【迷走台風】04







 どうしよう……。

 身体が、暑いのが、解る。
 重心がぐらつく。


「……阿散井……僕、なんか変」


 身体が、熱い。
 何でだろう。

「阿散井……」

 力が入らない手で、僕は阿散井の首に腕を回した。そうしないと、倒れてしまいそうだ。ふらついた僕を支えながら、阿散井は一緒にベッドの上に腰を下ろした。

「大丈夫だから」


 このまま、よっかかっているままじゃ……カッコ悪いから、まだ重心は定まらないけれど、少し大勢を立て直そうとした時、阿散井が、僕の膝裏に腕を差し込んで、軽々しく持ち上げられた。
 僕の身体は阿散井の膝に乗せられた……って。なんだよ。

「わっ」
 バランスが崩れて、僕は慌てて阿散井の首にしがみついた。

「ちゃんと、捕まってろよ」

 見るだけじゃなくて、こうやって阿散井の体に触れて、腕を回すと……本当に阿散井はがっしりとしていた。もし僕が本気で抵抗しても、たぶん押さえ込まれてしまう。
 阿散井の足の上に座っているのに、体格が違うから僕はすっぽり収まってしまう


「あ、阿散井っ! あの…」
「大丈夫、優しくするから」

 僕の抵抗なんてものともしないで、するりと下着ごとパジャマを脱がされてしまう。
 肌が、剥き出しになる………。

 僕のそこは……もう立ち上がっていて………。



 恥ずかしくて見たくない。

 だって、キスしただけだ。
 阿散井とキスしただけなのに……僕のは……。


 阿散井の手が、僕のを包み込むように触る。そんな所に、触られたことなんてなかったから……

「阿散井っ! そこは」
「大丈夫だって」

 何が、どう大丈夫なんだよ! そう言いたいのに、急所を握られているこの状態で、僕の口から出たのは、声にもならない声だった。

「んんっ……あ…はっ、んぁ」


 ゆるゆると握られて、そのまま上下に動かされる。


「ぁ……ぁあっ……ふっ」

 堪えようとしても漏れ出す声をどうする事も出来ずに、僕は阿散井の肩に噛みついた。
 触られた手の熱さを感じる度に、体温が上がるような気がする。
 身体の中に熱が血管を通して広がって暴れてる。


 おかしい……変だ。

 自分でも触った事だってある。滅却師だからって、一応普通の人間の生体なので、性欲くらいは普通に持ち合わせていて、あまり好きじゃないけど、自慰行為をしたことは、ある。好きじゃないけれど、汚い行為だって思っていて、できる限りすぐに終わりにしたいと思っているけれど。自分で触ったことがないわけじゃない。

 でも、こんな風にならなかった。

 自分で触っただけじゃこんな風に、苦しくない。すごく苦しい……苦しいのに……。


 無意識に、自分の腰が揺れている事に気付いていた。


「あっ……ん、ぁ……」


 阿散井の手付きが早くなる。

 僕はどんどん高められる。

 上る。
 意識が凝縮されて、登って行く。


 そこの刺激が全身に広がって暴れる。


 上る……登って……




「ー―………っ!」


 身体中が跳ねた。


 僕は、阿散井の手の中に吐き出した。


 僕の先端から体液が溢れる度に、僕は身体を震わせた。




「はっ………ぁ」


 力が抜けて、阿散井にしがみついていた腕がほどけて、僕はベッドに沈んでしまう。

 まだ、頭に靄がかかっているような……真っ暗な部屋で急に電気をつけたように、世界の色彩が強くて目眩がする。



「あ……阿散井……ごめ」


 手の中に、出してしまった……から……。

 少し頭を持ち上げて阿散井を見ると、阿散井は僕の白くてどろりとした液体で汚れた手を見ていた。


 それを……阿散井は……口に含んだっ!



「なっ……阿散井っ!」

「いや、勿体ねえかと思って……」


「勿体無くない! ティッシュっ! ティッシュあるからっ!」


 僕は、テーブルの下にあるはずのティッシュを探そうとしたけど、片手で押さえ込まれた。


「ん……いいや。やっぱり勿体ねえ」
 勿体無くないよ。だって、そんなの……汚いだけだ。

「ちゃんと拭いて捨てろよ、そんなの」
「でも、お前の、だ」


 僕のだから? もしかして、……一回だけ……だから?
 次は無いから?


 僕もそうなったら、黒崎と一回だけって条件で繋がる事が出来たら、そんな風に、黒崎のを舐めてみたいとか思うかな………








 ………いや、思わない!

 流石に男の精液を口にしたいとは思わないっ! ごめん黒崎。君の事は本気で好きだ。君を本当に愛しく思っているけど……だけど! 人間にはできることとできないことがあって、やってやれなくはないかもしれないけれど、命に関わる危機でない限り、絶対にやりたくないと思ってる。





「……阿散井」

 だから、阿散井が、そんな風に僕を思ってくれるのが痛くて。


「んな不安そうな顔すんなよ」

「ごめん」

 好きなのが君じゃなくて、ごめんなさい。


「謝るなって」


 阿散井がもう一方の手で僕の頭を撫でたから……その手付きが優しくて……。

「大丈夫だから、任せとけ」



「………うん」



 阿散井が、僕の上にのしかかるようにして僕を見つめた。

 赤い。

 不思議な色が僕を見ていた。吸い込まれて、しまいそう。




「阿散井……電気……」
「消すの? 可愛いから見てたいけど」

「……可愛くないからっ! 消して!」


 阿散井はぶつぶつ言いながら、電気を消したけど………。


 消すと……なんだか、より意識が……目の前の身体に行ってしまう。いや、見られたくないし、お風呂上がったあと、眼鏡かけてないから僕だけ見えないのは不公平だし、消して貰っていいんだけど……

 阿散井の手が、僕のパジャマのボタンを外す。見えてないのに……なんだかとても意識してしまって……。












20120915