【加圧型ラバーズ】05
「なあ、石田って一護の事好きだろ?」 訊いてみた。 意を決してってほどでもなく、なんとなく。隣の佐々木さんの胸の大きさの方がよっぽど大事で、今日の天気を論じる次いで程度の感覚で、そんな事を石田に訊いてみた。 やっぱりなんか一護のことばっかり特別扱いしてる気がしたから。 そりゃ、石田が笑う事が出来る生き物だって知らない人間から見たら、俺だってだいぶ特別扱いされてる方だとは思うけど。 それにしたって石田は一護の事をだいぶ特別に思っているような気がした。 別にいつも喧嘩してるから、喧嘩するほど仲がいいって意味で石田をからかおうとか、そんな事を思った訳でもなくて、ちょっと訊きたくなった、と言うか、確認の意味で言いたくなっただけのつもりで、石田に訊いてみた。 中間も迫った放課後、やっぱり相変わらず今日も勉強がわかんない俺は、本日部活もタイムセールもない石田に、みっちり個人教師してもらってる。今回の考査はこの部分出たらたぶん解ける自信ある、くらいに解りやすく教えて頂きました。 この部分が出たら、多分悪くても追試にはならないと思うから、後はここが試験に出ますようにって神頼みで何とかなるだろう。 さっきまで水色も一緒に石田に教えてもらってた居たけど、彼女が迎え来るって言ってさわやかに教室を出て、二分後ふと窓の外見たら、正門の前に赤いスポーツカーが停まってた……! 今度は何処のお姉さまか知らないけど、羨ましすぎるっての! んで、水色が帰りがけに、しきりに俺を心配してた……が、何だろ? 顔に死相でも出てたか? 確かに今日はうっかり姉貴のトースト食べて朝から背中に回し蹴り食らってるけど。 くれぐれも気を付けてって言われて、早く、今すぐにでも帰った方がいいよって言われたけど……。水色に占いの才能ってあったんだろうか。それとも新たに目覚めたんだろうか、その辺は解らないけど、水色に言わせると、今日の俺の運勢は早く帰る方が吉らしい。 俺が今のところ一番つるんでるから一番仲が良いだろうはずの薄情な水色の事を考えて、水色はなんて薄情な奴なんだと悲しくなりつつ、とりあえず教えて欲しい所は教えてもらったから、ノートとか片付け始めた。てか、鞄に全部突っ込んだから、もう帰れる。 けど、一向に、石田からの返答がない。 大した返事を期待してたわけでもないけど、無視されるのはちょっと切ないんですけど。 一応キャッチボール的には適当な愛想笑いぐらいはしてもらうべきところじゃねえの? 石田から答えが返ってこないから何となく…… 「……石田?」 別に答えなんかを期待したわけじゃなくて、石田の答えがYESだろうとNOだろうと、俺としちゃ別にどっちでもいいわけで、いつも一緒に居るから、見た目はいかにも不良といかにも優等生で、全然タイプ違うけどお前らって仲いいよなって言い換えても良かったぐらいの質問だったけど。 「…………」 「……石田?」 石田が、凍ってた。 指でつついたらそのまま後ろに倒れそうなくらい、見事にフリーズしてる。 「石田?」 「あ」 石田は、ようやく再起動し始めて、のろのろとした動作で眼鏡のブリッヂを中指で押し上げた。 「どうした? なんかあったのか?」 「……あ、いや、変なこと訊かれたから……驚いたよ」 ……変だったか? 俺も一護、好きだぜ? 石田も好きだけど。チャドも好きだし。水色は裏切り者だから、今日は嫌いだけど。 「今の問題は大丈夫そうだね」 「ああ、おう。バッチリ! ありがとな」 質問は無かったことにされました。 別にいいけど。 質問答えてもらえなくたって、いいけど。どうせ仲良しさんなの知ってるからいいけど。 「じゃあ、そろそろ帰ろっか」 俺も帰宅部だから、あんまり学校に長居することなくて、時計見たらいい時間だった。俺は立ち上がろうとしたけど、石田は石田のくせにまだ帰り支度してない。 「ああ、そうだね。もうこんな時間なんだ」 石田がようやく自分のペンとかしまい始めて……何だろう。石田のくせにもたもたしてんの、珍しい。 「石田、帰らねえの?」 「えっと……ちょっと、ね。用があるんだったら先に帰っていいよ」 ちょっと、何だ? 別にバイトとかないし、早く帰らなきゃいけない用事もないし、こんだけ勉強を見てもらって先に一人でさっさと帰るとか薄情な真似は出来ねえ。 何か用があるなら、終わるまで待ってられるけど。 「何か用事あんの?」 「用事ってほどでもないけど……」 石田が何やら言いにくそうに口の中で何かを言いながら、ふとドアに目を向けた。 から俺もつられてそっち見た。 その二秒後くらいに、タイミング良くドアが開いた。 で、一護が教室に入ってくる……とか、何かセンサーでも付いてんのかって思うほど、すげータイミング。 「遅かったね、黒崎」 もしかして、石田は一護のこと待ってたりしたのか? 遅かったねって事は、だよな? 待ってたんだよな? やっぱり仲良しさんじゃねえか。 「おう。あケイゴ、居たのか?」 「一護は何やってたんだ?」 「この前他校生に絡まれた時、どうやら見られてたらしくて、説教食らってきた」 「へー、珍し。一護に絡む奴ってどんな奴だよ」 入学したての頃はこんな髪の色してて、度々色々散々な事があったみたいだけど、それらの噂(一部事実)が噂を呼んで、最近じゃ一護の悪名は隣町にも轟いてるって言うのに(水色情報)。なかなかのツワモノがまだこの町にはいるらしい。 「で?」 「で? って?」 「お前は何してんの? 石田と」 ……声が、いつもより冷たいの、気のせい? 石田と、が、やたらと強調されて聞こえたのは気のせい? あれだよな、これ、先生に説教くらってきて機嫌が悪いんだよな? 「浅野君に数学教えてたんだ」 「……へえ」 ……恐い。一護が怖い。いや、マジで怖い。 機嫌悪いにしたって、何で俺の事睨むんだよ! ただでさえその顔怖いんだから、睨むのやめろよ! 俺は関係ないだろ? 説教食らったの俺は無関係だろ? 「じゃあ、帰ろうか」 「あ、やっぱ石田は一護のこと待ってたんだ」 「今日は米と日用品の買い出し付き合ってくれるって約束したんだ」 えっと……。 日用品の買い出しって……いや、いいけど。どうやら一護ってけっこう石田んちに入り浸ってるような気配だから、たまには手伝うのは妥当だと思うけど…… だがしかし! この機嫌の氷点下な一護に荷物持ちさせる気か、石田は!? 触らぬナントカじゃねえの? 石田は機嫌が悪い一護が怖くねえの? 「勉強教えてやった代わりにケイゴに荷物持ちさせりゃ良かったんじゃねえの?」 あ、別に俺は構わねえよ? 石田よりは力あると思うし。見た目からすれば、ひょろっこい石田よりは、多分。 「だったら浅野君にお礼に夕飯ご馳走すれば良いのか?」 え? 夕飯つき? やるよ、俺。喜んでやるよ? 石田の飯食ってみたいし。いつも弁当うまそうだし。 「冗談じゃねえっ!」 あ、冗談じゃないんだ? 「だったら早く帰ろう。君が遅かったから寒くなってきた」 あ、そもそも石田は俺に勉強教えるのは次いでで、一護の事待ってるのが本命だったわけ? 「……おう」 なんだろう、一護が尻に敷かれてるような気がすんのは。 道は石田と途中で別れるから、途中でバイバイしたけど……。 二人と別れるまで、俺は一護が機嫌が悪くて怖くて、俺は無駄にテンション上げて、無駄に喋った。 寒いって言った石田が一護のマフラー巻いてたのは、敢えてツッコまなかった。 いや、ツッコむの無理だった。 → 20120528 |