【雨の日】 01







 結局雨は、降り出してしまった。


 珍しく、何も予定のない休日だったので、散歩も兼ねて図書館で本を借りた。
 家を出た時にすでに曇っていたが、天気予報は夕方から雨の予報で、図書館までそれほど距離があるわけでもなく、戻って来るまでなら大丈夫だろうと、安易な判断をしてしまった事が悔やまれる。唯一の救いは、洗濯物を干していなかったことだけ。

 傘も持ているわけではない。図書館から家まで徒歩では三十分ほど。


 図書館に戻り、しばらく雨宿りをしようかとも思ったが、予報では明日まで降り続くと言っていたのを思い出す。止むのを待つ事も出来ない。

 と、なると、やはりバスを待つしかない。バス停には、雨を凌げる屋根がついていたはずだ。ここから乗車すれば、家のそばのバス停まで行ける。


 雨を避けるように小走りに向かったバス停から、バスの後ろ姿を見送った。
 残念ながら、今しがた、バスは行ったばかりのようだった。

 時刻表を確認すると、次は一時間後。バスが出ている事は知っていたが、今まで利用したのは数回。その時は空いていた。あまり活用されていない路線なのだろう。ここから駅までも、遠いわけではない。


「いつも遅れるのに……」

 こんな日に限って……と、雨竜はつい独り言を漏らしてしまう。
 特に用事が無かったとは言え、こんな時間の潰し方をするのは本意ではない。


 唯一助かったのが、先ほど借りた本。最近気に入っている作家の小説。
 家で、お気に入りの奮発して購入した紅茶を入れて、落ち着いて読もうと楽しみにしていたのだが……。


 雨竜は、ページをめくる。














 雨脚が強まったように感じ、ふと腕時計を見ると、まだ十五分しか経っていなかった。

 集中すると一時間くらい時計など気にならないのだが、さすがに、こんな場所で立ちながらでは、すぐに集中力も途絶えてしまう。
 激し雨ではないが、やはり傘もないのであれば、濡れる覚悟は必要だ。借りた本もぬらしてしまうだろう。この辺りにコンビニでもあれば、傘を買って帰る手段もあるのだが、生憎、この辺りの地理は乏しい。店を探している間に、濡れてしまう。

 やはり、バスを待つしかない。

 溜め息を吐いた時に、雨竜は大きな霊圧が動いた事に気付いた。


 間違えるはずはない、一護のものだ。
 こんなに自己主張の激しい霊圧は、一護以外ではまだ会った事がない。きっと、他に居ない。


 近づいて、来ている。

 図書館にでも用があるのだろうか。このあたりには図書館しかない。



 雨竜は本から目を離さずに、少しづつ近付いて来ている距離を、測る。


 500メートル。300メートル………。


 真っ直ぐに、雨竜に近付いて来ている。

 一護の事だから、霊圧を探るなどしないだろう。
 雨竜も、「探る」事をわざわざしているわけではない。長年、滅却師として、習慣化してしまっている。肌で風向きを感じるようなものだ。意識して霊圧の位置を探るのは、虚の出現が明確化した時だけだ。

 けれど、一護の霊圧は、大き過ぎて、動けばわかる。遠い場所で動かなければ意識もしないが。


 近付いて来ている。

 そろそろ、図書館に着くだろう。
 そして、建物に入って行くのだろう。


 死神だから、と、そんな理由で一護を避ける事もなくなった。教室で会えば挨拶ぐらいは交わす。用があれば話しかけたりもする。
 時間もあるし、図書館に向かうだろう一護に挨拶をしようかと、少し考えたが……すぐに、考え直す。

 どんな理由で会えば良いか、考えた。

 ここに居る事を雨竜が隠す必要などはない。一護の霊圧を感じて近くに居るようだったから。本当にそれだけだ。
 だが、それでは、一護がプライバシーを侵害されている気分にならないだろうか。
 見張られているような気分にならないだろうか。

 それならば……偶然を装い、あたかも今来たように振る舞えば、近くに居たから霊圧を感じて会いに来たと言わなくても済むが、わざわざ嘘を吐く必要性もない。偶然会ったからと言って、一護が雨竜にその理由を聞くことがあるとは思えないが……。


 やはり、一護がこのまま図書館に向かい、雨竜がそれを伝えなければ、それで終わる。
 それが一番面倒ではない。

 わざわざ会う必要もない。特に用もない。どうせ、明日学校で会う。



 そう、思い、雨を見る。

 このまま、明日まで降り続く雨を見る。




 鬱陶しい。
 昨日、台所に黴を見付けてしまった。洗濯物は部屋干しになり、生乾きの嫌な匂いがして、結局洗い直す羽目になる事もたびたびある。


 溜め息を吐く。












20120123