【加圧型ラバーズ】01
昨日返却された生物の数字が悪かったせいで……補習、とか。 同じテストを、教科書見ながらでいいから、八十点以上のノルマってなんの悪夢だろう。しかも俺だけ……やっぱり悪夢か! 「ああああもうちょい待ってて、一護」 せっかく一護とCD屋に寄る約束してたのに。 最近珍しく音楽の趣味が一致して、ちょっと気に入ったバンドが一護も好きだったとかで、面白おかしくも一護と楽しく高校生っぽい放課後を色々遊びたかったってのに……。 「だから、待ってんだから、さっさと終わらせろ」 「だったら手伝ってくれよ!」 「断る」 「一護ぅ……ーっ!」 「てめえでやれって! 補習だろ?」 泣きついてみたものの、一護は俺の懇願を一蹴する。 まあ、そうだけどさ。点数悪かった俺が悪いんだけどさ。 水色……裏切りやがって! 俺御運命共同体だと信じていた水色は僅差ギリギリで追試を免れて、今日はデートだからって晴れやかな顔つきで帰りやがった! 悲しみに暮れた俺に一護は冷たい。俺の切ないプリントを一護は冷たい目で眺めるだけだ。 待っててくれてるんだから、まあそれなりに友情としての優しさの片鱗は薄々俺も勘付いては居るんだけど、目の前の地獄はそんな優しさぐらいじゃ蜘蛛の糸程度の安心感も得られない。 けど、やんなきゃ終わらねえから、仕方なくプリント睨みつつ、教科書広げると襲い来る睡魔と格闘し始め、やっぱり俺この単元ものすっごく苦手で、どうすりゃ放棄できるかに頭を使い始めようかとした時、教室のドアががらりと開いた。 開いたのは石田だった。 「おー、石田!」 手を振るまでもなく、石田は俺を見て、少し表情を柔らかくして、近づいてきた。 なんか最近、石田と仲良くなった。 誰も近づくな的な剣呑オーラ全開に出力してるから、クラスに居るのは当然知ってたけど、今まで話した事どころか、声すら聞いた事も無いようなクラスメイトだった。 石田が誰かと話してる所すらめったになくて、石田の声聞いたら御利益あるとか、そんな学校内都市伝説流れそうなくらい話してるところ見るのだってレアだったのに、なんか一護がある日突然何を思い立ったのか昼飯に引っ張ってきて以来、俺も友達。 何だろう。一護はどっかの船長みたいに、希少生物は仲間にしたい性分でもあるんだろうか。 希少生物の代表格みたいなチャドと親友だったりするあたりで、一護もやっぱり普通じゃないって言うか、一護自体がそうなんじゃないかとか、そんなこと思いながら、石田を連れてきた理由を初めのうちは不思議には思っていたけど。 しばらく……二、三回は石田の様子見で、消化に良くなさそうな昼飯を食べたけど。 話したら意外といい奴だった。びっくりした。 意外と笑いの沸点が低くて、俺の話でも笑ってくれる。学校七不思議レベルだった石田の笑顔はもう俺は既に何度も拝んでいる。 意外と優しい。この前も数学教えてくれたし。解りやすかったし。 趣味は違うけど、ちょっとずつ会話も増えてきて、今じゃけっこう普通に喋る。 だから俺は石田が好きだ。一護も好きだ。 「あれ? 浅野君まだ居たんだ、帰らないの?」 「俺は補習ぅ。石田は?」 「ちょっと生徒会に用があってね。黒崎はどうしたんだ?」 「俺はこいつ待ってんの」 なんか、ひどく軽蔑な眼差し込めて一護が俺を見た。冷たいです、その眼、いつもよか冷たいです! 「あ、そっか。40点以下だったら補習だっけ?」 それに引き換え、石田は同情的な視線で……! 俺の点数知っても苦笑いで済ませてくれるとか……っ! 「石田っ! 俺を助けてくれ」 そうだ! 学年首席の頭脳がここにあるじゃないか! 入学以降トップを守り続けている秀才がここにっ! 石田だったらこんな問題……! 「いいけど……自分でやってみて解らない所あったら教えてあげるよ」 「石田……神様だ!」 「卵のタイムサービス五時からだから、それまでだけどね」 「解った!」 前に石田に勉強見てもらったけど、見た目からしてスパルタかと思ったら、凄く解りやすいし丁寧だった。この前の中間考査はお陰さまで追試ゼロの快挙を成し遂げました! 今度御礼するって言ったら、俺の点数が良くて教えた甲斐があったからいいよって言われた。どこの神様だよ。次もお願いします。 とりあえず解る所を先に片付けて……る間、石田は一護と話してる。 そんなに気が散るような話し方じゃないけど、一護が明日の授業の予習してるのを石田が横から見てるって図が、ちょっと横を見たら目に入った。 いつの間にか、一護と石田が仲良しになってた。本当にいつの間にか。 石田と一護との間に、一体何があってどうしてこうなったかわかんねえけど、一護が引っ張って来て、俺も石田と話したりするうちに一護もいい友達連れてきたなって思った。 見た目は冷たそうにだけど、優しいし、面倒見もいいし。 まあ、それは一護もだけどさ。 一護だって何だかんだ言って、最初は見た目怖かったけど、なかなか優しくて面倒見がよくて。 さっぱり似てないけど、石田と一護ってなんか、どっか似てる。そっか、類友ですか。 二人で教科書を覗き込んで、時々何か話してる。 俺も混ざりたいけど、最初の方の簡単な問題くらいはさっさと終わらせようって思って、問題に目を通す。 「あ、黒崎。今日黄色のマーカー無かっただろ?」 「ああ」 「やっぱり。僕のじゃないマーカーが家にあったから」 ってことは、つまり一護が石田んちに遊びに言ったって事か。 にしても、いつの間に石田ん家に遊びに行くような仲になったんだ、一護は。知らないうちに友情深めやがって。 俺も混ぜろよ。 で……今日無かったって事は、行ったのもしかして昨日? 一護が石田と仲良いのはわかるけど、そんなに頻発に遊びに行ったりしてんだ? 高校生の正しい放課後は部活をしたり遊びに行ったりすることで、勉強会じゃないと思うけど、黄色いマーカーを使用したって事は、昨日一護は勉強しに石田んちに行ったって事か。 「んじゃ今度取りに行く」 え? それくらい、石田が学校に持ってくりゃいい話じゃねえの? 黄色いマーカーなんて一晩ぐらいなくたって困るようなもんでもねえし。 一護わざわざ取りに行くのかよ。いや、いいけど。 「いつ来る?」 「今週の土曜日行ってもいい?」 「解った、掃除しておくよ」 今週の土曜日……って、明日って言えよ! え? 一護ってこんなに頻繁に石田と遊んでたりすんの? いや、遊んでんじゃなくて勉強会とかしてそうだけど……確かに一護も石田も友達多そうじゃないし、どこかに出かける趣味もなさそうだから、地味に勉強会でもしてたんだろうけど。 今度俺が、きわめて高校生らしい正しい休日の過ごし方を心の底から伝授してやりてえ。 なんか、色々ツッコミたくて、顔を上げた。 ら………何だろう。 すっげ、空気ピンクなの、気のせい? 石田が笑ってた。 一護も笑ってた。 いや、笑顔なのはわかるけど、友達と一緒にいれば俺だって楽しいから笑顔になるけど……今の話のどこに笑う要素あったんだ? それに、いやまあ一つの机で、一つの教科書使ってるわけだから、必然的ではあるのかもしんねえけど、ちょっとアンタら顔、近くねえ? 気のせい? 補習は、石田に教えて貰ってなんとか提出できた。たぶん、俺にしてはあり得ない程度にほぼ完璧だと思う。 「石田は、独り暮らしなんだよな?」 「うん。これから夕飯の買い物だよ」 「なんか羨ましいけど、大変そう。洗濯とかも全部自分でやんだろ?」 「羨ましがる事もないと思うけど、大変でもないかな。慣れれば、たいしたことないし。雨の日が続いたりすると、たまに面倒だけどね」 「でも料理も自分で作るんだろ?」 「そうだけど?」 「コイツこんな外見のくせに意外と料理上手いんだよ」 一護が石田の事をなんだか誉めた。 「黒崎、どういう意味だ? 外見て関係ないだろ」 「へえ、石田料理なんかすんだ」 確かに、石田って、見た目はちょっとお坊ちゃんぽくて、愚民共と喋る口なんかないって孤高なオーラ出して、家には家政婦とか居て、男子厨房に入らず的な昔気質な家で育ってそうなイメージあった。 料理するんだって、意外って言うか……そっか。 「まあ……食費は節約したいからね」 「すげえなあ、石田」 俺は家じゃ、適当に中流家庭で、姉に怯える以外ではなかなか快適な生活を送っているからなあ。 大変だとは思うけど、男の胃袋掴める女は強いって言うけど、今じゃ男女平権の時代なんだから、料理ができるってポイント高いよな。料理が旨いは、モテ要素に含まれると思うから、素直に関心した。 「そうでもないよ」 「いや、すげえって」 「そうなんだよ。石田の作った筑前煮とかすげえ旨いぜ?」 「……そう?」 「だし巻き玉子も好きだけど、あとアオサの味噌汁も……じゃなかったら、揚げ出し豆腐……」 「……解った」 ……今、石田は何が解ったんだ? 「寒いから水炊きにしようかと思ったけど」 「あ、やっぱそれがいい」 今解った事と言えば、一護が石田の作った飯、けっこう食ってるらしいって事くらい。そんで一護は石田の作る飯が好きらしい。 せっかく料理上手いってのに、女子じゃなくて一護の胃袋なんか掴んでどうすんだろうか、石田は。 → 20120408 |