの良い目覚めだったのに。
 そういえば僕は、自分の体がハリーのものになっている事を確認して、意識を失ったんだ。
 ガクガクする膝、しっかりしろ。
 だからゴイルもクラッブもあんな態度だったんだ。
 なんとなく納得できる。

 いや、納得している場合じゃない。
「あの、ドラコ」
 扉を少しだけ開けて恐る恐ると言った感じで、クラッブが覗いていた。
「なんだ?」
 努めて気丈に振る舞ってみるが、なかなか蒼白になっているだろう。
「あの、先生が元に戻る方法探してくれてるから」
「そうか」
「今、ドラコの体はポッターの体になってて、ドラコがポッターの中にいるんだ」
「ああ、予想はついていたよ」
「しばらくそのまま生活しろって」
「わかった、ありがとう」

 体がべとついて、とにかく汗を流したかったから、扉を締めて追い出した。

 吐きそうだ。









 言う通りにならないハリーの髪の毛を整髪料で無理やり撫で付けて……額の傷は目立つから一部だけ前髪を垂らした。
 髪型を思い通りにするためにこんなに時間がかかるなんて。
 いつもハリーがこうしていればちゃんと男前なのに。
 なんでいつもああやってボサボサにしているんだ。

 それにしても、ハリーで良かった。
 ハリーが僕を好きなのは僕の外見が大きいと言う事は分かっている。僕もハリーの顔は嫌いじゃないし。
 良かった。
 そう思う事にしよう。

 シャツの第一ボタンまできっちりとめて、ネクタイも曲がっていないか確認して、ローブをきっちりと羽織って、いつものごとく身嗜みを確認して。
 昨日、僕が帰ってしまったあと何があったのか良く分からないが、なんとか結論が出たらしく、クラッブがハリーから眼鏡を預かっていた。
 眼鏡をかけると視界がはっきりとする。
 近視というのは不便なものだ。
 もう一度、身嗜みを確認。
 よし、大丈夫だ。

 今は僕なのに、ハリーがかっこ良くて惚れ直してしまったのは、秘密。


































ちなみにこれが、本当に描きたかったもの→







ざ・ちぇんじ……小学生の時好きだった漫画